第3話 銀 藍 緑
急に三人もの人が現れたことで、私は内心驚いていた。
一人は三つ編みにした銀髪に猫のような金色の瞳をした、若くもそうでないようにも見える妖艶な女の人。
服は上から下まで真っ黒で、胸元が大きく開いているし、長いスカートには大きくスリットく入っている。
同じ女性である玲でさえも見とれてしまうような色っぽさだ。
もう一人は髪も瞳も澄んだ藍色で、長髪がとてもよく似合った男の人。
顔は女の子よりも綺麗で、羨ましいと思うのさえも申し訳なく感じるほど。
そして髪が緑色で瞳は女の人と同じ金色の男の人。
目つきが悪いというか、隙のない感じがして少し怖い。威圧的にも見える。
その人の額には、何故か赤く腫れているところがあって、痛そうだ。
きっとこの中に”ムツキ”という人がいるに違いない。
「おかえりなさい」
そして、フォレスタが言葉を続けるより先に藍色の人が最初に私に気付き、
「初めまして。俺はカイラ=カバリエと言います。
体はもう何ともありませんか?」
まるで人形のように綺麗な人に笑顔でそんなことを言われたら、落ち着いて受け答えなどできるはずもなく、玲はこくこくと頷くことしかできなかった。
「こっちはムクモ=ストリージ、こっちの緑はムツキ=ストリージと言います」
女の人と緑色の人を順に示して教えてくれた。
ムクモという人はにこりと笑顔を向けてくれたが、ムツキ――例の魔法使いムツキ、は相変わらず無表情のままだ。
だがカイラの口から”緑”という言葉が出たとき、片眉がぴくりと動いたのがわかった。
普段人の目ばかり気にしていると、こんなことにまで気が付いてしまう。
「えと…玲、です」
なんとか自分の名前を告げる。
そしてさっきからずっと感じていた視線の方をおそるおそる向いてみると
ばつの悪そうな金色の瞳がこちらを見ている。
機嫌の悪そうなその表情とは裏腹に、目には申し訳なさが浮かんでいた。
「…悪かったな」
「へ…? あっ、いえ……」
主語も何もなくいきなり言われて理解するのに少し時間がかかったが、異世界に引き込んでしまったことだろう。
「・・・」
何か答えるのかと思いきやそのまま何も言わず、ぷいっと後ろを向いて歩いていこうとし――
「っぐ」
捕まった。
ムクモがムツキの襟を掴み、思いっきり引っ張ったのだ。
「ごめんなさいねぇ。悪気はないのよ、悪気は」
そう言ってムツキを引き倒すようにして座らせ、自分も私の隣に腰を下ろした。
そしてムツキ達とは反対側の玲の隣にカイラが座り、輪になった形だ。
それからムクモがこの先どうするかを玲に話し始めた。そしてこの世界のことも少し。
だけど頭にはほとんど入って来ず、素通りに近い状態だった。
よく知らない言葉がたくさん出てくるその話は、学校でわからない授業を受けているように感じた。
その感覚は嫌なことを思い出させてますます話が理解できなかった。
――――
「…と、こんな感じなんだけど」
言い終わったムクモが玲を見た。
だがレイは曖昧に頷くだけで、多分よくわかっていないのだろう。
レイ状況を考えればそれは至極当然な事でもあるが、これをわかってもらえないとこの先困ることになる。
どうすれば良いか、答えは簡単だ。
「ちょっと失礼します」
そう言って自分とレイの額を合わせる。
表情はほとんど変わらないが合わせた額から動揺が伝わってきた。
女性にいきなりこんなことをするのは気が引けるのだが、致し方ない。
やわらかな白い光が生まれる。
そして光が消えたところでそっ と額を離した。
すると驚きで大きく見開いた目が、カイラを見ていた。
「すみません。でも、これで解ってもらえましたか…ね?」
「…は…い」
魔力とともにレイの頭に流し込んだのは、さっきひとしきりムクモが言った説明だ。
無理矢理頭に叩き込むのはあまり優しいこととはいえないが。
「えと、これは魔法…ですか…?」
驚いたことに、うつむきながらもレイが質問してきた。
この子が自分から言葉を発するのは、これが初めてではないだろうか。
この先のことについての質問ではなく、魔法の方に興味を示したというのがおもしろい。
きっと向こうの世界にはないのだろうな、とカイラは思った。
緊張が少しでも解けてくれたのならいいが。
「はい。簡単な魔法ですよ。
でも直接情報を流し込むのはちょっと荒技でしたが…。
大丈夫でしょうか?」
「大丈夫…です…」
まだ何か言いたげだったが、レイはそれしか言わなかった。
Petit un pas
カラフルな頭の人たちが出てきました。
1話1話が短い目でちょっとずつしか進んでいないので申し訳ないです。
次はやっとこさ、何かはわかるはずなので・・・