水遊び
「着きましたよー」
「ああ……そうだな……」
気を失わなかった自分を褒めてあげたい。移動中色々話しかけられたが、相槌くらいしかできなかったのは仕方ないだろう。
空を自由に飛び回るのは人類の夢だ。しかしそれは自分の意思で飛べばの話で、他人の力で宙に浮かされるのは半分拷問に近かった。高いところが苦手な人間なら漏らしていたと思う。
「ここからは歩きですね」
二人は町に直接降りるのではなく、近くの森に降りていた。街に直接降りれば絶対に人に見つかる。それだけは避ける必要があった。
「少し休んでからな。お前も疲れただろう?」
「わかりました。では川辺で休みませんか? 近くに水が流れる音がします」
確かに近くには川がある。しかしあまり綺麗とは言えない。汚染されているとまでは言わないが、生活用水として使うには不向き……ジルヴィアには関係ないか。
「よし行こう。また水をコップ一杯頼むよ」
* * *
「わー、大きな川ですね」
川幅はあるが深くはない。ジルヴィアは喜んで水の中に入っていった。ジルヴィアの通った場所だけが浄化されて、透明になる。しかしすぐさま汚れた水で流されてしまう。
これだけ大量の水を一度に浄化するのは無理なのか? または本気で浄化していないからかな? まあどちらでもいい。当面の問題は……。
「医者に見せたらいくらかかるかな?」
ニコラスは木に寄りかかりながら財布の中を見た。その中身は寂しい。この財布の中身で使用人を雇っていると言い張ったら笑われるだろうな。治療費がもったいないとは言わないが、果たして足りるのだろうかと思うと不安だった。
「あはははは! ニコラスさーん」
無邪気にジルヴィアが手を振っている。記憶がなくなっているというのに気楽なものだ。
ニコラスもぼんやりと手を振り返す。ジルヴィアの周りだけは浄化される川が目に留まった。
やはり周りは茶色い。この辺りは土壌汚染が進んでいて、湧き水さえ汚いと聞いたことがある。街の人間は人間のできる範囲で水を浄化して使っている。しかし、浄化は完ぺきではなく、飲めば腹を下すこともあるのだという。気の毒なことだ。
「ジルヴィアの浄化の力は完ぺきなんだけどな……」
さっきも浄化してもらった水を飲んだがやはり綺麗だった。腹を下すどころか、体の中まで綺麗になるような気すらした。
「……。あ、それだ。そうだ、その手があった」
ニコラスの視線はジルヴィアの周りの澄んだ水に向けられていた。