邪馬台国の女王と
魔法陣の上に、シャーレから水晶を取り出して、並べる。
じっと集中して、自分自身の「流れ」を感じ取る。
そして、その「流れ」に導かれるままに、浮かんでくるイメージを、並べた水晶で表現する。バランスや美しさなんて、気にしない。聞こえるままに。
やがてモモの耳に、カチッ、と、何かがかみ合った音が聞こえた気がした。
順番に差はあれ、やがてマイ、アキも同様の音を感じたように、手を止める。
これ以上は、もう何も並べる必要はない。ここに形がある、と感じる。
「……そうぞうして……あなたのいしを……」
(創造して。あなたの意志を)
(あなたの遺志を)
(あなたの『石』を、想像して)
音が、何重にも重なって響いてくる。
聞こえてきたその声に引き込まれるように、三人は意識を、魔法陣と水晶の図形の内側へ、さらに内側へと、沈下させていく。
完全にトランス状態に入った三人を見て、はぁ、と先生方は、安堵の息を一つついた。先輩トリオは、かつての自分たちを眺める気分で、その様子を見ている。
「『飛んで』いかないように、三人の意識を、肉体と繋いでおいて」
エリカの指示に、リョウ先生が杖を取った。先端の水晶で机を叩いて、部屋を作る前から仕込んでいた、精神干渉系の立体制御陣を起動させる。
水盤を前に座り、エリカは半目で、受信強化状態に入っている。
「上代麻衣……系統は中華西周……特殊分類・第一亜種、属性『空』。最適呪術は『催眠』『意識誘導』『扇動』、特記事項『徳治』……発現元推定、周武王・姫発」
マジか、とアインが呟く。
「ガチで3000年前の回路じゃないか」
「周公旦かと思ってたけど、兄の武王なんだ……」
レイの感想に、自分は予想通りだ、と告げるジョン。
「周公旦は、孔子に神聖視されるせいで案外と霞んでるけど、兄弟に王位簒奪を疑われて乱を起こされてるからな。『徳治』の要素は、すでに欠けはじめてた可能性が高い」
「え? 何それ、初耳なんだけど?」
アインの言葉に、うん、とレイも頷く。
「『三監の乱』ってのがあってな。殷王・帝辛……・つまりは紂王だな……その子の武庚をかついで、兄と弟二人が旦を排除しようと挙兵してるんだ。鎮圧後、旦は兄には罰として死を、弟たちにはそれぞれ流罪と、身分剥奪とをしている」
ジョンの説明に、同期二人は「へへぇ!」と驚嘆している。
「なお、旦は四男で、乱を起こしたのが三兄の管叔鮮、五弟の蔡叔度だ。身分剥奪で済んだのは、八弟の霍叔処だ。蔡と霍は諸侯として継続してるが、管はお取りつぶし? っぽい」
後世に聖人扱いされている周公旦だが、レイとアインの中では、生前は案外とフツーの統治者という印象に変わった。乱を起こされている時点で、完璧な「徳治」には足りない。
「何も殷の王族を担ぎ上げる必要があったのか、って気はするわね」
レイの言葉に、その点は僕も疑問、とジョンは応じた。
「殷は、後代の印象操作で正確な情報が本当に少ないからな……中国の歴史書は、特に数字っていう点で、大盛りを通り越した特盛りをやらかすから、まぁイマイチ信用できないんだけど、しかし、周が殷を打倒する兵を挙げた時に、周軍40万に対して、殷軍は70万いたって話だから。周王朝も初期の時点では、いわゆる神話や伝説の時代の呪術の影響を、脱し切れていなかった、ってことかもな」
ジョンの指摘に、うーむ、と二人は腕を組む。
「孫先生の予言通り、マイちゃんの『徳治』が完全なモノで、それが武王の再現であるとしても、ぶっちゃけ武王って若いうちに病死してるからねぇ」
アインの感想は、残る二人にも共通のものである。
「全力展開の予想がつかないわね」
「だからこそ、オッサンは詳細を解析したいんだろうけどな」
だよね、とジョンの指摘に二人は頷く。
と、エリカの声が、さらなる驚愕の事実を告げた。
