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残骸の翡翠  作者: こだわり竹刀
転生者喪失世界編
8/28

No8 二色の会合

ダブルで遅くなりました。

あけましておめでとうございます。

今回は少し長めです。

メリル工場第26層


「くおっ!」

「はああっ!」


 黒髪の少年と女性研究者の二人は霊体鬼ゴーストの群れに突っ込んでいた。荒れ狂う霊対鬼をいなし、かわしながら中心へ向かっていく。


「ちょっといくらなんでも多すぎでしょう! このままじゃ私たちが先に倒おれてしまうわ!」


 ツバトは持ち前のナイフの攻撃に加え、女性研究者の『音響解析装置エコーター』で核となるミカゲイシを一度に一斉に破壊していくも、それ以上に霊体鬼が集まるスピードが上回っていた。


「ジリ貧ですね。一度退却しますか?」

「それはダメよ。この数相手に背中を向けるのは危険だし、逃げ切れるまで体力が持つか分からない。何より逃げ切れたとしても工場から出るためにはここは避けられないわ」


 ツバトと女性研究者は互いに背中を合わせながら、話し合う。


「あら、なんだかこの格好、映画のワンシーンみたいね。事件に黒幕を捕まえたと思ったら、口封じのため四方が敵に囲まれてしまった的な」

「それだと僕が相棒ですね」

「冒険者と研究者のコンビもなかなか悪くないと思わないかい、ワトスン君」

「僕はまだ学生ですよ、ホームズ」


 危機状況に二人は破顔した。

 そして、気合を入れるためにお互いに確認を入れた。


「死ぬ準備はできた?」

「死にませんし、死なせませんよ。僕が先輩に怒られてしまうじゃないですか」

「学生なのに?」

「先輩が言うには、『ガキ』だからみたいです」

「いい先輩ね」

「はい」


 霊体鬼の凶爪が二人を囲むようにした襲い掛かった。

 怒号だろうか。叫びだろうか。

 二人は獣のように、声ならぬ声をあげながら霊体鬼に武器を向ける。




◆ ◆ ◆ ◆




 如月という女の子がいた。


 少女はいつも僕に声をかけてくれた。

 僕の村では黒髪は『忌み子』の証だった。

 なんでも黒髪をした人間たちが僕の村『の大切なもの』を根こそぎ奪っていったらしい。

 誇り。思いで。匂い。自慢。根気。時間。流れ。恵み。そして神様。

 残ったのは抜け殻だった。

 自分たちの村なのに大人たちはこれは自分たちの村じゃないと言っている。

 村の『大切なもの』を奪われた後に育った僕には、大人たちが言っていることが分からなかった。


 そんな過去があったせいか、大人たちは僕に暴力を振るう。

 返せ、返せ、と。

 繰り返しが続く。

 誰かが犠牲になればいい。盾が存在するためには矛が必要なように、人として生きていくためには人ならずして生きる”障害”が必要だ。

 僕はババを引いてしまった、少なくない盾持ちの子どもなのだ。

 迫害を受ける僕に手を伸ばしたのは一人の女の子だった。

 その女の子の名前は如月きさらぎ。透き通った金髪が目に焼き付いている。

 赤い目で僕を映し、雪白のような手で僕の手をつかんで、無理に立ち上がらせる。

 これが僕にとって一日のスタートだった。


 時が経ち、その女の子は村を生かすため国に売られた。

 如月がどうなったか僕には知る由もない。

 ただ、失ったものが安らぎであり、村の大人たちが返せと言っていた『大切なもの』がなんであるか。

 少し分かった気がした。

 その翌日に僕は盾を捨てた。




◆ ◆ ◆ ◆




 倒壊していく工場。

 僕は今まで倒れていたらしく、ガレキに手をかけながら立ち上がる。

 額から何か熱いものが流れていく。血だろう。

 朦朧もうろうとするなか、視認できる距離に女性研究者がいたことにほっ、とする。


「こんにちは」


 ソプラノのようであり、人間味を感じさせない声が聞こえた。

 彼女は天使のように倒壊して通じるようになった上層からゆっくりと降りてきた。

 僕はその光景をどこか名画のように感じた。

 神聖、とでも言うのだろうか。


 地に降り立った少女は、ボブという肩にギリギリかからない程度の髪型をしており、色は明るい緑色。翡翠というのだろうか。学園とは色が違い黒だが、よく見かけるはずのセーラー服も彼女が着れば晴れやかに見える。


「あなたは侵入者ですね」


 彼女を陶酔しているはずの僕は敵意むき出しで訊いた。


「そうです。ここを通させて貰います」


 僕の敵意を無視して返答する。いや、僕というものは彼女にとって敵でもなんでもない。路傍の石ころなのかもしれない。


「ここは、通せません」

「貴方の意見は聞いていません。私の道の邪魔になるというのなら、片付けるのみです」


 ……これは暗に僕を殺すと言っているのだろうか。

 面白い。


「それはできません。あなたはここで死にます」

「……私が死にますか?」

「僕にはあなたを生かして捕まえるほど強くはないですから」


 腰に差してあった短刀を抜き、僕は構えた。

 人の急所を狙う暗殺短剣術----『不倶戴天ウラヌイ』。


 対し、彼女は地に降りたときと同じように、ゆっくりとこちらに近づいてくる。


「貴方のような身の程知らずのバカが一番怖いですね。自分が世界の中心だと主張するようにエゴを振り回す。こんなものが私と同じ人間であり、人類という同じ枠に収まってしまっていると思うと、本当に怖いです。

 だから、ここで殺します。

 貴方のような俗物は大嫌いですから」


 ああ、それは僕も同感だ。

 君みたいな『聖女』のような人間が、僕は大嫌いだ。


 だが、嬉しくもある。


 僕の『大切なもの』を奪った世界。

 それをまるで作った『神様』のような翡翠の少女。

 戦うことで僕はなんにも救われない。そんなことは分かっている。

 ただ、戦うことで僕という魂が炎を焚き上げ、輝いていくのが分かる。

 感じる、僕という魂の奮えが。


 そう、今は彼女が盾で、僕が矛。

 だったら、前に突き進むしかない。













 人が人として輝くためには、ステージが必要だ。

 ヒーロー、殺人者、貴族、海賊、アイドル。

 違いはあれど、自らのステージに立ったものは、高揚し感動する。

 やっと、自分の力で未来を創るのだ。



 誰もが喜びながら進むのだ。



 もちろん、あなたの大嫌いなあの人も。

次回もいつ投稿されるか分かりません。

気長に待っていただきますと幸いです。

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