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なんの変哲もない短編集  作者: 心鶏
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悲しい方舟  中話

俺の仕事はデータ管理だ。

詳細かつ主な仕事は、消費し終わった空のデータボックスの廃棄や壊れたデータの修復、犯罪やそれに関係するデータの転送、データの整頓や消費完了リストの作成と転送など。

やることはたくさんあるが、俺はそれをするために設計されたヒューマノイド。

空データボックスの廃棄は呼吸をするのと同じ、壊れたデータは見ればわかるし触れれば直る。

犯罪系のデータはステーションからの情報で絞り込むだけだし、データ整頓や消費完了リストの作成は脳内ワークだ。

つまり、基本的には暇なのだ。

だから、宇宙船をウロウロする。

どこもかしこも白く、目が痛くなる。

「ライト、暖色系に変えらんないのか。」

「できますよ。」

ポルカがどこからともなく返事をすると、電気の光が淡いオレンジ色に変わった。

「サンキュー。」

「目の具合はどうですか?ループ14の体を再利用したので、視力0.3ほどだと思いますが。」

「まあ、そんなに気になんないけど、もっと見えるようになんの?」

「はい、修理室へ。」

言われるがまま、若干オレンジ色の廊下を進み、修理室に辿りついた。

中には枝のようなアームが何本も生えたベットがあり、宇宙人に体をいじられる前の恐怖体験ができた。

「そこへ寝てください。大丈夫です、痛くはしません。」

「ってことは痛い可能性もあるんだな?」

「その方が好みなら元女王様の私が悶絶もんぜつさせてあげますが?」

「やめてくれ、俺はそっち側じゃない。」

ポルカは軽口を叩く。よくできたaiだ。

おとなしくベッドに寝そべると、すぐさま目を開かれ、何かを吹き付けられたかと思えば。

「終わりました。両目1.5まで回復完了です。」

「お、おお。」

確かに、見える世界が違う。

俺は心眼を手に入れたようだ。

「先ほど、ザリファがメディア保管室F1に来るようにと言っていました。」

「わかった。要件を聞いてるか?」

「いいえ。なんでも大事な用らしく、私には教えてくれませんでした。」

「そうか。一体なんだっていうんだ。」

とにかく俺は保管室F1に向かった。

保管室には100〜200のYBメディアが置いてあり、そんな部屋がこの宇宙船の八割を占めている。

保管室F1は主に公的な記憶データが保管されている。公的な悲しみとは?。たくさんの人が共有した悲しみの事だ。例えるならば災害や大規模な事故などだ。

さて、その扉の前に立てば、自動で開く。

中には白く真四角な大きい箱が14×9で126個、ずらりと並べられたYBメディアたち。

それは俺の肩ほどの高さでこの中から物を探すのは結構厄介。

ただ、俺が探しているのは物じゃなくザリファだ。

「ザーリーファー。来たぞー。」

「ああ!こっちです、こっち。」

右奥のYBメディアの上にピョコリと頭を出すザリファ。ふわふわの特殊固形物が空調の風になびいている。

ザリファはデータ視聴モニターのところにいた。

この保管室1Fにはデータ視聴モニターという、その名の通り、記憶データを視聴できる物がある。

そのほかの部屋にはプライバシー保護のためなく、正直、ここにあっても、見れるのは口にし難い災害や事故の記憶で、特に見たい物ではない。

「ザリファ〜、悪趣味な鑑賞だぞ。」

「えっ、いや、いやいやいや。違います違います。」

慌てたように身振り手振り大きく否定するザリファ。

「見て欲しいのは、ループ14の記憶データです。」

「ん?俺の記憶は10年で完全消去なんじゃ…。」

「えへへ。だからポルカには内緒です。」

ザリファはふわふわの三本指で器用にモニターのパネルを操作し、一枚のチップをモニターに差し込んだ。

映し出されたのは、手元に剣状のデータを持ったループ14がザリファを追い詰めている場面だった。

「俺はザリファを信じていたかったよ。」

「……。」

ループ14の声は悲しみに満ちていた。

「データを民間の企業に転送するのは固く禁じられている。頼むザリファ、知らないと言ってくれ。」

「私の製造された工場が来月潰れるそうです。データがあれば、この宇宙船とのつながりが証明されて裏取引で工場が救われる可能性が生じると思いました。」

「違う。ザリファ、それは動機だ。「ごめんなさい。掃除してたら変なとこ押しちゃったみたいで。」そう言ってくれれば俺はザリファを殺さなくてすむんだよ。」

ループ14の声は震えていた。

「次の私とは仲良くできるといいですね。」

画面が暗転し、電気と金属が裂ける音がした。

ザリファはモニターを見つめながら言った。

「これはほんの数ヶ月前の出来事です。私が前の私の代わりにここに到着したのは2ヶ月前、ループ14と1ヶ月ほど共に過ごしていた間に、これをループ15と見るようにと渡してくれました。」

「…。つまり、仲良くってことだろ。」

「はい。きっとループ14は本当に嫌だったのでしょう、前の私を殺すことが。」

「そりゃ、嫌だろな。俺だってザリファを殺すなんて嫌だ。」

「毎日涙を出すために、お酒を目に入れてはもだえていました。」

「だから、視力0.3だったのか。」

ループαに涙を流す機能はない。不要と判断されたからのはずだ。

それなのに。。。

辛いことは沢山ある。

もし、当事者なら耐えられないだろう。

だから、人は悲しみを忘れようとする。

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