「……西周の回路の影響で、機能がだいぶ弱っているけれど……殷の回路と……夏の回路、が、同時に存在している、わね」
まさかの、思ってもみなかった、より古い時代の回路の発掘に、生徒たちも、リョウ・アヤの先生たちすらも、ざわめいた。
「夏? 本当に夏王朝の?」
訝ることを隠そうともしないアヤの問いに、ぼうっとしているようにしか見えない目のまま、しかし、しっかりとエリカは首肯した。
「殷より古い……水と土の複合呪術の……これ多分……『禹』のじゃない?」
古すぎるし弱いから、確定はできないけど、と付け足されたが、内容のあまりの衝撃性に、そんな注釈はまるごと吹っ飛んだ。
「禹?!」
全員が、トランス状態の三人を慮りながらも、驚愕の声を上げた。
「禹? あの、夏王朝の創始者の?」
レイの問いに、それ以外にいるのか、と同期からのツッコミが飛んだ。
「水流解析・制御……治水系の、魔法寄りの呪術、なのは、ほぼ間違いないわ」
エリカの答えに、「それ、ガチで禹の能力じゃねぇすか」とアインが言った。レイはぽかんと口を開いて、そのまま固まってしまった。
「西周ってだけでもとんでもなかったのに、夏が出てくるとかマジか」
アインの感想に、おう、とジョンが応じる。
「驚きすぎて、心臓だけ世界一周してきた気分だな」
レイはまだ放心している。中国系術師だけに、衝撃が大きいらしい。
「んで、殷の回路の方は……天候干渉系だわ……これもずいぶん弱ってるけど……」
エリカの分析は続く。
天候干渉。ペナルティは大きいながら、古代から重宝され続ける呪術だ。殷の王族が保有していても、まったく驚くことはない能力である。
「もう一周回ったから、何が来ても驚きませんよ」
ジョンの断言に、そうかしら? とエリカは疑義を呈する。
「この天候干渉能力……多分、湯王・天乙のだけど」
次の瞬間、ジョンはぽかんと口を開けた。
「……驚きました」
「私も驚いているわよ」
まるで驚いていなさそうな声で言うが、術を行使している最中であるから、頑張って感情の波を抑えているのだろうな、と、先生組は理解した。
「ということは……マイには、夏・殷・周の、三代の、創始者の回路が?」
アヤの問いに、そういうことね、とエリカは声で応じる。
「『歴史再現計画』にとっては、辿りにくい古代の部分を、全て一人で埋めてしまえるという、凄まじい逸材ね。曹文宣が目をつけるのも納得だわ」
「狙われるわけだ……それにしても……」
リョウが、あきれと同情のまじった視線を、レイに向ける。
「ショックすぎて、リーが使い物にならなくなってんねぇ」
つんつん、といまだに放心状態の友人を、アインはつついてみる。
「意識飛ばしてる最中に、変なことすんのはよせ。いくらタマシイがこの部屋から出られないように、立体制御陣が起動してるってもな」
ジョンのたしなめに、へいへーい、とアインは手を引っ込める。
レイに対する強制的な『強化』のこじ開けといい、アインはどこか、危険を伴うことに対して、慎重さが足りない気配がある。大胆というと聞こえは良いが。
「あと、孫先生の予言通り、邪馬台国女王の卑弥呼を発現元とする、古代日本の回路が一つ……典型的な巫女の能力、神おろしの『憑依』ね」
まぁなんと珍しい回路の複数所有者だろうかと、全員がうなる。
「卑弥呼の能力って、たしか日本人でも激レアですよね?」
レイの問いに、そうよ、と返すアヤ。
「世代を経て混血を繰り返すということは、新しい能力を生むことであると同時に、古い時代の回路を組み換えてしまう、ということでもあるからね」
そう説明するアヤの横で、でも変ね、とエリカは小さく呟いた。
「何が変なんですか、姉さん?」
