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ひとひらの花弁  作者: 櫻葉月咲
4. 俺が思うやさしい日々
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2枚目 波乱の前の……

 朝食を作るのは兄妹二人で分担しよう、と丁度一年前の春に決めたことなのに、この兄は本当に忘れていたようだ。

 そして妹を放って冷蔵庫を物色する兄とは……。いや、この際は瑣末事さまつごとだ。


 「兄さん!」

 「うぉ、なんだよ。んなにデカい声出さなくても聞こえてるって」


 葵の声で、千秋がバタンと勢いよく冷蔵庫を閉めた後、こちらを鬱陶しそうに振り向く。

 思わず大声を出してしまったが、今は早朝だ。あまり声を張り上げるものでは無いと思い直し、一度深呼吸をして心を落ち着かせる。


 「これ、見えないの?」


 冷蔵庫に貼ってあるホワイトボードを指さす。

 月水金は青のマーカーで千秋と、火木土を葵が担当するため、赤のマーカーでそれぞれの名前が書かれている。日曜日だけは各自好きに朝食を摂るため、空白だ。


 「あれ、俺だった? ごめん、すぐ作るな」


 言うが早いか、千秋はホワイトボードを一瞥いちべつすると冷蔵庫から卵とマヨネーズ、そしてどこへ隠し持っていたのかサンドイッチに使う食パンを出して朝食を作り始めた。


 「え、ちょっと。食パンなんかどこにあったのよ」

 「さっき買ってきた」

 「は……?」


 おかしい。千秋がキッチンへ入ってきた時には、手に何も提げていなかった。葵の見間違いだったのだろうか。はたまた、まだ脳が覚醒しきっていなかったのか……。

 考えている間にも、千秋はガサガサと食パンの封を開ける。


 「可愛い妹の飯を作らないくらい性格悪くないよ、俺は」


 バター、マヨネーズの順でサッと手際よく塗り広げながら言う千秋は、イケメンだなと場違いなことを思う。


 (兄さんってエスパー……?)


 いや、そんなはずは無い。今回たまたま当たっただけだと思うことにする。

 と、未だ眠気の残る頭を回転させているうちに、千秋は次の工程に移っていた。


 冷蔵庫にあった三つの卵。

 それをボウルに割り入れ、カシャカシャと空気を含ませるようにかき混ぜる。味付けの塩コショウも忘れずに。

 満遍なく混ざったら、卵焼き用のフライパンに流し入れる。我が家ではバターを少し引き、強火でサッと巻くのがポイントだ。


 (本当……こうしてると絵になるんだから)


 葵と違ってサラサラとした艶のある髪は、今年の春から金色に染めている。

 涼やかな目元が相まってか、初めて千秋を見た者は儚い印象を与えるだろう。

 黙っていれば愁眉漂うイケメンなのだ。本当に中身が致命的なだけで。

 

 ぼんやりと千秋を見ているうちに、サンドイッチが出来上がったようだ。時間は十分に満たない。

 ふわふわの卵焼きが入ったサンドイッチ。これは関西のものらしい。

 分厚いながらも、ふんわりしっとり感が目で見てもわかる。


 「ふー、我ながら良い出来」


 ひと仕事終えたかのように、ふぅと一度深呼吸をする。

 出来上がったサンドイッチを持って、小躍りする兄は見たくなかったが。


 誰しも料理が出来るわけではないのは百も承知だが、毎日生活するためのある程度のことは出来るものだろう。

 それがただ、一日の始まりである朝食を作るためでも。


 「って葵、まだ居たのか。後は俺がやっとくから、お前は着替えてこい」


 葵がまだキッチンに居ることを見つけると、片手でサンドイッチを盛り付けた皿を持ったまま、シッシッともう片方の手で追い払う仕草をする千秋。


 「言われなくてもわかってるわよ」

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