No24 人間兵器
遅くなって申し訳ありません!
どうぞ!
それは、何の前触れもなく起こった。
ツバトと軍人の男が戦いをしている最中に、謎の紫色の光が、彼ら二人もろとも、戦っていた空間ごと覆った。
視界一面、紫色になるのは驚いたが、すぐにその色は消えていった。
そのあとだった。ツバトが本当に驚いてしまったのは。
彼ら二人が戦っていた場所、正確には地面の天井や壁、足場、そこにあった小型プロペラ機までもが、水の中に入った醤油の一滴のように、空気に溶けていった。
「へ?」
謎の浮遊感に思わず、変な声が漏れていしまった。ほどかれた足場は、その役割を失い、ツバトは地面のさらに底へと落ちていった。
「なんだあ!?」
傍目で見ると、軍人の男も驚いた顔でツバトと同じほどのスピードで落ちていく。どうやら、この惨状はあの男の仕業ではないらしい。
吸い込まれるように見えない穴の中へ墜落していく。滑空する音が耳鳴りのように聞こえる。その音は5分間止むことなく続いた。
◇ ◇ ◇ ◇
「よっと」
斬撃を飛ばすことで落下の衝撃を抑えた軍人の男、キトラテスは階段から二段飛ばしに降りたかのような軽い声とともに底に着地した。
遠くからドゴオという音が鳴り響いていた。地面に固いものが衝突した音だということはキトラテスには判っていた。
あの、坊主の落下音だということ。
キトラテスの放った斬撃は、地面にぶつかり、その衝撃で落下速度を相殺されるように計算してのことだが、少年の救出までは考慮されていない。跳ね返る衝撃は少年の斜めへから襲うものであり、落下方向を変えることがあろうが、落下を相殺することはない。
ましてや、本当に衝撃を受けたのかさえ怪しいものだ。
「にしても、何も見えねえな」
キトラテスは暗い底を見渡した。周辺は何もなく、暗闇が映るばかり。気味悪さもあるが、仕方がないという顔で、前へと足を動かす。
一歩、二歩、そして三歩。
その三歩目でキトラテスは、前に出した自分の右足を瞬間的な速さで上げた。
さっきまでキトラテスの右足があった場所に、緑色の光が伸びていた。
「光線。光をこれでもかと凝縮されたものか。さしずめてめえはマンムーナの変態兵器ってところか」
光線の伸びてきた方角へむけてキトラテスは吠えるように言う。
「出て来いよ、ポンコツロボット。元はてめえが誘い出したんだと。ったく。こっちはあの坊主といい勝負をしていたというのによ」
キトラテスは西洋剣を向けながら挑発した。子供じみたような構えだが、彼の性格上、周りくどい問題は苦手であった。そのようなことは雑務と捉えていたし、そもそもキトラレスは戦士。チェスの駒のように、王様に指示されて動くことを好んでいた。
逆にいえば、相手がこの挑発に乗ってくれなければ打つ手なしだったが、幸いにも相手はその挑発に乗った。
「あのボウズ」
その言葉とともに暗闇に緑色の光が走った。向こうの”何か”を中心として空間に走る亀裂は光のようなスピードで幾多の場所に入り、まるで大樹の枝分かれする映像を早送りで見ているようだった。
(なんだ、今のは? 無詠唱の魔法だったとしても、こんな魔法しれねえぞ。
……あ。この世界に魔法はないんだったな)
キトラテスの答えのない思考を他所に、”何か”は人間のようにキトラテスに近づいていった。
人間のように、そう二本足で。
亀裂の光も相成って、その姿を見たキトラテスは驚いた目をした。
”何か”の姿は人間だったからである。約14歳の少女の姿しており、髪の毛は白く、ボブカットで揃えられていた。左目は閉じており、開いている右目はの色は赤い色をしていた。
身に付ける貴族御用達の職人から作れたかの黒いコートは、紳士ならではの落ち着いた雰囲気を醸し出し、少女を見た目以上の年齢へと思わせる。
「おいおい、兵器と思っていたんだが。人間じゃあねえか。お前、この俺に何か用か?」
キトラテスの質問に、少女は答えることなく、違う方向を見ていた。
その方向は、先ほどキトラテスがドゴンという音が聞こえてきた方角であった。
「あのボウズ」