「巫女の能力は『憑依』だけで完結してはいけないのよ……それだと『憑かれ』っぱなしになっちゃって、とても危険だから……卑弥呼の能力だって、もちろん『憑依』もあるけど、それだけで終わったわけがない……必要なことが終わったら、カミにお引き取り願うための能力を発動したはず……なんだけど」
「だけど?」
ほぼ全員が、異口同音にエリカの言葉の最後を繰り返す。
「マイちゃんには『憑依』以外の回路が、ない……」
ぽかん、と、ほぼ全員が口を開いた。
それはつまりマイが、非常に強力な幽霊ホイホイである、ということだ。入ってしまった幽霊を、外に出す能力もない。残念様には、なんと美味しい素体か。
と、いうことは……
さしものアインも青ざめた顔になって、師匠方に問う。
「ひょっとして、ユウさんの応援がなかったら、めちゃくちゃヤバかった、ってことすか?」
マイは一度、残念様の直撃を食らって、精神侵蝕をされた。
幽霊を自力でひっぺがせない者にとって、それは乗っ取られることに近しい。
「でしょうね。まぁ相方次第、でもあるけど……」
エリカはそう答えながら、手のひらに大きな水入り水晶を握った。
「坂之上桃……系統・古代日本……属性は『土』と『水』だけど、びっくりすることに、火と風にも、それほどじゃないながら適性があるわよ。五行の分類で言うなら『木』の適性が大きいみたいね……最適呪術は『鎮静』『慰撫』『調停』。特記事項は『予知』よ」
ん? と、先生組が首を傾げた。
エリカの解析は続く。
「発現元推定……邪馬台国女王・卑弥呼」
その答えに、復活したはずのレイが、素っ頓狂な声をあげる。
「えっ?! マイちゃんだけじゃないの?!」
レイがマイを「姫巫女」と呼んだのは、マイこそが、古代の女王・卑弥呼の能力を再現する存在である、と考えていたからである。
だが、実のところそれは、マイの双子弟子である、モモの能力でもあったわけだ。
「けれど、モモちゃんには『憑依』がないわ」
「『憑依』がないのに、『卑弥呼』?」
ジョンが、まるで理解できない、とでも言いたげに眉根を寄せた。
「ええ」
エリカは半目に閉じたまま、微かにうなずいた。
「見事なまでの『分割発現』ね。こんな完璧なのは初めて見たわ」
その言葉に、なるほど、と頷いたのは先生方である。
「『憑依』だけがマイに発現し、残りの回路は、すべてモモにあるのね」
「なるほど、それで『対魔特化』体質になれるわけか」
アヤ、リョウは完全に納得の態である。
「まぁ、卑弥呼以外にも、欠損しまくりながら変なのが見えるわよ」
夏王朝の回路まで出てきたのだ。もう何が来ても驚かない。
「かなり弱っていて、断片的なブツなんだけど」
「誰のどんな能力で?」
リョウの問いかけに、眉間にしわを寄せつつ、エリカは答える。
「なんか、神功皇后っぽいかと……海に関する能力だわ」
……とんでもないのがきた。
「神功皇后って、応神天皇の母親の?」
アヤの、滅多にない間抜けな質問に、エリカはようやく小さく笑った。
「それ以外の神功皇后は、寡聞にして知らないわ」
他に誰がいる、という話である。
ですよね、と答えて、アヤは生徒たちにマニアック日本神話を解説した。
「神功皇后は、仲哀天皇の皇后であり、応神天皇の母親であり、日本書紀では天皇位にあったというわけではないのに、相当数の文字量を割かれている、神懸かりの巫女でもあった存在ね。記紀の編纂の際に、卑弥呼の記述と辻褄を合わせるために考えられたとも言われるし、謎が多い人物よ。まぁ神話上の存在なんだけれども」
「日本書紀だと、朝鮮半島に派兵して、高句麗と戦闘になった……という記述が、目を引く存在でもありますよね」
韓国籍の申静哲が、解説を足す。
「え? そうなんだ?」
アインの驚いたような声に、そういえばコイツは世界史-地理選択組だったな、と、ジョンは高校時代を思い出す。ジョンは世界史-日本史選択組である。
