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狩野の苦悩

普段はあまり人が立ち入らない、救急病棟の屋上に背が180cmと高く、鋭い眼光に見えるのだが暖かい眼差しを感じさせる短髪の男性が、救急科長である、金田と話していた。


狩野 実である。


「で、狩野くんどうするか決めたかね?」


悪い顔つきで尋ねる金田


「選択肢なんて最初からないじゃないですか」


悔しそうに答える狩野


「うんうん。懸命な判断だよ。狩野くん。では、そんな狩野くんに最初の仕事をあげようではないか」


金田は狩野の手に小さな機械を持たせた。


「これを、特別救急医療科の受話器の中に仕込んできなさい」


「これって‥‥」


「もちろん。盗聴器だよ」


「いや、そんな事聞きたい訳じゃないんです。何故そんな事をしなくてはいけないんですか?」


「なぜって?この病院の為だよ。この病院のゴキブリを叩き出さないと行けないからねぇ」


「何を言ってるんですか?貴方は!!」


「ふん!意味がわからないなら別にいいですよ。ただ貴方は私の言う事を聞いてれば‥‥」


「私はそんな事出来ません!」


狩野は盗聴器を返そうとしたのだが、金田は間髪入れず言った。


「残念だな〜。君の弟くんもう元気になったから、退院してもらわないと」


狩野は盗聴器を返す手を止めた。


「うん!いい子だね。いい子ついでにもう一つ仕事をあげよう。盗聴して、特別救急医療科の不祥事を見つけ出してもらおうか」


「くっ‥‥わかりました。」


狩野は、マリナと京子に申し訳ない気持ちで一杯になった。


特別救急医療科でマリナは久々の爽快感を味わっていた。一つの問題が解決したからだ。


「竜眼先生〜。いい加減に教えて下さいよ〜。なんで心不全ってわかったんですか〜」


あれから、何回も聞いているのに中々教えてくれない竜眼先生


「‥‥」


全く答える気がない竜眼先生は黙って立ち上がり部屋を出て行こうとした。


「また、病棟にいくんですか?私もついて行っていいですか?」


「‥‥好きにしろ」


凄い珍しい反応で驚いて、一瞬固まってしまったが、私は好奇心を抑えられずに、竜眼先生の後についていった。


ガチャリ


二人が去ったあとに、特別救急医療科のドアが開いた。狩野である。


「ほんとは、こんな事したくないのに‥‥」


小声でブツブツ言いながら盗聴器を仕掛けて部屋からでていった。


病棟をひと回りしてきた竜眼と特別救急医療科に戻ってきたマリナはつまんなそうにしていた。


「竜眼先生、今日は何にも指示しませんでしたね」


「‥‥」


竜眼は何も答えずじっと電話を見つめていた。


「竜眼先生?‥‥電話がどうかしたんですか?」


「いや、別に‥‥」


竜眼はそう答えるといつも通り、ベットに横になった。


「そうですか!」


少しムカついたが、いつも通りの冷たい反応にこれ以上聞く事を諦め、お茶を自販機に買いに行こうと振り返ったとき、コンコンとドアを誰かがノックした。


「はい?」


そう答えると、ガチャリとドアが開き一人の若い女性の看護師が入ってきた。


「うん?どなた?」


「すいません。私は脳神経外科病棟の看護師の高田 夏美と言います。あの、実は竜眼先生に、ご相談があるんです。」


「竜眼先生に?」


きっと話を聞いてくれないだろうなと思いつつ竜眼先生に声をかけた。


「竜眼先生〜。お話があるそうですよ」


「‥‥」


やはり、返事をしない。


「ごめんね。竜眼先生こういう人はだから。私でよければ話を聞くよ」


高田 夏美は少し考え、頷き答えた。


「お願いします」


彼女は部屋に入り何もない床に座り、話し始めた。


「実は、一人の患者さんについてご相談があるんですが、その患者さん昏睡状態が続いているんです」


「植物状態って事?」


「はい。学校で転倒してうちに運び込まれてきたんですが、もう、1ヶ月たつんです」


「それは、もう目覚める確率は低いわね。かわいそうだけど」


「そうなんですが、でも、私が看護してると、少し指を動かしたりして反応するんです」


「それが本当なら昏睡状態ではないわね」


「ええ、担当医に言っても信じてもらえないかったので、いつも、病棟を見回って、アドバイスをくれる、竜眼先生ならなんとかしてもらえるんじゃないかと思って」


「なるほどね。でも、そんな事してあなた大丈夫?」


私はここ最近の出来事で彼女が大変な目に遭う事になるのを理解していた。


「私がどうなるとかよりも患者さんの方が心配です」


「ですって、竜眼先生どうしますか?」


高田の言葉を聞いた、竜眼先生は起き上がり、高田の方をみて言った。


「お前気に入ったよ。わかった。任せろ。俺を信じろ!」


「あ、ありがとうございます」


「で、患者さんの名前?」


私は高田に聞いた。


「はい!狩野 健さんです」


さっき病棟を見回った時そんな名前の人いなかった気がするけど、なんかの間違えかな?と思い尋ねた。


「狩野 健?そんな人、入院してましたっけ?」


「昏睡状態なので、普通の病棟にはいないんです」


「なるほどね。じゃあ、案内、お願いね」


私と竜眼先生は高田の後について行った。


一方その話の内容を聞いていた狩野実は悩んでいた。

主治医に相談なく行動している3人は問題であるから金田に報告する必要があるのだが、昏睡状態でいる患者は実の弟だからだ。

この事を金田に報告すると弟を巻き込む事になるかもしれない。でも、だからといって報告しなかったらしなかったで、後から、バレたら、弟と共に路頭に迷うかもしれない。どちらが正解かわからなくなっていた。




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