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虹の橋を渡って

作者: Aju

「菊池祭り」のために書いたお話ではなかったんですが・・・


無理やり「菊池祭り」参加作品です。


 トンボってさ。

 性器の先に鉤針がついててさ。

 前のオスの精子を掻き出して自分の精子をメスに入れるんだって。

 学校でだったか、テレビだったか、そんな話を聞いた記憶がある。


   ♂   ♂   ♂


 殴られていた。

 お母さんの方を見ても、お母さんは下を向いてるだけで何も言ってくれなかった。


 一時保護。とかいうことで、知らない場所に連れて行かれたこともあった。

「お母さんに会いたい。」

と言ったら、しばらくして家に戻された。


 でもお母さんのそばには、またあの殴るおじさんがいた。

 お母さんのそばにはいたいけど、殴られるのは嫌だった。

 なんで殴るの?

 ぼくが離婚したお父さんの子だから?


 ただただ怖くて痛かった。

 おなかを蹴られたあと、すごく気持ち悪くなった。

 でもお母さんは、お医者さんには連れて行ってはくれなかった。

 ・・・・・・・・・

 そこから先は、よく覚えていない。


   ♂   ♂   ♂


 気がついたら、ぼくはあったかい場所にいた。

 あったかい場所——という以外、よくわからない。

 見えも聞こえもしない。

 上も下もよくわからない。

 ただ、安心感だけがあった。


 そのうち耳が聞こえるようになると、2人のおじさんと1人のおばさんの声が聞き取れるようになった。

「ほら、手の指がわかりますか?」

「ほんとだ。かわいい!」

 目は、ぼんやりしてよく見えない。

 というより、光が少ないのだ。

 わざと薄暗くしてあるらしいことが、おばさんの声でわかった。

 大きな大人2人の影と、少し小さな白っぽい大人の影。3人の影がぼんやりと見える。

 白っぽい大人は毎日のようにそばにやってくるおばさんの影だ。


 ぼくはぼんやり見える影を、ガラスの筒の内側から見ていた。


「まだ光を当てられる時期ではありません。赤外線でご覧ください。」

 おばさんの声はそんなことを言っていた。


 体が少し動かせるようになっても、相変わらずぼくは薄暗い場所のガラスの筒の中にいた。

 温かいぬるま湯の中に浮かんでいるような感じだ。

 でも、いやじゃない。

 むしろ心地よい。


 ゴゴン、ゴゴン、とリズミカルに繰り返す音の中に、きれいな音楽が重なって聞こえる。

 それがぼくを深く安心させた。

 ぼくは何度も眠ったり起きたりを繰り返した。


「あ、動いたよ。」

「かわいいわね。」

「僕たちの・・・本当に、僕たちの子どもだよ。」

 大きな大人2人の影が話す声が聞こえてくる。

「これはモーツァルトね?」

「胎教を兼ねています。もちろん、人工子宮の中には母親の心音も響かせてあります。」


 どうやらぼくは、赤ちゃんからやり直しているらしい。

 それとも、あの時ぼくは死んでしまっていて・・・。これが「転生」ってやつかな?


「順調ですよ。」

 おばさんの声に、大きな大人の影2人が手を取り合ってうなずいているのがわかった。


   ♂   ♂   ♂


 いい時代になった。と思う。

 かつては同性の結婚さえ認められない時代があった。

 それが認められたあとも、男性カップルには実子を望むことが白い目で見られる時代が続いた。

 代理母出産という方法はあったが、女性の身体の搾取だという批判がついてまわった。

 人工子宮という技術が確立された今、あたしたちは誰にも気兼ねすることなく実子を望むことができる。

 女性も、望むなら自ら出産することもでき、望むなら妊娠・出産というリスクを回避することもできるようになった。

 これこそが本当の多様性と自由だと思う。


 いい時代になった。

 あたしのIPS細胞から卵子を作り、マスオの精子と合体させて・・・。あたしたちの子どもが今、目の前で命を鼓動させている。

 愛おしくて愛おしくて仕方がない。


「ボクより愛してしまうんじゃない? ナミヘイ。」

「マスオだってぇ。もう今からデレデレじゃないの。」


 ガラスの筒の中で時折伸びでもするように動いている新しい命を、あたしたちは泣き出しそうになるくらいの気持ちで見つめていた。

「あたしたちね、もうこの子の名前を決めたんですの。」

「Tara。」

「そう。菊池Tara。」

「不思議なお名前ですね。」

「男の子とも女の子ともつかないような名前が、僕たちの子にはふさわしいと思って。ね、ナミヘイ♡」


   ♂   ♂   ♂


 タラ? 変な名前・・・とぼくは思う。

 前のぼくの名前は・・・・あれ?

 いや待て。 ぼく? それとも今は、あたし?


 体が動くようになるにつれ、だんだんと前の記憶が薄れてゆく。

 だんだんと記憶が真っ白になってゆく。

 そして、たぶん、生まれる頃には何も覚えてないんだろう。

 転生して、チート能力で無双——なんてゲームやアニメにはあったけど、ウソじゃん。


 そうだよね。

 殴られた怖い記憶なんて忘れて、ゼロからやり直せるから「赤ちゃん」なんだよね。

 ああ・・・・白くなる・・・。

 お母さんの名前も、もう思い出せないや。


 今度は、菊池Tara——か。


 さよなら。

 前のお母さん。


 今度のお父さんは・・・お父さん?・・・だよね?

 2人とも・・・

 優しそうだよ。





        了



とにかく「菊池祭り」に参加しようと、無理やり無意味に「菊池」を入れました。

いやほんと。。この名前に意味ないっすよね。(^◇^);

別に「磯野」でも良かったわけだし。。。(いや、これだと著作権上若干問題あるかも。。)

そもそも苗字なくてもこのお話は成立してるし。。。


お祭りなんで、許してね。。(´ω`#)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 哀しすぎる冒頭から……最後は明るい未来を感じられてホッとしております。 前の記憶は綺麗に忘れて、今世は幸せになってくれるといいなと思いました(;_;) お父さんが二人でも、お母さんが二人で…
[良い点]  ひとつの命を誕生させるということなのですから。  一概に良い悪いと振り分けられませんよね。  たくさんの苦難を乗り越えての未来、なのでしょうね。  良いも悪いも使う側の心。  彼らなら…
[一言] 人工子宮、確かにこれは多様性の認められた社会のひとつの形なのかもと思いました。 誰もが子どもを望むことができる。それは同性であっても。 その愛情の先にこんな未来があればいいなぁと思いました。…
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