なお、アインの選択は「ノーマルモード」で、ジョンの選択は「ハードモード」と呼ばれていた。ちなみに「イージーモード」は世界史-政治経済の組み合わせである。イージーモード選択は、理系にしか許されていなかった。今のカリキュラムがどうなっているかは知らないが。
「そうなんだよ……で、それに端を発するとされる、任那日本府は、戦前に日本が朝鮮半島に侵出する際に、口実の一つに使われた……ただ、肝心の高句麗側の一次史料に、日本というか『倭』の軍が攻めてきて、朝鮮の一部……っていうか新羅を占領した……と読める記述があって、ややこしいんだよ、ね」
ジョンの言葉に、ええ、とアヤは頷いた。
「『好太王碑』ね。または『広開土王碑』。日本と朝鮮半島とで、まぁもう解釈をめぐって、割れるの揉めるのなんのって……まぁ、論争の詳細はこの際、どうでもいいわ」
どうでもいいのか。
学者先生が二の句も告げなくなりそうなことを、どどんと宣うアヤ。
「重要なのは、海を渡って軍隊を指揮した女傑の呪術回路を、モモが持ってるって点よ」
まぁ、自分たちは歴史屋ではなく、魔女である。
論争の正解よりも、どのような呪術に適性を持っているのか、という点の方が、たしかに重要な問題だ。現実的な意味で。
「エリカさん、能力の詳細は割れます?」
「せいぜい、船旅の加護……ってレベルよ。風向きや潮の流れを、直感的に把握する能力ね。いわゆる『神おろし』は、欠損部分が多すぎてまったく使えないわ」
リョウの質問に対する答えに、アインが「うわ」と唇を尖らせる。
「地味ーなの」
率直きわまりない感想に、リョウは改めて釘を差し直す。
「現代ではな。古代ではきわめて重要な能力だぞ」
「これを軽視するなら、次、アウトリガーで太平洋を横断する課題を出すわよ」
エリカの追い打ちに、アインは「めっそうもない」と手を振った。外洋航海用とはいえ、小舟で太平洋横断だなんて、もう遭難する気しかしない課題である。
いや、太洋州島嶼諸国の民は、古くからこれをしていたのだが。
しかし、アインにはできる気がしない。できない気しかしない。
「とりあえず、モモちゃんは、基本的に古いヤマトの回路なんですね?」
レイの確認に、そうね、とエリカは肯定を返す。
「五行説で『木』の適性が強いとはいっても、それを基準に能力を発動するわけでもないみたいだし……日本ヤマトの『源流』といっていい能力を持っている、感じね」
「原始日本の呪術回路か……活用方法について、少し研究を深めておかないと」
アヤの、いかにも研究者肌の発現に、未だ半分ほど「没入」状態のエリカは、短くまた「そうね」とだけ返事をする。
「で、最後の一人なんだけど」
アキである。
姉弟子の言葉を、先生夫妻は緊張に満ちた面持ちで拝聴した。
「この子『真っ黒け』ね?」
予想していたらしい。アヤが乾いた笑いを漏らした。
真っ黒け……というのは、呪術回路の判別においては、褒め言葉ではない。
呪術回路を判定する時に「黒い」と形容するのは、「黒魔術適性が高い」という意味である。その中でも「真っ黒け」とくると、これはもう「黒魔術以外の使い道がない」だ。
「山瀬秋津……系統は古代日本……属性は『風』と、少し弱いけど『土』ね。最適呪術は『助長』、それと『呪詛』」
うわっ、黒い! と先輩トリオから悲鳴じみた叫びがもれる。
レイは顔を歪め、アインはひきつり笑いし、ジョンはぺしっと額を叩いた。
呪詛。
それは『医療の魔女』アユミの弟子であるジョンにとって、戦うべき相手である。
「風の流れを読むのが適性だけど、これといった有名人の能力を持っているというわけではない。明確な発現元の名前は出せない。でも、能力自体はとても古いわ。ただ……これ……」
言ったものか、というためらいのような間の後、言葉が続いた。
「アイヌ系っぽい、というか、いわゆる古代の蝦夷の能力、みたいね」
