表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残骸の翡翠  作者: こだわり竹刀
転生者喪失世界編
9/28

No9 『不倶戴天(ウラヌイ)』

遅くなり申し訳ありません!!

今話はフルバトルです!


バレンタインの日に投稿っていいですね! 機会があればイベントにちなんだ小説を書きたいです。

メリル工場:倒壊層


 両手から巻き起こる風は、捩れた枝のごとく、ツバトの体に突き刺さる。強風が小さな穴から一点に排出されるような、鋭い攻撃がツバトを襲ったのだ。


「うぐう!!」


 幸い、身に着けた防具が風を防いだが、それでも防具越しに威力がツバトに伝わり、苦痛が漏れる。あまりの威力に防具の損傷も酷く、そのえぐられたかのような傷がおぞましく残っている。


 ツバトは体勢を取ろうとするが、翡翠の少女は攻撃のモーションに入っている。彼女は再び、両手を後ろにらしていた。


(来る!)


 ツバトは本能に従い、後方に飛んだ。


 翡翠の少女はった両手を前に突き出し、風を放出させる。

 破壊されたガレキをさらに分解するような攻撃。ツバトは直撃は避けたものの、あまりの風圧に飛ばされ、向こう側のガレキにぶち当たる。


 そして、追撃とばかりに風の渦がガレキごとツバトに襲う。

 その威力、規模、風の回転力はまさにサイクロンを思わせる。


「ああああああああああああああ!」


 ツバトは夥しい風の渦を浴び、叫びながらも、両足に力を込め、踏みとどまっていた。

 彼の目は勝負を捨てた目ではない。

 闘う者、そう戦士の目をしていた。


 だが、殺し合いに覚悟はいらない。


 風の渦が晴れ、ツバトは翡翠の少女を視界に捉えた。

 捉えられた少女は表情を乱さず落ち着いており、捉えた少年は驚愕した。



 なぜならツバトの目に入ったのは、少女が石の槍を穿とうとする光景だった。



「死んでください」


 ガレキを風で研磨した槍は、風を纏いながらツバトの首を切り裂きにいく。

 間一髪、ツバトは首を動かして避ける。

 槍は勢いのままツバトの肩上を通り、少女はツバトに隙を晒す。


(いける! この距離ならリーチの短い武器を持った僕が有利!)

「はああ!」


 槍に纏う風は勢いを増し、ツバトを弾き出すように吹き飛ばす。


「ぐあっ!」


 左回転にかかった風はツバトを空中に放ることに成功した。

 翡翠の少女は手元に槍を戻し、投擲の構えに入る。槍の末端に向かい風がロケットのブースターのように頻出している。


 投擲する瞬間、恐らくこの工場に入って初めて、翡翠の少女は顔に歪みを見せた。


「くぅ!」


 少女の右肩の関節にはナイフが刺さっていた。

 休むことのない連続攻撃に意識が朦朧とするなか、ツバトは少女よりも先に自身の得物を投擲することに成功させた。


 地に落ちたツバトは瞬時に翡翠の少女目掛けて駆ける。

 恐らく、これが最初で最後ラストのチャンス。



「ハアアアアアアアアアアアアアアァ!!!」






 短剣暗殺術-『不倶戴天ウラヌイ』。

 この技はツバトにとって奥の手であるが、切り札ではない。


 ツバトは、切り札で勝負するには相手との実力が離れすぎていることを、第7階層の侵入のデータから知っていたため、一か八かの奥の手で勝負する方が勝算は高いと思った。

 そして、この『不倶戴天ウラヌイ』が暗殺術において邪道な技であることも理由の一つである。

 本来、暗殺術とは敵にばれることなく殺す、いわば闇に隠れる隠者の技であり、翡翠の少女がツバトを認識した時点で暗殺術は失敗している。


 だが、『不倶戴天ウラヌイ』は例外である。






 ぐきいいっ!


 ツバトの拳が鈍い音を立てながら翡翠の少女の腹にめり込む。


「っかはっ」


 翡翠の少女が反撃に出ようとするも、ツバトの膝蹴りを肩に食らい、構えを取れない。

 ここにきて長物の槍が邪魔になる。手放そうと指を開こうとする前に次の攻撃が迫る。

 そこから頭突き、蹴り上げ、倒立からの踵落としが、少女をやすりで削りおとすように続く。


「くふっ!」


 拳を持ち上げるように放たれた重い一撃は、少女の体は弛緩させた。

 このままではまずいと考えた少女は距離を取るために、旋風を巻き起こす。

 自身も巻き込むこの風には殺傷能力はない。しかし、数メートルであるが、黒髪の少年との距離は取れたのは大きい。


 遠距離からの攻撃において翡翠の少女の独壇場。

 彼女の考えは誰から見ても正解である。


「なっ!」


 だからこそ、ツバトにもその正解を読むことが出来た。

 旋風を突き破り、風の残滓を纏いながら少女に迫る。

 超近接格闘術。

 二度の轍は踏まない。翡翠の少女は、四肢のあらゆるところに風を装填させる。


(一撃目は受けるかもしれません。しかし、二撃目は受けない! くらった瞬間に装填された12の風を全てを開放します!)


 コンマ二秒という咄嗟の時間で翡翠の少女は、活路を導き出した。その早い思考スピードと的確な答えを算出することから、彼女はこれまでどのような修羅場を潜り抜けてきたのかが分かる。


 装填された風がエンジン音を響かせるように荒ぶりを見せる。

 黒髪の少年と翡翠の少女の零距離まで、あと一メートル。

 このとき、翡翠の少女は己の、肉を切らせて骨を断つような戦術だったとしても、勝利を確信していただろう。





 しかし、やはり、あまりにもコンマ二秒は短かった。





「っっっっ!」


 右わき腹から激痛が走った。まるで炎の蛇が皮膚を食い破り体内でもがくような、焼き付くような痛みだ。思わず手で抑えると妙に生暖かった。

 ズブリ、と赤い液体が自分の足元に垂れているのが分かる。


「…………」


 呆然と赤い水たまりを見る。このときの私の目は精気を失っていただろう。

 切口から流れる血が、自慢のセーラー服に染みている。これは落とすのに苦労しそうです。


 感傷に浸っていたせいで気が付かなかったのか、いつのまにか装填した風は全て無散している。血を流しすぎてしまいましたか。


 私は、ゆっくりと後ろを振り返った。


 そこには黒髪の少年が立っていた。右手には一振りの赤いナイフがある。いや、あの赤色は私の血の色だ。ナイフの先端からゆっくりと雫が落ちているのをみて分かった。


「そうですね、あのときの倒立でしょう」


 思えば、踵落としからの倒立はかなり無理がある。よほど練習しないとあそこまでスムーズにはいかない。きっとナイフを投擲した時点で、技の組み合わせは決まっていたのですね。


 倒立で拾ったナイフを袖などに隠し、私が距離を取るために放出した旋風を突き破り、通り抜けるようにして私の腹をナイフで切った。


 その、一撃。


 今までの連撃は、必殺の一撃に繋げるための布石。

 すがすがしい負け方です。

 ですが、私は、それでも。



「死ぬのは、いや、です……」



 この言葉を最後に、そして黒髪の少年の後ろ姿という光景を最後に、私は気を失った。






連撃から暗殺への高速切り替えし術――『不倶戴天ウラヌイ』により侵入者一名撃破。

メリル工場侵入者、現在確認数、1名。

2名撃破、及び1名確認不能。




次話投稿もけっこうかかりそうです。申し訳なく思っています。

ここ、最近小説を書く苦しさを味わっています。

やはり、根性いりますね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