第一部/ほし 第一章/運命
これは他のHPで公開していた、わたしの携帯小説処女作品です。
タイトル変更してみました。
『星がきえても愛がのこる』
でしたが。
どっちのほうがいいでしょうかね?
まぁ読んでやってください。^^
******
Q>あなたは、愛する人のいない世界で生きていけますか?
A>答えはあなた自身が知っているはず。
******
ほし
――――――――――――
ほしがまばたきのごとく
流れゆく
流星のごとく
******
〜運命〜
運命なんて。
まだ小さかったころ、泣き虫だったころ、保志は雨がきらいだった。
空からぽつぽつ静かに降る雨、激しくたたきつけてくる雨、とにかくどんな雨だって好きになれないのだ。
雨の日は、さみしくなる。
太陽はすっかり雲に隠れ、灰色の不気味な厚い雲がたちこめる。
重く、どんよりとした空。
それがたまらなく不気味だった。
まるで、この世のおわりの訪れのように。
恐ろしかった。
茶色がかった髪。
切れ長の眼。
筋の通った鼻。
ぼうっとしていることの多い顔。
身長はそこそこある。
首の付け根にホクロがある。
大声で笑うことは少ない。
涼しい顔、とよく言われる。
よく寝る。
初恋は小学生のころ。
隣の席のかわいい女の子。
親友はおさななじみの熱血野球部。
かなり暑苦しいやつ。
父親は公務員。
母はスーパーでレジ打ち。
妹がひとりいる。
好きなものはラーメン。
きらいなのはニラ。
得意なことは特にないし、苦手なものも特にない。
それが、久坂保志。
今年やっと、高校生になる。
雨を克服したのは、小学校卒業と同時だった。
と、いうか、中学は忙しくて雨などに心を惑わされることもなく、社会でもまれるように、些細な感情など流れるようになくなってしまった。
たとえば、木枯らし。
ひゅうっと吹く風。
季節の変わり目。
そんなものなどに気をとめる暇もない。
ただ、疲れて、ふっと空を見る。
すると、夕暮れが美しい。
朝日が清々しい。
夜が、やさしい。
そう思えることがある。
それが、なによりもうれしかった。
それで、昔の自分に戻った気がするから。
今の自分はあまり好きではない。
忙しい、忙しい、それだけで、なにも楽しみを見出せていない。
自称、熱血野球部の嵩太は、保志の顔を見てはよく言うのだ。
「おまえ、運動神経はいいんだから、なんか部活やればいいのに」
すると、保志は決まって同じセリフを言い返す。
「ばーか。んな暇じゃねぇ」
「おまえなんかが忙しいわけねぇじゃねぇか」
すると保志は黙りこくってしまう。
たしかに自分はヒマ人である。
しかし、余裕などなかった。
心の余裕がなかった。
『ホシ』なんて貧弱で女みたいな名前だから。
だから、こんななよなよしい男になるんだ、と自分に言い聞かせる。
そして、そうやって人のせいにする自分に腹立たしさを覚える。
いやだ。
こんな自分。
そう思いはじめて、もう三年も経つのだ。
時の流れとは、はやいものだ。
高校はそこそこのところに無事入学した。
熱血野球部の嵩太も、推薦で同じところに入った。
保志は電車通学をしている。
歩いて十分の駅から、十五分電車にゆられて、また歩いて三分。
学校に着く。
五月晴れ。
春と夏の間。
そんな空間をかみしめて、保志はカバンを一度大きくふった。
重たい教科書、辞書、筆記用具・・・・・・カバンのなかでぶつかって、ゆれて、かすかに鳴る。
(重た・・・・・・今日って何の教科だっけか)
保志は空に時間割を思い浮かべた。
数学、現代社会、体育、古典、英語・・・・・・。
(げ、数学が最初か。めんどくせぇな)
そう思ったものの、自分はさほど数学嫌いではないことに気がついた。
どちらかというと、得意科目である。
好きではないだけだ。
そこで、いったい自分はなにが好きなのだろうかと考えた。
スポーツ?
