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ドラゴンの菓子屋さん

快晴、空気も澄んでいて気持ちがいい。

今日は散歩日和だな。

そう思って、喉かな田舎町に暮らす老夫婦は散歩に出かける事にした。

しかし、玄関を開けてその先に会った光景に、時間が止まったように動かなくなった。


青空のもと、のどかな平原のど真ん中で。

「だめよ、そんなに火を噴いたら焦げちゃうでしょ!!」

淡いピンクのワンピースを着た可愛らしい女の子は、一緒にいる生き物に注意した。

言われた生き物はクルル、と小さく鳴いて口から吐き出す炎の威力を弱めた。

「そうそう、いい感じよ。」

まるで地獄の業火のような赤黒い炎が辺りに吹き上がった。

世にも恐ろしい光景ではあったが、実際にはただ、お菓子作りをしているだけだった。

申し合わせたかのように、周りの人間達は時間が止まったように動かなかった。

要するに、失神しているのだ。

ドラゴンが炎を吹くのをやめると、そこには特大の黒こげお菓子が死んだように転がっていた。

それを見て女の子は難しい顔をした。

「ふむ、修行がたりませんな」

もったいぶった言い方だ。

それに対して精進します、とドラゴンは鳴いた。まるで料理長と新米料理人のやり取りのようだ。


お菓子の大きさはドラゴンに合せてかなり大きかった。

女の子一人では多分持ち上げる事すら出来ないだろう。

「さ、お食べ」

ドラゴンは、渋い表情で黒こげを見下ろした。

言葉が通じたなら、多分駄々を捏ねているだろう。

「やっぱり・・・私もちょっと食べづらいかも。」

女の子はちょんと黒こげを指先でつついた。

まるで、得体の知れない生き物と対峙しているかのようだ。

どうしようか、コレ。

そんなふうにお互いを見つめ合った。

「ちょっと食べてみよう」

女の子は自分に言い聞かせるように言うと、ぺろりと黒い塊の表面を舐めてみた。

途端に苦い顔をした。

「うん」

ひと言。

ドラゴンもそれに習って一口噛み付いた。

堅いものが割れる音が響いた。

バリバリボリボリ。

無言で咀嚼。唸り声を上げた。洞窟の奥で苦しんでいる魔物のような音だ。

あまりにも低い鳴き声だったので、さすがの女の子もちらりとドラゴンを一瞥した。

おいしくない・・・

ドラゴンの深紅の瞳が若干歪んだ。


ドラゴンは、好物の木の実をお菓子にしたいらしく持って来るのだが、大半が丸焦げになってしまう。

これは、女の子が調理した方が良さそうだが、ドラゴンは自分もやりたいらしい。

焼くのなら任せろと言わんばかりに、目を輝かせるものだから、やってみるのだが・・・うむ。

これは、考えなければ。

火力が強過ぎる。


というか、このドラゴンはお菓子屋さんにでもなりたいのだろうか。

不思議なドラゴンだなーと思う。

初めて見た時はお菓子なんて興味ないと思っていたのに、こんなに甘党だったとは。


そんな事をしていると、遠くで男達の怒号が聴こえてきた。

マズい、また兵隊達がやってきた。

せっかくのお菓子作りの時間が台無しだ。

ドラゴンも少し苛ついた表情をして声の聴こえた方角を眺めていた。

そろそろ行くかと、ドラゴンは大きな身体を立たせて飛ぼうとした時。

思ったよりも速い到着だったようだ。

白い軍服に身を包んだ大柄な男達がたくさんやって来る。

がっしりしていて、まるで熊みたいだ。

その中でも大きな男、シロクマと名付ける事にした。

その男が、ずんずんと女の子とドラゴンの近くまで威厳たっぷりに歩いてやってきた。

「また君ですか」

我々は邪悪なドラゴンを倒すという国にとって名誉な任務を授かっているのだ。

小娘は立ち退きたまえ。

大体そんな事を言う、シロクマめ。

今までに何度も、ドラゴン討伐に対する正当性を主張し続けていた彼らだったが、今のドラゴンはただの甘い物好きなのだ。

確かに、今までは人間にとって災害をもたらしたかも知れないが、今は全くしないではないか。

むしろ大人しいくらいだ。

「ドラゴンを引き渡してもらおう」

「この子は、凄くいい子よ。甘いものに目がないだけよ」

女の子は勢い込んで言った。


場所変わって。

「なんと、甘いものを食べれば大人しくなるとな」

それを聞いた兵隊達は早速都に戻って首脳にそれを伝えた。

国中のお菓子が、辺鄙で小さな田舎町に集結していく。

特にりんご飴がたくさん。


そんなことが起っている間も、2人はお菓子を作ったり、女の子が作ってくれたりんご飴を食していたのだが。

国の偉い人は考えた。

ドラゴンの好物をたくさん用意させて、大人しくさせ、出来たら・・・いや、コレが本音だが。

自分たちの意のままに動かす事が出来ないだろうか。

今は、このドラゴンのおかげで一時的に国と国が協力し合っているが、この均衡はいつ崩れるとも分からない。

だから、今のうちに。

手を打てるうちに打ってしまえ。


はるばる小さな田舎町に王自ら出向くと、媚びたような表情でドラゴンに好物を捧げて、協力し合いましょうや、と掛け合うのだった。

王は大量のりんご飴をこれでもかと差し出す。そのどれもが、王室御用達の菓子職人に作らせた最高級のものだ。

しかし、ドラゴンは暫くその様子を眺めていたが、気に入らなかったようだ。

フンと鼻をならすとそっぽを向いてしまった。

その間も女の子の作ってくれたりんご飴を口の中でボリボリと子気味良い音をたてながら食べていた。


「ならば、あの娘に説得してもらおう」

下心満載の表情で王は自ら女の子に要求したのだが、女の子はひと言。

「ヤダ」


何だあいつらは。

自由か。というか、王に対して素っ気なさ過ぎ。


平和な世界のりんご飴。

美味しいお菓子に黒い思惑なんて要らない。

好きな人が作ってくれた、好きなもの、好きなだけ。

他の人が作ったものを大量になんて要らない。


お菓子を作りたいと思ったのも女の子に会ってからなんだ。


何度か王がやってきては、ドラゴンに菓子を寄越すが全部はね除けてしまった。

王様は諦めたのか、もうやって来る事もなかった。兵隊達も、いつの間にか消えていた。

あれから、2人はだんだんと協力して美味しいお菓子を作れるようになった。

やがて、女の子は1人前のお菓子屋さんになるために旅立つ。

もちろんドラゴンも一緒に。

各地を巡り、時に恐れられながらも美味しいお菓子を探求し続けた。


彼らは喉かな土地で一軒の小さなお菓子屋さんを始めた。

見た目は恐ろしいが、焼き加減が絶妙なドラゴンと、可憐な娘が経営するお菓子屋。

小さいながらもそのお菓子屋さんは国中に名を轟かせるようになった。

素敵なドラゴンの菓子職人がいるんだとさ。

ちょっと見た目は怖いけど美味しいよ。

そうやってコアなファンを獲得していった。


お店の名前は『ドラゴンのりんご飴』


ここまで読んで下さりありがとうございました。

少し、予定と違う終わり方になりました。


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