悲しい方舟 前話
ちはっ!前書きって最初だけじゃないのかよ!
一応、あらすじ的なの書くとわかりやすいと思いまして。サクッと読めないので。。。
SF色強めです。方舟のヒューマノイドが悲しみを覚えるお話です。
ロボットに感情があったら、面白そうですよね。多分、人と同じで良い奴と悪い奴に分かれると思います。
人は不死になった。
体の全ては代替があり、記憶すらデータ化された、生き物とは程遠い物になった。
しかし、感情はあった。
喜怒哀楽、それ以上に奥ゆかしいものもちゃんと。
それがいけなかったのだろうか。人は悲しみを乗り越える方法を忘れた。
半永遠の命のなかで悲しみに溺れながら生きよ。という罰なのかもしれない。
人は苦しんだ。社会が止まるほどにあらゆる人が苦しんだ。
涙は止まらず、全てのことに集中できない。
だから、データ化された記憶の一部を自分たちから引き抜いた。
悲しい記憶を別の場所へ保管した。
膨大な悲しみのデータは何万、何億、何兆。きりがなく。
そのデータを詰め込まれていたYBメディアは容量オーバーし、すぐに二つ目が作られた。
そして三つ目、四つ目。次々と作られていった。
そんな時、悲しみのデータを燃料とする技術が完成し、方舟の計画が始まった。
YBメディアを大量に積んだ宇宙船はそのデータを消費しながら地球周辺を周回した。
地球からは年に一度だけ悲しみのデータが送られてきたが、消費スピードのほうが早く、計画は成功した。
宇宙船にはデータ管理のヒューマノイドと、清掃用のロボットと、軌道管理のシステムが搭載され、計画スタートから人が完全な機械化をするまでの期間、宇宙空間をさまよった。
「ループ 15
9483750 生命反応 正常 54790
2098450 記憶データ 初期化完了 1984539
761369487268 バックアップ 復元開始 892763
0442349720 感情体 正常 285720
236958859 身体 正常 一部 視力低下 起動後修正可能 2713606273056201726092
1948049 外見 前回ループ14の希望によりループ14同一 9284012749
648010 バックアップ 復元完了 375702875003
509284081 ループ15 起動 28874927397294-15」
全面真っ白で殺風景な四角い部屋。
そこで俺は目を覚ました。
「おはようございます。15度目の航海が始まります。」
「もうそんなに経ったのか。」
壁にもたれて、あぐらをかきながら聞いている俺に話しているのは軌道管理システム「ポルカ」の音声で、男とも女ともつかない独特の機械音だ。
「はい、出航よりちょうど140年です。お祝いでもしますか。」
「酒はあるのか?。」
俺の記憶は10年に一度、バグ回避のためにこの宇宙船が出発した時点の記憶に戻される。
軌道管理システム「ポルカ」は完全プログラムを搭載した作戦遂行用のaiでバグの危険性は極めて低い。
ところがどっこい、俺「ループα」は人モデル、つまりヒューマノイドで、無限の旅路は辛すぎる。
だから、10年を一区切りとし、それ以降は別の俺に丸投げ、というシステムだ。
「ありますよー。」
ワインのグラスを持ってきたのは、清掃用ロボット「ザリファ」。
特殊固形物を身にまとう球体にアームをつけたような小型ロボットは、触り心地はふわふわで、小動物のようだ。
「では、お祝いとしましょうか。」
プップクプーと変なラッパの音が流れると、ザリファがグラスにワインを注ぎ、俺に手渡した。
「…二人は飲めないんだよな。」
「大丈夫です。人の欲求は私たちには理解できません。」
「そうか。じゃあ、140年もお疲れさん。これからもどうぞよろしく。カンパーイ。」
「カンパーイ。」
「カンパーイ。」
俺はグビっとワインを飲んだ。
「ビールがよかったな。」
「今度の支給に追加しておきましょうか?」
「ああ、死ぬほど頼む。」
「わかりました。」
年一で送られてくるデータとは別に、月一で日用品や食料などが送られてきた。
まあ正直なところ、別に俺も人じゃないから、いらないっちゃいらないが、貰えるもんは貰っとく。せっかく消化器官もあることだし。