No5 溺煙する歪炎(よごれたほのお)
拙い文章かもしれませんが、よろしくお読みください。
今回はバトル中心です!!
メリル第26階層、研究者私室層プライベートセル
燕之涙A級冒険者、ウルティオレ・バレキが火傷の跡を負った黒髪の男にレイピアを抜く。
彼女は突進を試みようとするが、再び地を這う黒煙がオレンジ色の明かりを見せる。
「くううっ」
ボオオオオオオオオオオオオ、という噴出音とももに噴き出る炎をウルティオレはかろうじて避ける。
しかし、避けた先にも黒煙がオレンジ色の明かりを見せている。
「『アイスシールド』!」
噴き出た炎は、ウルティオレの右手から収束された氷の盾によって防がれ、炎は四方に飛ぶ。
「へえ、うまいじゃん」
火傷を負った男は言葉では褒めているが、顔には一切の関心が見られない。
(…………この者強いな)
燕之涙A級冒険者、ウルティオレ・バレキは苦戦していた。
冒険者にはA,B,C,D,Eというランク付けされ、功績にとってランクが決まる。冒険者はEランクから初め、功績を積むことでランクを上げることができる。どれだけ実力が上がろうと、功績がなければ意味がない。
つまり、ウルティオレ・バレキという冒険者は23歳にして、功績を積み続けてきたといえる。A級というランクは彼女が他人を嫌い、ソロとして冒険者稼業を続け、生きてきたからである。
もちろん、A級である彼女は実力があり、魔力耐性も高い。中級の魔法なら避ける必要もなく、防ぐことができるだろう。
だが、目の前の男が放つ炎を違う。
黒煙から噴き出る炎は軽く、対象を燃やすというより、炙るものだ。だから、相性だは不利な氷属性の魔法で男の炎を防ぐことができた。
だから、防いだ炎が四方に飛んだのだ。
「見えたぞ」
「ああぁ?」
視界に舞う火の粉をレイピアで払う。
「貴様の攻撃の主体は、噴出する炎そのものの威力ではなく、広範囲による領域支配だ。ゆえに炎に重みがない」
「…………そうだとしたらどうだというんだ?」
地に這う黒煙にオレンジ色の明かりが浮かぶ。
それも一つではない、四つだ。
「種がばれちまえば、隠す必要もねえ。正解できたことに後悔するんだな」
四つ同時に噴出した炎はウルティオレに直撃する。火炎が弾け、火の粉が激しく飛ぶ。
「いいや、後悔はしない」
激しく燃える火炎の中から、一筋の水色の光線が男に奔った。
「があああ!」
男が痛む腹に手を抑えると、冷たい感触があった。視線を下げると、そこには氷が生えていた。
「『アイスシュート』。氷と光の混成魔法だ。その声からして直撃したようだな」
ブアッ、と声がしたほうから風の音がした。
「俺の炎も直撃したはずだ。いくら軽くてもノーダメージにはならねえ」
「確かに直撃はしたさ。だが、私に、ではない。炎が直撃したのは私が放った魔法にだ」
ウルティオレは長い水色の髪を払いながら答える。
「支援型氷魔法『アイスヒール』。本来高温度の環境地帯で使うものだけど、込める魔力の調節と、ちょっとした工夫があればも冷風だって生み出せる。いくら炙ろうが冷風を纏う私には効かないわ」
冷たい風が辺りを冷やす。
地に這う黒煙も冷えていき、どことなく煙が縮んでいく。
「さあ、降参しろ。お前に直撃した魔法が体を凍らせる前にな」
「…………拘束魔法か」
「いや、属性によるものだ。氷は生命の温度を下げ、神経や感覚器官を鈍らせる」
ウルティオレの勧告に、男はうっとうしいといわんばかりの表情をする。
男の足元の黒煙にオレンジ色の明かりが灯る。
「おいっ!」
ブオッ、という噴出音とともに男が炎に炙られる。
「ちっ。 緑のガキと似たような技を使いやがる」
炎の中から現れた男は頭をかきながら、ウルティオレにとって意味不明な言葉を出す。
だが、ウルティオレはそれよりも男の腹部に目をやった。
氷が溶けていたのだ。
「炙ることを主体を持った俺の炎は氷を一瞬で溶かす。あんまし使いたい手じゃねえがな」
「なるほどな。お前の体にある火傷はそのためについたものか」
「そう聞くと俺が拘束されまくっているふうだな」
「違うのか」
違うな、と言うや男がウルティオレに向かって走る。
「くぅっ!」
てっきり男が中距離狙撃タイプと踏んでいたウルティオレには反応が遅れ、男に首を掴まれる。
そして黒煙が這う地面に押し倒される。
「がはっ!」
地面に押し倒された衝撃で声が出る。
「なるほど。これが『アイスヒール』か。確かに少し冷えるな」
下の黒煙からオレンジ色の明かりが灯る。
炎が迫ってくるのだ。それも幾つもの炎が。
「油断と誇張。対人戦においてマイナスなものだぜ」
「自爆するきか!」
「もうすぐ分かる」
ウルティオレは男の腹部に蹴りを入れる。
男は痛みの声を出すが、ウルティオレの首を離さない。
「離せえええええええええぇぇぇ‼」
ウルティオレは叫びながら蹴り続けるが、それども男が手を離さない。
死の明かりが、二人を照らすまで迫ってきている。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼」
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬし―――――――――――――――――――――――――――――――――――
そのとき、ウルティオレの頭には一つの手が浮かんだ。
死を目の前にしたからだろうか。走馬灯のワンシーンに出てきたのだろうか。
彼女は起死回生の手だ浮かんだのだ。
練習したことがない、本番一発の技。
男の魔法で熱せられた大気と自らが生み出す冷気を合わせることで生まれる突風。
混成魔法『ロールウインド』
「はああああああああああ‼」
(決まれ‼‼)
◇ ◇ ◇ ◇
メリル工場第7階層大扉前
「『溺煙する歪炎』がここまで来ましたか」
翡翠の少女は床の隙間から這うように出てきた黒煙を見て呟く。
「早く私も役割を果たしましょう」
翡翠の少女は海軍の軍服を黒に染めたような服を払い、無残な姿で倒れている冒険者、研究者を『力』で吹き飛ばし、造った道を歩む。
その所業をしても、少女の顔に変化はない。
闊歩する。
「それにしても」
死屍累々の中から、海賊剣を使う冒険者に目を向ける。
男の右手に持つ海賊剣ともうひとつ、藍色のした短剣が左手にあった。
「『対魔剣』。この手は悪手でしたね」
翡翠の少女は男の傍でしゃがみ、藍色の短剣を手に取る。
「私が使う『力』は魔法ではないので。残念でした」
対魔剣を腰に括り付け、翡翠の少女は次の階層に向かった。
メリル工場侵入者、現在確認数、3名。
1名確認不能。
また、改稿するかもしれませんが、ご容赦ください。
次回、遅れるかもしれませんが、水曜日に投稿できるよう頑張ります。