女王の冬 前話
こんなところに前書きが!!ね。
あなたは前書きを拾ったわけですよ。
このお話は、蜂が主人公です。というか蜂しか出てきません。
色合いが可愛い。刺す害虫であり、蜂蜜を恵んでくれる益虫。蜂が不思議な立ち位置なのか、人間の扱いがおかしいのかですよね。
私は蜂。
悲しくも女王として生まれた。
私は女王蜂。
巨大な巣で私は生まれた。
その巣にいるのは私の母と、数え切れないほどの姉と、私が愛した弟。
私は新女王として育てられ、成虫する頃に秋がやってきた。
「ラーヌ姉さんにこのことを話すのは禁止されているけど、俺はラーヌ姉さんに隠し事は出来ないよ。」
「何?怖い顔して。」
「俺は、この群れの蜂じゃないんだ。みんなと血が繋がってない。」
「そうなの…。関係ないよ、あなたは私の弟だもん。」
迷宮のように入り組み、雲のように大きな巣の中、いつも一緒にいた弟は続けて言った。
「俺たち蜂は、冬を越せないんだ。」
「冬って。もうすぐじゃない?」
「俺も母さんも他の姉さんたちも、みんな冬を越せない。」
「そんな…。なんとかする方法はないの?」
「…。ラーヌ姉さんだけは生きられるんだ。」
「私だけ生きたって仕方ないよ。」
弟は私を抱きしめた。弟は泣いていた。
「生きてくれ。母さんはこの時のために一人で巣を作っって、姉さんたちを育て上げてきた。姉さんたちも同じだ。みんなのために生きてくれ!」
それから弟は喋らなかった。
母も姉さんたちも、私に何も知らせずに送り出すつもりだったらしい。
滅多に動かない母が巣の出口まで送ってくれた。
「ラーヌ。あなたはこれから、沢山悲しいことや辛いことを知り、経験するわ。でも大丈夫、あなたは私の子。みんなの妹。きっと素敵な女王になるわ。」
「お母さん…。」
「いきなさい。」
私は女王として立派になるため、という理由で巣を出た。
初めて出た外の世界は、まるで幻想郷のようで、一目で私を魅了した。
草木は生い茂り、空はどこまでも高く、姉たちが話してくれた世界よりも綺麗に見えた。
どこへ行こうか…。
そして、何をしようか…。
当てはなく、自由だらけ。
あの巣へは二度と帰ることはない。
みんなは冬を越せず、私だけは冬を越せるから。
どうにか納得しようとすればするほど、私の羽は弱くなった。
山を越えた。
赤く色づいた木々は火事のようで力強く、母や姉たちを思い出した。
母は巣から出ず、私や他の子の世話、巣の増築、食料集めなどは全て姉たちが分担してやっていた。
母は働かない蜂だと思っていたが、それは間違いで、母は巣を一人で作り始め、子を育て、姉たちの全ての役割を一人でやっていた時期があること知った時は幼虫ながら羽が震えた。
みんな、私のために…。
川を越えた。
泳ぐ魚は寒さにめげず、飛ぶ私は木枯らし抗う。
お互いに気づき、共通点を見つけ、思う。それは水と水が触れ合うほど一瞬のこと。
寒いけれど、まだまだ飛ぼう。
休むなら大きな木がいい。
あの巣のように大きな。
私は飛び続けた。
人の街を越え、田畑を越え、谷を越え。
「さ、寒い…。」
羽が鈍くなっている。
飛べなくなる。
みんな、まだ元気かな…。
こんななら、みんなと一緒に…。