「摩霧一族の助言が必要ですかね?」
アヤの問いに、どうかしら、とエリカの言葉は歯切れが悪い。
「あの一族の専門は『水』だし……ただとりあえず、アキちゃんの能力は、ノノに聞いた『ウェンペ』のチカラが近しいように思うわ、多分……」
「うぇんぺ?」
首を傾げるアインに、エリカは端的すぎる訳を告げた。
「『悪しき水』って意味よ」
やはり、何やら物騒な能力のようである。
「どういう能力なんですか?」
隠しきれない警戒心をもらしながら、ジョンがエリカに問う。
「あらゆる水に干渉して、マイナスの影響を及ぼす能力よ。体内にある水に干渉すれば、相手を病気にかけたりすることもできるわ」
「治療方向に活用はできないんですか?」
レイの質問に、難しいわね、といううれしくない答えが返る。
「病原体を特定して弱らせる……という使い方が、まぁなくはないんだけど、そこまでのレベルまで達するのに、とても時間が掛かるわ。そして、そこまで鍛えるためには、なにがしかを病気にかけるぐらいの、いやな実践訓練が必要でしょうね」
それは、実に、やらない方が良いことである。
「まぁ、この子の場合は適性が『水』じゃなくて『風』だから、下手すると汚染拡散能力はもっと高いかもしれないわね」
嫌すぎる能力である。
「『助長』も、本来ならば『余計な手助けをしてダメにする』って意味だし、なんというか、よくもまぁスカウトしたわね、って感じね……破壊特化型じゃないの」
エリカは呆れているが、先輩弟子トリオも、遺憾ながら同意である。
「しかも、アキちゃんの水晶って、黄水晶ですよね?」
レイの確認に、そうだ、と頷いたのはリョウである。
「私も鉄分干渉系水晶使いですけど、黄水晶と紫水晶って、たしか、使いこなせたらですけど、もっと細密な干渉ができましたよね?」
表面に針鉄鉱の「錆び」をまとっているだけの蜜柑水晶と、内部の鉄イオンの作用により発色している黄水晶や紫水晶。
一見同様に見える「鉄分干渉系呪術」媒体としての行使であっても、おそらく発動を可能にするための理論化作業がまったく異なるだろう。
ああ、と頷いたリョウの目は、ジョンを見ていた。
そういえば、医療系呪術を真面目にやっているのは、エリカを別にすれば、自分しかいなかったな、とジョンは思い出す。
多分、実際に「それ」を見たことがあるのは、自分だけだろう。
「アユミ先生が、稀に『黄紫水晶』を使うんだけど、水晶そのものを体組織や血液に見立ててた。つまり悪い言い方をすると『藁人形』みたいな使い方だ。先生のは治療だけど、破壊特化型術師が同系統の術を使うとなると、悪い予感しかしないな……」
うへぇ、とアインが舌を出した。レイもこめかみを押さえている。
「形代型呪術は、治療にも効果的だけど、破壊型の術としての方が、もっとポピュラーかもね……」
そう、それこそ、呪いの藁人形とか。
自分がスカウトしておきながら、うわぁと顔を引きつらせているアヤ。物申したい気分になりつつ、しかし、危険に引きずり込まれそうな素材ほど、先に『白』の世界に取り込んでおくのが、このところの恩師の方針であったことを思い出し、口を噤む弟子一同。
「占星術の適性は? 予知じゃなくて、現在分析限定で」
「悪くないわ。感性自体はしっかりしてる……現在知なら問題ないわね」
「あと、薬草の扱いの適性は、どう?」
アキに関して、やけに具体的な分野の質問をするアヤに、ああ、と夫のリョウが納得した。そして、無二の大魔女エリカも、なるほど、と頷いた。
「当たってるわ。発現した古代の回路を組み合わせて、新しいシステムができてる。星読みと風使いの二重能力……黒魔法寄りの複合呪術ね」
ぽかん、と口も目も見開く弟子トリオに、やっぱりか、と頷く師匠夫妻。
「アキの最も得意にする術は……『インフルエンザ』か」




