突入前夜8
俺たちは一斉に広がる。
闇の中で、目立たないように地面を這うように、しかしスピードを落とさずに。
下車した部隊が麓に差し掛かった時には、彼らが進んでくる道の左右から攻撃できる形に分散して身を伏せていた。
「敵軽歩兵が12……」
インカムにレイマンの声。
次いで彼が自らのM4にマウントしていたレーザーが、斜面を登ってくる一団のうちの一人の胸を照らす。
「こいつをやる。2はここだ」
そう言って、レーザーがTAR-21を撃ち込むべきその近くの別の敵兵に移る。
連中の装備は揃いのウッドランドに似た迷彩服の上下にタクティカルベスト。手にはAK-74を抱え、スリングにそれを任せてフラッシュライトで辺りを照らしている者も何人か。
恐らく訓練は受けているのだろう。
だが、動きを見る限りその練度はお世辞にも高いとは言えない。精々新兵程度が関の山だろう。
「3はこいつを」
その練度と、暗視装置の類を持っていないが故にこちらを見つけ出せないうちに、レーザーは次々と攻撃する相手を捕捉していく。
暗視装置越しになら緑色に見えるその赤外線は、その類のない連中には例え顔面に照射されても知覚することはない。
12人の兵士のうち、最初に狙われることになる6人が選定され、恐らく見えるどころかそこにいることを想像すらしていないだろう連中が、それぞれ割り振られた人間のサイト内に収められる。
更にもう一週、それぞれが今見えている者を無力化した次のターゲットを指定するレイマンの声。
「まだだ……もう少し引きつけろ」
その声に従って、一人目のターゲットにレッドドットを重ね合わせて追尾する。
手に持ったアサルトライフルはハイレディ=銃口を上に向けてストックを脇の下に落とす形のままで辺りをきょろきょろ。
何かの拍子に暴発した場合密集した仲間の頭を吹き飛ばす恐れがある姿勢のまま、横の仲間が照らしている方向=俺たちの誰もいない方向にばかり注意を向ける。
やはり練度は恐れるに足りない。
その素人集団が、続々とキルゾーンへと足を踏み入れるのを、ただ感情もなくドットサイト越しに見続ける。
ハンドガードにマウントしたIRレーザーの照射が奴の体の上でドットに重なり、その状態を維持したまま水平に追いかける。
同時に左目は敵部隊の全体を監視。連中の最後尾が――他の奴と同様見当違いの方向に注視しながら――キルゾーンに踏み込んだところでレイマンの簡潔な命令。
「やれ」
そこに明確な反応はない。ただ一つの例外は反射的に動いたのは指先だけ。
くぐもった銃声が立て続けに二発。俺以外の五人も同様に。
「ッ!!」
一斉に六人の敵が奇妙な動きで行軍を中断して地面に崩れ落ちていく。
それに気づいた残りの半分も、すぐさま後を追う。
十二挺のアサルトライフルはその間ただの一発も火を噴くことはなく、恐らく何をされたのかも分からない内に倒れた持ち主の上に転がっている。
「タンゴダウン」
動かなくなったのを確かめると、奴らを挟んで反対側のレイマンが立ち上がるのが見える。
「クリア。雑木林に死体を隠せ」
他の連中と同時に立ち上がり、今しがた片づけた連中の下へ。念のため足元のそいつらにもう一発ずつ。確実に死んでいることを確かめる必要がある。
十二人全てが一切の反応を返さなかったことを確認してから、指示通り雑木林へ運ぶ。木々が密なそこは通り抜けるのは難しそうだが、放り込んだ死体を隠すのには丁度いいだろう。なにより中に立ち入れないという事は、こいつらを探しに来た連中だって探したがらないという事と同義だ。
一人ずつ、そこに放り込んでいく。既に意識のない肉体は重いが、二人がかかりで手足を持って大きく振れば、その重さが慣性となって手を放すだけで飛んでいってくれる。
そのために掴んだ腕に着けられた部隊章は、ニュースか何かで見覚えのあるものだった。
「こいつら全青鉄か……」
全青鉄=全国青年鉄血連合。日本国内に存在する極左テロ組織。
かつての学生運動を更に先鋭化したような武力闘争路線で知られており、その急進的姿勢は味方であるはずの左派言論人やメディアでさえ「弱腰」「権力におもねる卑怯者」「解放運動家を堕落させる敵」として実力行使を辞さず、故に左派からも擁護されないという筋金入りの武闘派組織だ。
その構成員がこれ程に若い層を抱えている事が驚きだが、出来る人間がいるなら訓練キャンプに送り込みたがる組織であるというのは納得できるような連中だ。
更なる驚きは俺とジェイが二人目に取り掛かったところで起きた。
「突撃隊司令部より二突小隊長へ。同志教官より連絡。変電所の確認に向かい送電状況を確認せよ。完了後報告。オーバー」
「二突了解。変電所に向かうアウト」
持ち上げた相手の無線から声。当たり前だが間違いなく日本語の無線だ。
「なあ通訳、今の無線分かるか?」
ジェイに聞かれてとりあえず聞き取れた内容を伝える。
指示としてはおかしな点はないだろう。二突、恐らくは第二突撃小隊が変電所の近くにいるということだ。
当然そこだけ監視ということはないだろうから、ブラヴォーに警戒するよう伝えておく必要はあるだろう。
では、その指示を下した同志教官とは?思い当たる人物は一人しかいない。
「じゃあその同志教官ってのは……」
「恐らく呉英龍だろう」
いよいよ奴の目的が分かってきた。
大明技研の従業員として潜伏し、訓練キャンプで国内の不穏分子を育成する――工作活動としてはあり得る。
だがだとすれば、今回の騒ぎはどういう事だ?
露見しそうになって捜査員を口封じ――そこまでは分かるが、村を要塞化して立て籠もる必要性は全くないどころか、大人しくしていれば隠し通せただろう大明技研の裏の顔を態々アピールするようなものだ。
その点は、隣で自分の担当した奴を放り込んでいたラニルも同意見だったようだ。
「よく分からんが、その訓練キャンプの教え子に軍隊ごっこさせているのはどういう訳だ?こいつらだってテロリストだ。わざわざ警察相手に挑発するような真似は自殺行為だろ」
「とにかくだ」
部下たち三人の無駄話を我らがアルファ指揮官は一言で打ち切る。
「その辺は追々分かってくるだろう。俺たちはレポーターじゃない。仕事に戻れ」
「「「了解」」」
それでも手に入れた情報は共有しておくつもりだろう、部隊間通信でブラヴォーに呼びかけ、注意を促す。
全ての死体を隠し終えたのはその後すぐだった。
「アルファ指揮官よりゲイザー1、周囲に敵影は確認できるかオーバー」
「こちらゲイザー1。村内にはいくらか動きが見えるが、そちらの周囲と郷土資料館までのルート上には見られない。今なら移動可能だオーバー」
「了解した。移動を再開する。アルファ指揮官アウト」
再び俺たちは動き出した。山を下り、未舗装道路にそって郷土資料館へ。
いよいよここから村の中心へ。つまり、何の理由かは分からないが武装勢力が支配するその中枢へ。
(つづく)
投稿大変遅くなりまして申し訳ございません
今日はここまで
続きは本日19時頃に投稿予定です




