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◇反逆の決意(第二王子ロベルト視点)

「お父上……! お父上はいらっしゃいますか!?」


 大声で呼ぶと、玉座に座っていたリーベルト王国国王――フィーゼル・リーベルトは黒い髭を()でつつ顔を上げる……。


 声を張り上げた勢いのまま謁見の間の奥に進み、怒りに燃える瞳で国王である父を睨みつけた僕の名は、ロベルト・リーベルト――この国の第二王子だ。


 今回こうして、実の息子であれど国王に対して無礼とも言える行動を起こしたのには訳がある。


 兄である第一王子カシウスが起こした婚約破棄騒動をこの父親が黙って見逃したためだ。


「なぜ兄上の、あのような無体な要求を通したのです!」

「……落ち着きなさい。結婚相手が三女から長女に変わっただけだ……さほどおかしなことではなかろう」

「ですが、あれではあまりにもリュミエール侯爵令嬢が憐れにございましょう! 父上は兄上に甘すぎます!」


 いつもそうなのだ……国王陛下は、第一王妃であるマリアを寵愛しており、彼女が生んだカシウスを特に可愛がっている。そして、僕や下の兄弟にはほとんど興味を示さない。


 それ自体はある程度、運命だと納得せざるを得ないとわかっている。もし、カシウスが公明正大で、文武に優れ、人の心をつかむ力が有ったなら……いや、せめてそのような名君では無くても、ある程度普通の感性を持ち、王としての責任を全うする気持ちがあったなら、僕は喜んで彼を支えるつもりだった。


 だが、カシウスは、容姿こそ優れているものの……高度な教育を受けてもなんの才能を示さず努力もせずに、王太子としての権威だけを振りかざしていて城内の評判は(かんば)しくない。


 それに対し唯一意見できるのが、目の前の父である国王だけだというのに……彼は兄カシウスに対して望むものがあれば全てを与え、愚行を(いさ)めることもしなかった。その関係が、悪循環となって今のカシウスの性格を形作ったのだと、父上は果たして気づいているだろうか。


「それだけではなく、諸侯への外聞も悪すぎます! 次期王たる方があのようなふるまいをされては、いつあのような扱いを自分達がされるのかと、貴族達の心も離れましょう! どうか、ご再考を……」


 こんなことが繰り返されれば王家への信頼は揺らぎ、国を割ってでも秩序を取り戻そうという人間が現われ、内戦にもつながりかねない。あのカシウスの性格であれば、王になれば今以上に好き勝手を繰り返すに違いない。


 この国の平和を守りたい一心での忠告。

 だが……ロベルトは王の次の言葉に二の句も告げなくなった。


「そうは言うが……カシウスはあの新しい婚約者を好いているようだしなぁ。ううむ、ではお前がその娘を(めと)ってやればよいのではないか!」

「はぁ!?」

「元々その娘がお主に懸想しておったと知ったカシウスが、二人が結ばれるように配慮したと噂を流せば、人の心を(おもんばか)る優しき次期君主であると、ある程度の汚名はすすげよう。名案ではないか……誰かおらんか?」


 早速そんな小細工を始めようとした国王に、僕は顔を真っ赤にして反論しようとした。


「父上! あなたはどこまで……」


 だが父はそれを片手で遮る。


「そう怖い顔をするな。わしもカシウスが名君たり得ぬことはわかっているが……さりとて生まれの順だけはどうにもなるまい。国のことを思うのであれば、どうかお前がうまくあやつを支えてやってくれんか」

(……!! ふざけるな……ふざけるなよ!)


 僕は拳をきつく握り締める。

 国王は兄が……あいつが目下のものをどのように扱って来たか知らないのだ。


 今まで自分の意向に沿わない家人を幾人も城の外に放りだし路頭に迷わせ、美酒や美食に舌鼓を打ち遊び惚けるだけで、(まつりごと)の事などこれっぽっちも考えちゃいない……あいつは、権力を自分の欲の為に使うことしか考えていないんだぞ。


 今まで僕がどれだけあいつの不祥事を内々で収める為に利用され、奔走(ほんそう)してきたか……だというのに。


(僕にあんな奴のおもりを一生しろっていうのか……いい加減にしろっ!)


 この瞬間、僕の覚悟は決まった。

 兄を断罪し……王座をこの手でつかみ取る。


「……わかりました。ですが、かの令嬢はもうハーケンブルグ公爵の元に嫁ぐことに先日決まってしまったようです……。それを覆そうとするのであれば、しばしお時間を頂かなければなりません」

「おお、やっとその気になってくれたか! では兄とこの国をよろしく頼むぞ」

「私に全てお任せください。御心のままに……」


 僕は表面上は穏やかな笑顔を取り繕いつつ、煮え(たぎ)る溶岩のような気持ちを押し込めてその場を辞する……。もちろん、国王の言葉に従うつもりなど毛頭なかった。

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