ストーカーになった妹が誰かを呪殺しようとしてるんですけどぉ!
「お兄ちゃん、あのね、相談があるの」
ソファーでいつものように寝転り、テレビをみていた俺、夜拘零季に、
妹の響菜子がソファーから身を乗りだしながら話しかける。
「どうしたんだ? また例の子のことか?」
一週間くらい前のこと、今日と同じように響菜子に相談されたことがあった。
細かい説明は省くが、好きな人が友達とカラオケに行ったので、中でどんなことが行われているのかを俺に相談した。
が、その話の中で響菜子は、例の好きな人をGPSで監視していたのだ。
「そうなんだけど、お兄ちゃん」
「その子のカバンにつけたGPSは、ちゃんと外したんだよな」
「やりたくなかったけど、ちゃんと外したよ」
外したのなら、とりあえずはよしとしよう。
俺がソファーに座り直すと、響菜子は俺の横に来る。
「それで、相談って何なんだ?」
「あのね、その人がこの前、私とは別の女の子とお話してたの」
なるほど、嫉妬か。
世の中には、異性と話しているだけで浮気認定する人間がいると聞いたが、コイツの場合は単純に嫉妬だろう。
「それで、お兄ちゃんに相談があるんだけど……」
「別に、異性と話すくらいなら、誰でもあるぞ」
「えぇ! お兄ちゃん人間と話せたの!?」
女子と話すのかを聞け!
俺は人間だから、同じ言語使う相手なら、話せるに決まってるだろ!
「……響菜子、覚えてろよ。で、話くらいは普通にあるから、別に心配するほどじゃないぞ」
「それで、その女の子との話の時、デレデレになってて……」
脈アリみたいなのね。
まぁ、そういう感じで話す人もいたりするからなぁ。
「別に、勘違いなんじゃないのか?」
「うぅん、そんなわけない。これが証拠の写真なんだけど……」
さらっと盗撮するな。
密会のスクープみたいじゃねぇか。
「だから、その……あの女を始末したいの」
【悲報】妹が始末という言葉を覚えた。
「だから、その……お兄ちゃんにも手伝って欲しくて」
「お手伝いじゃなくて共犯な。お前は兄も道連れにしてまで犯罪を犯したいのか?」
「犯す!?でも、その人となら嫌じゃない……」
頭の中がお花畑のようだ。
「そういう意味じゃねえ、法に触れるってことだ!」
「法律なんて愛の前では無力でしょ!」
ストーカーの、言い訳になっていない弁明だ。
「とにかく、お兄ちゃんも手伝ってよ!」
「手伝うわけないだろ! むしろ止める立場なんだけど!」
「お兄ちゃんが私達の障壁になるの……でも、私達は負けないから!」
『私達』を一人称単数形に直せ。
俺は、少なくともお前だけの壁だ。
むしろお前は、その二人にとっての敵、という可能性もあるからな。
「あの女を倒したら、次はお兄ちゃんだからね!」
「俺を先に倒してから行け! もしくは、俺の目が黒い内はここは通さねぇ!」
「お兄ちゃん……妹が幸せになるのを邪魔するの?」
妹が他人を不幸にしそうだから、邪魔してるんだよ。
「わかった……じゃあ自分でやる」
「待て、何する気だ」
「だから、始末するの!」
こいつ、殺るきマンマンだ。
「だいたい、相手の家とか知ってるのか?」
「大丈夫、あの女にもGPSついてるから」
関係者に標準装備させるな。
妹に個人情報の概念、そのものが無いということを知ってしまった。
「だから、一人だと恐いからお兄ちゃんが必要だったの」
真夜中のトイレみたいに言うな。
「○すにしろ、お前何をするつもりなんだ?場合によっては、部屋から道具になるもの全てを取り上げないといけなくなるんだが」
「お兄ちゃん……酷いよそんなの」
「殺人を計画するやつに言われたくない」
すると、響菜子はバッグを開けて、ゴソゴソと何かを探す。
そして、取り出したのは藁人形だった。
「これ……これを神社の木に打ち付けて……」
わぁ、そういうの信じてるんだぁ。
なぜか安心してしまった。
やろうとしていることはかなりヤバいのに。
「なんだよ、丑の刻参りか。効果があるかは知らないが、一人で勝手に行ってこい」
「やだよぉ。だって、夜怖いもん」
嫌いな人を当たり前のように呪い○す人間は怖くないのか。
どっちかと言うと、怖がる側ではなく、怖がられる側だぞ。
「そんなこと言われたって、一人でもできるだろ」
「うぅ……うっうっうっう」
咽び泣くなよ。
怖いならやめとけ、別に丑の刻参りじゃなくても○ってしまう方法はある。
いや、そもそも○ったらアカンけど。
「やりたくないなら止めな。夜道の、それも山や森を歩くなんて危ない」
しかし、響菜子は首を横に振る。
「だって、諦めたりなんかしたら、これを教えてくれた親友に顔向けできないよぉ」
自分に呪いを教えるヤツってのは、親友と言えるのか……?
