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第11話 二卵性双生児が入れ替えトリックしようとしてる

 もう古典的なんで、双子の入れ替えトリックとか試そうとしてる人はさすがにいないと思いますけど、もしやるならちゃんと下調べしてください。


 この前会った兄妹なんかもう見てられなかったですよ……。



〜 〜 〜



 知り合いと地方にある怪しい館に行ったんです。殺人起こりそうだなー、なんて思ってたら、館に住む人の中に(あおい)って名乗ってる子が2人いるんです。


 ひとりは可愛らしい女の子で、もうひとりは美少年なんです。でも、絶対にその2人が一緒にいるところは見られないんですよ。


 知り合いとコソコソ話してたんです。なんか変だねって。まあ、私はこの時点で分かっちゃったんです。だから、ちょっとした隙間時間に女の子の方をこっそり呼び出しました。


「えと、なんですか、鈴木さん……?」


「何かしようとしてるよね?」


 葵ちゃんは目を逸らします。まだ小学生くらいですよ。嘘つき慣れてない感じが可愛いんです。


「ううん、何もしようとしてない」


「お兄ちゃんいるでしょ?」


 そう訊くと、ハッとした顔で私を見るんです。明らかに隠し事してんの。


「い、いないよ……。(あかね)はね、あっ! 葵はね……お兄ちゃんいないよ……」


 図らずも自白することになった茜ちゃんにお兄ちゃんを呼んでくるように言いました。めっちゃ悩んでたけど、内緒にするからって言ったらトテトテ走って行きました。健気な子なんだよ、きっと。



※ ※ ※



 現れた葵くんは身長も見た目も全然違うの。これで同じ名前を名乗ってるんだからどう考えてもおかしいでしょ。


「な、なんですか? 手短にお願いしますよ。こんなところ見られたらダメなんですから」


「いや、じゃああなたは意地でも来ちゃダメだったでしょ」


「……なんのことですか?」


 葵くんも小学生くらいでしょうかね。そんな子がしらばっくれようとしてんです。ここはちゃんと言わないとって思いましたね。


「ねえ、双子の入れ替えトリックやろうとしてない?」


「な、なんで!?」


 2人ともめちゃくちゃ狼狽してるんです。子供が殺人計画練ってるって事実よりもこのピュアさでどうやって乗り切ろうとしてたのか問い詰めたいもんです。


「ぼ、ぼくの計画は完璧だったはずなのに……!」


 ああ、子供時代にありがちな万能感でここまで来たんだなーって思うと、なんか愛おしく感じますよね。でも、どこも完璧じゃねーよ。茜ちゃんも不安そうな顔をしてます。


「お兄ちゃん……」


「あのね、普通双子の入れ替えトリックって一卵性双生児がやるのよ。二卵性でやってる人いないから」


「え、そうなんですか!」


 葵くんがめっちゃびっくりしてるんです。私、思わず笑いました。


「当たり前でしょ。一卵性双生児じゃなきゃ絶対ダメだよ。あれでしょ、2人一役みたいにしようとしてたでしょ?」


「なんでそこまで分かるんですか」


「だって明らかにおかしかったもん。1人を演じようとしてるなーって、さっきまでみんなで話してたんだよ」


「え、そうなんですか! バレバレじゃないですか……!」


「そりゃそうでしょ。見た目が全然違うんだから……」


「一卵性じゃなきゃダメなんてマニュアルになかったけど」


「なんのマニュアルだよ。さっさと捨てなさい。っていうか、当たり前でしょ。入れ替わるんだから二卵性だったら意味ないよ。見た目が区別できないくらいじゃないと双子のトリックなんてやっちゃダメだから」


「そうだったのか……」


 葵くん、この歳で計画を練る気概は買うけど、将来が心配だな……。茜ちゃんもお兄ちゃんをギュッとしてるよ。なんでこの兄にこんないたいけな妹がいるのよ。


「あのね、双子トリックも戸籍とか調べられてバレないようにしないとダメだから。2人の戸籍どうなってんの?」


「戸籍、ですか……」


「普通に病院で生まれてるよね、たぶん。じゃあ、出生届とか普通に役所に出されてるわけよ。まずはそういうところから始めないと」


「どうすればよかったんですか?」


「どうすればって……まあ、まずは一卵性で生まれてこないことにはね……。あとは、片方しか出生届出てないとか、そういう昔っぽいことがないと双子トリックなんてやっちゃダメだよ。もうそんな時代じゃないからね」


 もうなんか2人ともすんごい意気消沈してるんです。思わず訊いちゃいましたよね。


「誰を殺したかったの?」


 いや、私だってこんな好きな人誰? みたいなノリでこんなこと訊く日が来ると思ってないですよ。


「おじさん。ぼくたちを引き取ってから酷いことしてくるから」


「あー、そういうタイプのやつね。それだと動機も見え見えだから、双子のトリック以前にめちゃくちゃバレるね」


「そ、そんな……」


 葵くんが床に手をついて絶望してます。茜ちゃんが抱きしめてあげてるの、健気すぎて泣ける。今までも辛いことがあった時にお互い支え合ってきたんだろうね。


「いっそのこと2人で数的有利を活かして普通に殺したほうがいいかも」


「分かりました。考えてみます」


 私の一言で葵くんは元気が出たみたいです。ちょっと清々しい顔してるんです。いいことすると気持ちがいいね。


 結局、何事もないまま滞在期間が終わって帰ることになりました。葵くんと茜ちゃんがいっぱい手を振って見送ってくれました。この期間でめちゃくちゃ仲良くなったんでね。


 あと、2人には申し訳ないんだけど、そっと児童相談所にチクっときました。

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― 新着の感想 ―
 鈴木さん、いたいけな子ども二人に何をそそのかしてるんですか!?  と思いつつ、ラストを見て一安心。餅は餅屋、プロに任せるのが無難ですよね。
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