どれだけ繰り返しても私のものにならないならいっそのこと殺すわって、ヤベェ女に捕まっちまったな。でも、それもいいかな
「私のものにならないなら、この手で殺すわ!!」
人生でいままでこんな愛の告白は聞いたことないわ。大柄なオレと変わらない体格の女。
「ッチ、やはり、避けられたか」
ここは、森に囲まれた王国の国境を守る城砦の中の一室。
オレの部屋まで侵入者に誰も気がつかないってどういうこと? それとも内部のやつが送った暗殺者か!?
「さすがに何度も暗殺者を送ってこられると参るわ」
「何度も!? 何度っていったの? それは私のセリフよ。わ、わたしは何度もあなたと結ばれたくて、アピールしたのに…」
なんだ? いきなり、こちらに不意打ちをしておいて、泣き出したぞ。うん!? この顔は見たことあるな。たしか、剣姫と名高い、チャーウ帝国の第2皇女アイラか。
「毎回、いい感じだと思ったら、オレたちは敵国同士、互いに結ばれることはないのだって、私を捨てたりして!!」
いや、捨てたって? なんのこと!? オレ、王族と言って、母親はメイドで、王の気まぐれで出来たこどもで、婚約者どころか。恋人も女性の友達もいないよ!?
というか、そもそもガチで敵国同士だし!! あなたの国とオレが所属している国って100年以上争っているよね!!
「…思えばあの時も、君のことが大切だって、言ってくれたのに。国の兄弟を裏切れない。って、私を捨てたくせに!!」
捨てたって、付き合ってすらいないのに! なんの話だ!!
「私がこんなにもあなたのことを思っているのに。こんなに何度も人生を繰り返しているのに!!」
何? 言っていることは意味わからないけど。剣姫と言われるだけあって、凄まじい剣技だ。左右の素早い連撃。
「なんども、なんども!!」
いや、本当に何度も凄まじい速さの攻撃を受けているよ。ちょっと、攻撃の手をやめてくれませんか!!
「なのにあなたは必ず、私を裏切って!!」
裏切っているのは、見た目が綺麗な女性なのに華麗な剣技で、オレを責め立てている現状のあなたでは?
「もう許せない!」
よくわからないけど。許して! 剣技が巧みすぎる。気を抜くと切られるわ。
「くそ、こいつは気が狂っているのか?」
意味わからない発言にオレはついつい思っていたことが口から出てしまった。すると、
「気が狂っているんじゃないわ。私はあなたに狂っているのよ」
と、かつてないほどに恥ずかしい発言が耳に聞こえてきたんですけど!!
何!? やめて、生まれてから女性付き合いが母親以外にほとんどないオレにそのセリフは毒だ!? もう、オレのライフはゼロといっても過言ではない!!
「それも、これでおしまいにするわ!!」
そう言って彼女が上段から振りかぶったと思ったら、世界が暗転した。
☆☆☆
オレは惚れ込んだ彼女のために王国を裏切り、その所為で、母国は大打撃を受けた。その功績から帝国の伯爵として迎えられた。ここから彼女と一緒に幸せになるはずだったのに。
「なんで、こんなことするの!? 愛しているって言ってくれたのに!!」
「…オレたちは敵国同士。そこに愛なんてある訳ないだろ!!」
第二皇女が邪魔になった皇帝は、オレに恋人を手にかけるように命令をしてきた。それも帝国に無事に避難してきたオレの母親を人質にしてだ。
唯一の肉親が捕らえられているオレに何ができるんだ。これはお前の親がオレにこんなことをさせているのに…
☆☆☆
…ここはどこだ!?
赤い。赤いぞ? なんだ。オレの手が真っ赤に汚れている? えっ、倒れている女性?
「あなたのために母国を捨てたのになんで…」
アイラからからおびただしい血が噴き出し、まるで池のようになっている。
「妾腹のオレには、王の命令に逆らえる筈がない。帝国は滅んだのだ。もう、お前に利用価値などない…」
すまない。本当にすまない。王に母を人質に取られたのだ。オレだって、君とは…
嘘だ!? 他にもまだあるのか!? やめてくれ!!
☆☆☆
…なんだ? 今の光景は。
「見たの? 私の恥ずかしい過去を…」
あれはすべて現実にあったことなのか?
「恥ずかしいわ。なんども、あなたを愛して、裏切られて。本当に何を私はしているのかしら。もういっそ、繰り返すのをやめたいくらい。もう、過去に戻らないように消滅させてほしい」
そう言って、彼女の頬に流れる水滴。 何度もアイラはあんな地獄みたいな世界を繰り返していたのか?
「…そんなことする訳ないだろ。それだけ、一途に思ってもらえて光栄だよ」
オレの人生。人に利用されて君を殺す幾多の運命があったのか
王である父に、もしくは皇帝であるアイラの父に利用されて…
「オレは君にこんなに好かれていたのか。なのに、オレはどの運命であっても君を裏切り…」
「王国と帝国は100年以上も争っているから根が深いのよ」
「でも、私があなたを求めた年月はそれ以上ね…」
100年よりも長い年月ね…
それって、ババァってことじゃ…
「今、あなた変なこと考えたでしょ!?」
伊達に何度も人生を繰り返してないね。感が鋭いこと…
「そんな訳ないだろ。それだけ、一途に思ってもらえて嬉しいよ」
だから、オレは剣を置いて、君の手を取る。
「君がまだしらない光景を今世のオレが見せてあげよう」
そう言って、オレは彼女に微笑みかけた。
「もう、すでに見ているわよ」
彼女も微笑む。
「だから、私があなたを想った分、幸せにしてね」
歴史書では、帝国と王国の100年以上に渡る長い争いの決着は呆気ないものであったと記されている。
両国でクーデーターが起こり、2つの国がほぼ同じ時期に滅んだのだ。そして、二重帝国と言われる特殊な政治体制のもとに興った新たな王朝が長期に渡って平和に治めたといわれている。