狂神中枢1
地下壕は入口こそ床板一枚分、何とか大人一人がくぐれるぐらいの広さしかなかったが、そこからすぐに地下通路と呼ぶべき広さの場所に出た。
その広い地下壕を、俺たちは息を殺しながら進んでいく。
地下の存在を知らされた時、俺たちのCPが下した結論は、危険を承知でそこを利用するという事だった。
地上からの潜入が難しくなってきている上に、病院を包囲せんとする敵部隊の接近が確認され、地上での移動は不可能との判断が下ったものだった。
また同時にブラヴォーが蒲生邸を脱出、まだ警戒の緩い=上空から確認された増援部隊が向かっている以外に敵の気配のないこちらは地上を移動し、小斎寺のある山の東側に回り込み、陽動を行うとしている。
即ち、地下から潜入する我々が救出の本命となる訳だ。
「アルファ指揮官よりCP、広い場所に出た。前方三方向に進路があり、我々は空間の最西端にいる。どこに進んだらいいか教えてくれオーバー」
地下ドーム、と呼ぶのには狭い気がするが、しかしそれまでとは明らかに異なる開けた場所に出る。
「何だ、ここは……?」
蜂起した部隊が地下壕を設営したという話は聞いていたが、この辺りは明らかにそれだけで説明がつくものではない。
「まるでカタコンベだな……」
ネロがその空間を見上げながら呟いた。
昨日今日掘られたものでないことは明らかで、急場ごしらえのものでもない。
明確に地下に空間を作ろうという意思を基にして大規模な土木工事を行ったことが、石垣のような壁の一部や、しっかりとした束石の上に聳える太い柱等所々にうかがえる。
「了解。真ん中の通路を進む。アルファアウト」
レイマンが通信を終え、視線が回答にあった正面に見える通路を示す。
「真ん中だ。警戒して――」
そこで一時中断。
広い空間のクリアリングを行っていた我々全員が、それら全てに割り込んできた命令=進行方向から現れた敵から身を隠すを優先した。
無論俺とて例外ではない。敵が来るかもしれないというリスクを負ってでも、一番左側の、もと来た場所からほぼ直角の通路に飛び込んで、進むべき方向に目を向ける。
直後響いた銃声を、奇妙な咆哮がかき消した。
「ふぉおおおおおおおおおおお!!!!!!」
ハイテンションの絶叫。そして駆ける足音と弾をばら撒いていると分かる銃声。
頭を下げたままそれだけを聞き、そして同時に誰かが反撃した音を聞く。
「おおおおおぎゃっ!!?」
叫び声の語尾が奇妙な形になって途切れた。
そこで初めて頭を出して現状を目視。一人のまだ子供みたいな兵士が、反撃を受けて石垣に磔になるような姿勢でずるずると崩れ落ちていく。
「ああああああああああああああ!!!!」
「ばばばばばばばあああああああああああ!!!!!」
更に続く絶叫と、同様に飛び出してくる同様の兵士たち。
防弾装備もなく、しかし恐怖心もないような突進で俺たちのキルゾーンに飛び込みながら、射撃訓練すらまともに受けていないような腰だめの姿勢で弾をばら撒き、その弾以上に咆哮する気勢を辺りにまき散らしている。
「ジャンキー……ッ!!」
誰かが漏らし、反撃によってひっくり返った兵士を飛び越えながらもう一人が、弾の切れたライフルを投げ捨てるのが見えた。
「糞野郎!!」
直後、そいつが宙返りのような形で崩れ落ちる。
自由になった奴の両手は、チェストリグの真ん中にある妙に膨らんだポーチ群に伸びている。
反射的に身を隠し、その場に伏せた。
頭を通路の先に向け、両手でその頭を覆う。
直後、凄まじい轟音と共に世界がシェイクされた。
砂埃、というよりも砂塵と小石の砂嵐が全身を覆い、一瞬呼吸が出来なくなる。
何が起きたかを冷静に脳みそが整理し終えるのは、その衝撃が収まるのを待たなければならなかった。
「狂人め……!!」
だいぶ砂を吸ってむせ返る口から吐き出したその声は、自分でも驚くほどに苛立っている。
防弾装備もない若い兵士。恐らく薬物を投与された兵士。
彼等の仕事は俺たちを殺すことで、恐らく低練度なのだろう彼らに与えられた手段は、自らを弾にしての自爆。
まだ子供のような、兵士とも言えないような練度の者達を薬漬けにして、爆弾の輸送手段として使う。アフリカや中東で経験した、この世の終わりみたいな戦法。
それを、戦時中ですらない現代の日本で味わうことになる――その事実は、吐き出した一言以上の言葉を必要とさせなかった。
「全員無事か……」
レイマンの声がインカムに響く。
「アルファ2異常なし」
「アルファ3異常なし」
それぞれ返答。俺もそれに続く。
「アルファ5異常なし――」
言い終わり、アルファ6に繋ぐ直前に妙な音が割り込んだ。
地響きとも、砂が流れる音ともつかず、そのどちらにも当てはまりそうな音と、天井からさらさらと流れ落ちる幾条かの細い砂の滝。
「待て……」
同じ音を聞いてレイマンの声。
全員が息を呑む一瞬。
そして直後、複数の叫びが響いた。
「まずい!下がれ!!」
その声と、至近距離の落雷のような轟音が響くのはほぼ同時だった。
「ッ!!」
一瞬、世界が無くなった。
真っ暗闇と、空間全てを埋め尽くす砂塵。
そしてそれら全てが耳を聾する大音量をまき散らしているような、凄まじい空間。
落盤だ――その事に気付くのは、自分の数m先の、先程まであった地面が天井まで届く巨大な土砂の山に変わっているのが目で見て分かるようになってからだった。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