「あン?」
「お前はさっき、あのボウズ、そう言っていた。それは、ここへ落ちてきたもう人血の人間のことで間違いないか?」
「ああ、そうだぜ」
「そうか」
少女は興味深そうな目で、ツバトがいるであろう方角から目を離さないでいた。
その態度に、キトラテスは不満そうな顔で文句を言う。
「おいおい。もしかして、俺は放置かよ。てめえにここまで落とされたってのに、そりゃあねえぜ」
「あの少年。お前は気にならないのか?」
「ああ、メンドクセーぜ。こういうのは手合いは、俺向きじゃあねえってのに……。
おい、俺に何か用があるのか? あるんだったら、さっさと言いな。生憎、俺も暇っていうわけでもねえんでな」
「それは残念だ。お前についても話しを訊きたかったのだが。暇がないのであれば、仕方がない」
白い髪、赤い片目の少女が目を伏せ、親から買って貰ったおもちゃが自分が期待していたのとは違った子どものように、少し残念そうな顔で言う。
「幸い、もう一人は生きている。一人死んでも困らない」
緑色の光の亀裂から、隙間から木々の枝が急速に成長するように伸長し、キトラテスに襲う。
「……ガハッ」
なんの前兆、前触れもない攻撃。避けようがないキトラテスに、緑色の光の枝が体を貫く。
「--うおりゃっ!」
キトラテスは苦悶の表情で緑色の光の枝を、その腕力で砕き、抜いた。
「なぜ、死なない?私は心臓を抉ったのだぞ」
「タネを教えるバカがいるかよ!」
キトラテスは西洋剣を横薙ぎに振るう。白い髪の少女は掌から緑色の光の枝を放出し、防ぐ。
「《フレア》!」
キッラトテスは西洋剣を振った手とは逆の、左手の指先から炎を放つ。
この世界にはない、”魔法”という技術だった。
「----
ボォン、と爆発音を立て、少女の視界は焔一色だった。
「起動『風板』」
巻き起こった風からサーフィンのような板が現れ、焔を消してゆく。白い少女の服装も動きやすい緑と白の運動着に変わっていた。
「--逃げたか」
焔が目くらましであり、逃走を許してしまったことを白い髪の少女は理解した。研究材料の一体が消えたが、もう一人がいる。
少女は再び、『超捕食植物』を起動し、緑色の光の枝を頼りに少年のところへ歩いて行った。
◇ ◇ ◇ ◇
「おい、坊主。生きてるか」
「はい、生きていますよ。しかし、あの娘は一体何ですかね」
「この国の人間兵器じゃあねえの。三種類の系統の異なる力を使うんだ。常人じゃあねえことは確かだ」
「霊己武記ではないんですか」
「バカ野郎。あいつが武器を持っていたように見えるか」
「ですよね~」
初級の土魔法で土を柔らかくし落下死は防いだものの、ダメージが多くく動けなかったところをキトラテスに拾われ、今は担がれている。赤い猫はいつのまにかツバトの肩に乗っており、離されないように必死にしがみついていた。
「というか、なんで僕を拾ったんですか。敵なのに」
「じゃあ、訊くが。お前はあのガキと一人で勝てる勝算あるか」
「ないです。速攻で逃げます」
「だろう。俺もだ。だが、そうはいかえねえのが現実だ。それに、この先何があるのか判らねえ以上、地元のお前に頼るしかねえわけだよ」
「そうは言っても、僕もこの先どうなっているのか分りませんよ」
ツバトとキトラテスの二人は穴の底あった洞穴のうちの一つに逃げ込んでいた。穴に墜落している途中にも洞穴を見かけており、二人は人工的なものだと推測した。
「まさか、マンムーナにこんな地下があるとはな。イカレた科学者の秘密アジトか」
「ハハハ、まさか~」
二人は軽快に笑いながら洞穴の奥へと進んでいった。しかし、二人は忘れていた。このマンムーナにはイカレて狂って落ちた者達がいることを。
その名前は、「失格者」で。
その者たちの園は、「失楽園」。
傍若無人・迷惑常套が当たり前の集落だ。
小説を自分勝手に書いていると、結構ストレス発散できますね。
自己顕示欲のある方に向いている趣味なのかなと思うこのごろです。
これから、忙しくなるので、また次回投稿も遅くなります、すいません。