「いや誰だよソイツ。失恋した人に呪術進める外道は」
「外道なんかじゃないよ!『嫌いな人は、呪ってでもブチ○せばいいんだよ!』って、私の背中を押してくれたのに」
ソイツは背中を押したんじゃない。背中から突き落としたんだろ。
外道というか、自分の手を汚さずに邪魔者を始末する、なんかの黒幕みたい。
「どう考えてもその人はマトモじゃないから、距離取れ。あと、その藁人形も捨てろ」
「えぇ! せっかくあの女の汚い髪の毛をかき集めてきたのに!」
もったいない感を出すな!
お前含めて、マトモじゃなかった。
「それも捨てろ、どうせゴミなんだし。詳しいことは知らないが、丑の刻参りって一日で終わらないんじゃなかったのか?」
「そのくらいで諦める程の熱意じゃない!」
熱意じゃなくて殺意。
やる気あるなら一人で行けよ。
「お願い……何でも言うこと聞くから」
「それなら良い。俺のお願いは一つ、諦めろ」
「お願いを破棄するお願いなんて聞けないよぉ!」
「だから、それが俺からのお願いだ。何でも聞くんだろ?」
目には目を、歯には歯を。
お願いにはお願いを、だ。
「酷いぃ! 日本でハンムラビ法典は無効だよ!」
「日本では呪殺が合法なのかよ!」
「お兄ちゃんのせいで、もう二千文字以上経ってるんだよ――兄貴の自覚があるなら、ちゃんとストーリーを進めてよ!」
どんなクレームだよ!
ストーリー進めろとかそれ、キャラクターが言ったらいけないやつ!
「もう! お兄ちゃんなんか、褐色ロリ巨乳好きのロリコン野郎って、お母さん達に言いつけてやる!」
それは言いがかりだ。元々そんな設定ないし。
…………本当だぞ?
