第2話 意味
突然異世界へ飛ばされた玲。
天使のようなお姉さんに状況を説明してもらっていたけど・・・
あのときの光景がよみがえってきて、私は固まった。
なんでこのお姉さんはこんなことを言うのだろう。
「もし違うのならごめんなさいね。気にしないで。
それに説明を強いるつもりもないから」
私は黙って俯いていることしかできない。
するとお姉さんは私に話す気がないとわかったらしく、話を続けた。
今この話を流してくれるのならそれでいい。
「私がさっき言った人、ムツキはね。自分でコントロールできないほどの魔力を持っているの。
そしてたまに、本当にたまにだけど、何かに操られるみたいに魔法を使うときがある。
多分あの人の強すぎる魔力がそうさせているんだけど……。
いつも大きな事は起こさない。だけど、ただ確実に意味を持った行動を起こすの。この意味、なんとなくわかるかしら?」
こくり、と頷く。
「あなたは今ここにいるのは、その魔力の意志によるものよ。きっと意味があってここに来たはずだと、私は思うの。
今回はちょっと、事が大きすぎたけどね」
意味――
生きる意味さえ見失ってしまった私に一体何の意味があるっていうんだろう。
「そうですか……」
そんな曖昧な返事しか出てこない。
「まあ今の状況はこんなところかしら。
とりあえず、私は貴方の名前が聞きたいわ。私はフォレスタ。エルフです」
そうかこのお姉さんはエルフだったのか。
そう言われれば確かに昔読んでもらった絵本で見たエルフによく似ている。
あの頃はなんて幸せだったんだろう。
「私は―……玲、と言います」
なんとなく佐藤という名字は言わないでおいた。ここでは意味を持ちそうにないから。
「これからよろしくねレイ。ようこそシエラへ」
この世界は、シエラというのか。
「は、い……。よろしくお願……」
そこであれ? と違和感を覚える。
“これからよろしく”?
今お姉さん――フォレスタは確かにこう言った。
「私は、元の世界には……」
「次元の狭間に落とされたくないのなら、今は帰れないわ」
「そうですか……」
あぁ、私はついにおとぎ話の住人になってしまったわけね。
でもやっぱり実感はあまり湧かない。まあいいか、なんて思ってしまう。
それはきっと、私が自分の生を捨ててしまっているからだ。
お姉さんは何か知りたいことはないかと聞いてくれたが、いえ、とだけ答えた。
知りたいことがない訳じゃない。わからないことはありすぎる位だけど、今はそんな気分じゃない。
「そういえば、他の人もいるんですよね……? その人達は?」
「多分その内帰ってくるわ」
フォレスタはにこりと笑った。やっぱりこの人はすごく可愛い。
悪意などみじんも感じさせないし、好意的なオーラを全身から放っている。
だけど本当に信用できる人なのか、判断するにはまだ早すぎる。
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この子には一体何があったんだろう。
気にはなるが、会ったばかりの私が土足で踏み込んで良いことではない。
それにさっきからずっと無表情で、ほとんど表情の変化を見せない。
初めはいきなり異世界に飛ばされた驚きで放心しているのかと思ったが、どうやらそれも違うみたいだ。
まるで感情を忘れてしまった人形だ――……
死のうとしたのか、なんて直接的に聞き過ぎてしまったと思う。言ってから気付いた。
そのときは一瞬動揺していたけど、それだけだ。
それにまずはこの子の信用を得なければ。
さあどうする、か。
あの子は、さっきからずっと空を見上げて何か考えている。
何か声を掛けようとしたその時、
「たっだいまー」「ただいま戻りました」「……」
やっと帰ってきた。
やっぱり、レイは無表情のままだったけれど。
二人の名前を出しましたー。
後ろ向き主人公佐藤玲と、エルフのフォレスタです。
あと、1話に引き続き前半までは玲視点、後半からはフォレスタ視線で書きました。