勉強?
友情ごっこ。
恋愛。
夢。
青春――。
なにが好き?
そう問うても、答えなんてないに等しい。
なにがしたい?
なにを求めている?
わからない。
もがくこともできない。
ただ、忙しいと言い訳して、なにもしない。
それが、ずっと尾を引いているのだ。
振り切れていないのだ。
呪縛のような気だるさ。
逃れるすべは、まだ知らなかった。
「保志!!!」
唐突に、うしろから声をかけられた。
というよりは、怒鳴られてしまった。
「へっ」
間抜けな返事をすると、すごい形相で嵩太が走ってきた。
体当たりされると思い、息を呑んだその瞬間――恐ろしい表情はにやにや笑いに変わった。
「なんだよ、お、おまえ。気色悪ぃ」
「まあ、なんとでも言えばいいさ。おれさまは今日、ものすごく機嫌がいいのさっ」
「はあ・・・・・・?」
嵩太はにやにやっと顔中に笑みを広げると、そのまま走っていった。
「あ、おいっ」
保志も後を追い、靴棚のところで嵩太の袖をつかむことに成功した。
「おお、保志、おはよう、ははっ」
気持ち悪かった。
それほどまで、嵩太はご機嫌だった。
「保志くん、保志くん、我が親友よ!今日は久々に部活は休みさ!一緒に飲もうではないか」
「うるせぇオヤジもどき。で?なにがあったわけ」
すると嵩太はふふっと笑って、坊主頭をかりかりとかいた。
笑窪をつくり、幸せそうな表情になる。
そしてごつごつした手で保志の肩を抱き、歩きだした。
ぎょっとして離れようとしたが、嵩太は思いのほか腕に力を込めて、こちらから逃れるすべはなかった。
あきらめていると、嵩太が震えるような声で言った。
「あのな、運命ってやつなんだと思う。おれ、出会っちゃったんだ」
「はあ・・・・・・」
気持ち悪い、という言葉を抑えて、保志はまじめな顔をつくった。
「あのな、嵩太。おまえ、一目ぼれしたんだろう?よかったな。遅い初恋か。だけどな、初恋は実らないもんだ」
「バカ言えっ!!!」
驚いたことに、嵩太は眉間にしわを寄せてにらんできた。
呆然としていると、やがて嵩太の顔はもとのにやにやに戻った。
「恋ってさ、こんな感じなんだよな。うん・・・・・・白い肌、くりくりっとした目、茶色の宝石のような瞳、ぷるんとした唇・・・・・・ほっそりした手足、にこやかな笑顔、花のような人だった」
やばいな、と保志は思った。
確か、野球部はもうすぐ大会があるはずだ。
練習試合だったかもしれない。
だが、嵩太は野球がとてもうまい。
ほかのやつらよりセンスがずば抜けていることは明白だった。
だから、きっと試合にはでるんだろうな、と思っていた。
(だけど、このありさまじゃあ・・・・・・)
ちら、と隣の坊主頭を盗み見た。
でれでれ、していた。
肩を落とし、保志は低い声音で意を決したように嵩太に声をかけた。
「なあ、おい。それじゃ、帰りにその女の子に声、かけてこいよ」
「はっ?」
「だって、かわいいんだろ。もう彼氏いるかもしれないし、いなくたって、いつできてもおかしくないだろ。なら、早く手を打つこった」
「へー。協力してくれるわけかっ!さすが」
(まったくな、お人好しもいいところだぜ)
保志はにこりと笑うと、
「購買のパン二個で協力してやる」
と言った。
こうして、保志の運命は動き出す。
運命なんて言葉は、そうやすやす使えるものではないのかもしれない。
ただ、保志は感覚的に、なんとなく、偶然のような必然を感じていた。
人間と動物と植物と・・・・・・。
太陽と月と星と・・・・・・。
宇宙までもが、ともに動き出した。
歯車は止まらない。
その日に向かって。
その日がくるまで。