響菜子は、そのまま階段を踏み鳴らし、部屋の扉を勢いよく閉め、引きこもってしまった。
あぁもう、面倒な妹だな。
このまま静かになってくれたら良い。
夜、こっそり抜け出すということも無いだろう。
テレビの電源を入れ直し、録画した番組を再生する。
せっかく見ていたのに、妹の自己中とストーカー体質のせいで、楽しかった気分が台無しだ。
見るのを途中で止められると、さっきまで何があったのかを思い出さないといけないから、そういうことは本当にやめてほしい。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
また来た。
「何なんだ? 絶対行かないからな」
「そうじゃないから。とりあえず見て」
面倒だなぁ。
と、ソファーから後ろを向くと、響菜子はなぜかシーツを身体に巻き付けている。
「何してんだよ」
「だって、白装束が無かったから……」
白ければ良いのかよ。
「どう?」
「お前はそれをファッションだと思ってるのか?」
すると響菜子がポケットからスマホを出す。
そして、LI○Eのトーク画面を見せてきた。
「だって、友達がこれで良いって言ってたから」
「よし、ソイツを今すぐ連れてこい」
「お兄ちゃん、ロリコンはやめなよ!」
「そういうことする訳じゃねぇ!」
「ロリコンは否定しないの!?」
忘れてた、ロリコンではない。
ロリコンは好みの問題になるから、本人の努力ではどうにもならんぞ。
「それで、頭にロウソクを立てないといけないんだけど、直接巻いたらロウ垂れて危険だから、何か良いのない?」
「頭のロウソクから垂れるロウを防ぐためにあるピンポイントな道具なんて無いだろ」
「えぇ、東急ハ○ズで店員さんに『すいませ~ん五寸釘くださ~い』って言ったら見つかったのに……」
東急○ンズで買ったというどうでも良い情報要らん!
つーか、妹が店員に五寸釘の場所聞くとか、兄ながら恥ずかしい!
「頭の上に乗せてロウソクを立てられる物……あ!」
と、響菜子はなぜか台所へ。
嬉々として戻ってきた響菜子の手には、ドーナツ状の物に3本の足が生えた謎の物体がある。
「なんだよそれ」
「ガスコンロのパーツ」
まさかヤカンやフライパン置くとこか!
確かに掃除するために外せるし、構造的に逆向きにすればロウソク立てられるけどさぁ!
そんな心のツッコミは届くことなく、妹は一式を持って部屋に入って行った。
そしてだいたい5分後くらい。
響菜子は自分の部屋からドアを開けて出てくる。
「これで準備万端だね」
シーツを全身に纏い、ロウソクを立てたガスコンロのパーツ被った不審者が完成した。
「女の子が着替えたんだから、何かコメントくらい無いの?」
「そうだな。神社着くまえに通報されそうだな」
「なんでそんなこと言うの!」
「まず全身白だし! そして、お前ひょっとして、家でロウソク点けて行くつもりだろ!」
「なんでわかったの!?」
マジなのかよ。神社に着く頃には、頭火ダルマだぞ。
少なくとも、それくらいは考えて欲しかった。
◇
今はだいたい一時半くらいで、近所の神社にいる。
「じゃあお兄ちゃん。待ってて」
響菜子は丑の刻参りセットを持って、神社のトイレで着替えるのだろう。
幸いにも、住んでいる地域が都会では無かったので、人気の無い神社が近くにあってよかった。
……ってよくねぇ!
人気の無い神社とか、犯罪の臭いしかねぇよ!
どうしてこうなった!
「お待たせ、2時になったら教えて。手頃な木にこれ打って、さっさと帰りたいし」
できれば今すぐ帰りたいです。
妹が、五寸釘と藁人形、金槌をバッグから取り出す。
「さて、これを何日かやれば……」
木に藁人形を当て、金槌を振りかぶった時だった。
響菜子のスマホに通知が来る。
「響菜子、L○NE来たぞ」
「えぇぇ、こんな時間にLIN○?」
こんな時間に神社で人呪おうとする、お前が言う資格は無い。
どうしようか迷ったのか、一度腕を下ろす。
「私がやらないとだから、お兄ちゃん読んでよ」
「えぇ、しょうがないなぁ。えっと『響菜子ちゃんへ。そういえば言い忘れてたけど、丑の刻参りを誰かに見られると、自分に呪いが返ってくるから、気を付けてね』」
それを早く言え。
兄妹で来てしまったぞ。
「『もし誰かに見られたら、その人○せばオッケーらしいよ』」
・・・
響菜子は先ほどと同じように、無言で金槌を振りかぶる。
「お゛兄゛ぢゃぁぁぁぁぁぁん゛!!」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その夜とある神社の付近で、男女の叫び声が、一晩中響き渡ったとさ。
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