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三番

短い……。前の話にくっつければよかった。

彼女が、恐る恐る抱きしめてきて。その腕の動きが、彼女の戸惑いが、人に慣れていないんだと教えてくれた。

それから少しすると、ゆっくりと、戸惑ったように頭に手が置かれた。そして、さわりと撫でられた。豆腐でも掬うような、そんな優しい撫で方だった。


初めて会った時の印象は最悪で、そもそも接する時間が短かったはずなのに、その胸は、その腕は、なによりその気持ちは、とても温かかった。



「あなたはなんでここにいるの?」


ピュゥー……

間抜けな笛の音。涙が乾いて、真面目な声で質問したのに、思わずふふっと笑ってしまった。

彼女はちょっと不満そうに、その奥に三日月を映して、さらに奥に悲しさと嬉しさを隠して、呟く。


「……笑わなくても」


呼吸を整えようとしたけど、やっぱり無理で。ツボに嵌まった。


「で、ここにいる理由、だっけ?」


彼女は諦めたように肩を竦めて、ため息をひとつ。

その顔を見て、ようやく少し落ち着いたけど、時折肩がぴくりと跳ねる。

それでも彼女は真剣な目つきで見つめてきて。


「嫌われているから、だよ」


その答えを聞いたら、さっきまでは笑えていたのに、ちっとも笑えなくなって。まるで、笑い方を忘れてしまったように。

目の前で、笑顔が悲しそうに揺れた。


「人も、獣も、草木も、建物も、月だって。私はずっとここにいたのに、みんなみんな避けていったんだ」


彼女の顔は、あの日私が気を失う寸前に見た顔に似ている。笑っているのに、その奥に三日月が見えて、そのさらに奥には悲しさが……。


手をとった。温かかった。

目を合わせた。微笑んでいた。

泣きそうな顔を隠せなかった。大丈夫って言われた。


……ああ、もう。彼女はこんなに優しいのに。本当は少しも怖くなんてないのに。なんでみんなは避けるんだ……。

許せなかった。彼女を避けるみんなが。怖がるみんなが。……なにより、怖がって逃げてしまった私が。


もう一筋、涙がこぼれて。それでも彼女はゆっくりと抱きしめてくれた。



月の出ない 暗い夜に

隣にあなたが なぜかいる

落とした心が やってきて

そのまま月まで 昇ってく

次話は木曜投稿予定です。もしかしたら金曜になるかもしれませんが。

読んでいただき、ありがとうございました。

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