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なんの変哲もない短編集  作者: 心鶏
8/15

女王の冬  中話

「お、起きたか。」

私は気がつくと木の中にいた。

外が見えないほど奥まったところで、窮屈きゅうくつだけど寒くはない。

一匹の蜂が私を見ていた。

「私は?」

「感謝しろよ。私が良い蜂じゃなかったら、あんたは草むらの中で息絶えるとこだったんだぜ。」

どうやら、私は限界を迎えていたらしい。

「ありがとう。」

その蜂はモソモソと動き、外を覗いた。

「あんた、名前は?」

「ラーヌ。あなたは?」

「マシバだ。」

マシバは外を見続けている。

この蜂も女王蜂なんだ。きっと、私と同じような辛い思いをしてきたんだろうな。

「ラーヌ、あんた女王蜂だろ?」

「うん。」

「あんな、へとへとになるまで飛ぶなんて無茶だぜ。近場で探そうとか思わなかったのか?」

「何を?」

「!!冬眠する場所!嘘だろ、何も知らず巣を出たのか?」

「なんにも教えられなかったんだもん。」

マシバはまた、モソモソと動き、私にくっつき言った。

「お前、このまんまじゃ長生きできなそうだから、私が教えてやるよ。」

「うん。」

マシバは言葉遣いは悪いけど良い蜂で、私にいろんなことを教えてくれた。

女王蜂は寝て冬を越すこと。

春になったら、ご飯を食べて、元気になったら巣を作る場所を探すこと。

巣を作り始めたら、子どもをたくさん産んで、育てながら、巣を作ること。

「きついのはこっからだ。ある程度、巣がでかくなったら、仕事は子どもに任せて、女王は子どもを産み続けなければいけない、次の女王のために。」

だから母は動かなかったのか。

「まあ、雄蜂オスバチも雄蜂できついがな。巣で何にもしないで悠々自適かと思いきや。連中は新女王と交尾するためだけの存在、交尾すると死んじまう。」

「交尾?って何?」

マシバは呆れた。

「おいおい、嘘だろ。巣立ち前に雄蜂となんかしただろ。」

「弟と別れを惜しんで抱き合っただけだよ。」

「弟ってそれクレイジーだよ。お嬢さん。」

「そうなの?。血は繋がってないよ。」

「複雑な家庭環境だな。」

「でもじゃあ、マシバは?」

「ああ、私のとこは他の巣が結構あったから、他の巣の雄蜂も全員抱き殺したよ…。」

「抱き殺した!?…。じゃあ、弟は私が殺したんだ。…。」

「気負うな。雄蜂の宿命だ。…それに、そこまで一途なら弟も浮かばれるだろうよ。」

「そうかな…。」

「そうさ!」

マシバが私を励ますように叩いた。

ふと、もう一匹蜂が入ってきた。

「寒すぎる…。おや、先客か。失礼するよ。」

「ああ、入れ入れ、たくさんでくっついた方があったかい。」

「私の名はコデュ。この冬は一緒にいさせてくれるとありがたい。」

「歓迎するとも。私はマシバ。こっちの落ち込み気味のがラーヌだ。」

「よろしくマシバ、ラーヌ。」

「…よろしく。」

マシバが私の状況を説明する。

「ラーヌは血の繋がっていない弟と交尾したらしくな、自分が殺したのだと落ち込んでる。」

「ああ〜。あれはショッキングではあるね。」

「まあ、その分、連中の命も背負って、私らがしっかり生きてやらんとね。」

「とはいえ、悲しむことは大切だ。ラーヌ。私たちがいる。大丈夫だよ。」

コデュは優しかった。

私はコデュとマシバにはさまれて泣いた。

コデュは母に似た匂いがした。マシバは太陽と木々の匂いがした。

どちらも落ち着く匂いで、私は眠りについた。


冬眠も、ずっとぐっすり眠れるわけでもなく。

空腹で目が覚めたり、眠気がこなかったり。

その間、私たちは沢山、話をした。

春がきたら何を食べようか?

巣はどこに作ろうか?

どんな形にしようか?

クマに襲われたらどうしようか?

そんなことをいつまでも話していた。

ふと、自分のいた巣の話になった。

「私は普通だったよ。お姉さんたちに育てられて、母親にいついつに出て行くんだよって言われて、その日にそこらの雄蜂と交尾して、ちょっと人間社会を見学して、ここにきた。」

コデュはいつも人の社会を気にしていた。

「人好きだね。コデュは。」

「二言目には人間だもんな。」

「高度で複雑な社会は見ていて飽きないよ。まあ、マネできる気はしないけど。」

「それはそうだね。」

「ラーヌどうなんだ?血の繋がっていない弟も気になる。」

私の巣。

「大きかった。」

「優秀な女王蜂がいたんだね。」

「うん。お母さんは優しかったよ。怪我とか弱ってる蜂がいたら、私たちの巣の蜂じゃなくても治してあげて、元の巣に帰したり、巣を追われてたら私たちの巣の一員として迎えてあげたり。」

「なるほど、ラーヌが優しいのはお母さん譲りか。」

「えへへ、そうかな?」

「その助けた中の一匹がお前の言う弟だったのか。」

「多分。」

「しかし、他の巣の蜂を受け入れるなんて、女王もそうだけど、ラーヌのお姉さんたちも相当に優しい蜂だね。普通はないよ、そんなこと。」

「そうなの?」

「ぬるいお嬢さんに私の巣の話をしてやるよ。」

ぬるいお嬢さん…。

「私の巣は酷いぜ。私が産まれるまでは普通の巣だったようだが、私がまだ幼虫の頃、嵐で巣が木から落ちてしまってな。巣自体は無事だったんだが、女王、うちの母が怪我をして、子どもを産めなくなったんだ。」

「ええ!?」

「それはまずいな。」

「そう、まずいんだ。女王は一代で巣を成長させるのに、子どもが産めなくなったら存在価値はなくなる。酷いぜ、姉たちで怪我した母を巣の外にポイっだ。」

「かわいそう…。」

「おっと、ラーヌまだまだだぜ。こっから修羅よ。女王蜂のいなくなった巣では代わりに働き蜂が女王になり始める。が一匹とは限らない。この時、働き蜂は何匹も女王になろうとする。そいつらで殺し合いさ。私が次の世代の女王として育てられていた時期に現女王が変わって、母は巣の外で死に、一番強い姉が女王になった。」

「ひどい話…。」

「でも、どうせ私しか次の冬を越せないのに、なんかあわれだったぜ。一瞬の栄光を手に入れようと躍起やっきになる姉たちは。ラーヌの姉がどんだけ優しかったかわかったろ?」

マシバの話を聞き、いかに自分が愛され大事にされ、どれだけ優しさに包まれていたかを気付かされた。

「それが普通なの?」

「いや、稀な話だよラーヌ。それにラーヌは優しいからラーヌの巣ではそんなこと起こらないよ。」

「そうかな?」

「ちがいねえな。」

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