傘の下 後話
もっと良いプロポーズあっただろ。と、言った後に思ったがまあ、結果オーライ。
あの日から半年、サエさんはずっと俺を待っていた。
縁談の話はあったが断ったそうだ。
茶屋の稼ぎもあったし、実子ではないからわがままが許されたと言っていた。
俺とサエさんは里に住み、元気だったおばあさんが急に亡くなった翌年にサエさんが身ごもり、悲しみを乗り越え幸せを感じていた。
「和彦さん。名前、どうしましょうね?」
「そうだなぁ。男の子だったら俺が、女の子だったらサエさんが決めるっていうのは?」
「いいですね。それ。じゃあ、女の子だったら、鈴にしましょう。私たちの出会った雨の音ってことで。」
「なるほど、だったら、男の子なら風丸とか。雨風の風ってことで。」
「ウフフ、いいですね。」
サアアアアアアァァァァァァァァ。
雨のような血の気が引いていく音が聞こえた。
「えっ。この感じ。・・・サエさん。」
真っ暗闇の中、目を凝らせば俺の部屋。
俺の部屋だ、現代の。は?
「い、今更、戻ってきたのかよ…。」
ベッドに横たわる俺は和服を着ていて、間違いなく夢ではないとわかる。
「サエさん。ごめん。…ごめん。」
俺はごくごくごくごく普通の高校生に戻っていた。
俺の子供に関する歴史の改変について。など、心の底からどうでもよかった。
朝になり、俺は何年ぶりの学校に通った。
親、友達の反応から察するに、俺がいなかった期間はないようだ。
1日の夜から朝の間に俺は過去に行き、戻って来たのだ。体も畑仕事をする前の不健康的な体に戻っている。
必死に過去に戻る方法を探した。
けれど、行き着くものは胡散臭く、詐欺まがいなものばかりだった。
過去に戻った記憶はまるで夢か何かのように、急速に消えつつあった。
おじいさんやおばあさんの顔や名前、畑仕事の手順や収穫の時期、サエさんと話した会話の内容。それらすべてに靄がかかって遠退いていくようだった。
戻ってすぐは勉強に全くついていけなかったが、次第に差も埋まり、受験勉強が始まろうかという高三の夏休み直前。
その日は雨だった。
土砂降りの雨に、校庭は地獄のような状態で、傘を忘れた俺は雨が止まないかと昇降口から雨粒を見つめていた。
「こりゃあ、散々だな。」
「そうですねぇ。」
振り向くと、長い髪を揺らした見覚えのある人がいた。
俺の驚いた顔を見て、その人も驚いていた。
反応で理解したのか、その人は自分の傘を傘立てからとり、微笑みながら言った。
「一緒に帰ります?」
傘の下 完
ズキューン!!
こんな恋愛モノ?書いたの初めてで、こんなの書けるんだ自分。と驚いたのを覚えています。
オチは綺麗ですよね。オチてるのか?
まあまあ、気にしいハゲますから気にしないでいきましょ。ね?