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りんご飴の女の子

見た目は怖いけど、本当はユルい思考のドラゴンとの女の子の話。

その大陸には機嫌を損ねるとすぐに炎を吹き出して暴れ回るドラゴンがいた。

大半が自分の好物の甘い木の実が食べられなかった時だ。あとは、まぁ単純に機嫌が悪いだけ。

人間も同じように気分が悪い時があるだろう。それと一緒だ。

だが、いかんせん規模が違いすぎた。

ドラゴン自体は人間の世界を破壊しようとは考えてはいないのだが、何せ視点があまりにも違いすぎるため、結果的に人々はいつも被害を被っていた。

ドラゴンが「ヤバい、小火だ」と思う時には、人間界では何千人もの死傷者が出る大災害になっているくらいに世界が全然違っていた。


そのため、ドラゴンが気付いていないうちに大陸中の首脳達が膝を付き合わせて、討伐隊を結成させていた。

しかし、ドラゴンに対して人間は蟻ほどにちっぽけだった。

討伐隊?それが来たから何だというのだ。


ドラゴンが眠る洞窟に何万もの兵隊がやってきては、剣や弓で立ち向かって来る。

人間の男達が必死こいて戦っている間、ドラゴンは明後日の方角を向いて「今日はリンゴ食べたいなー」なんて呑気に思っていたりしたのである。


兵隊達の放った弓矢がドラゴンの鼻を掠めた時。

「ヤバいくしゃみ出る」

ドラゴンの生理現象で何万もの兵隊達は吹き飛ばされ死んでいった。

そこで、ドラゴンは鼻をムズムズさせながら散りゆく人間達を眺めていた。

呑気なものである。

そのことで、人間の首脳達は更に頭を痛くさせていた。

あの邪悪なドラゴンをどう退治したら良いのだろうか、と。


***


あるとき、ドラゴンは悠々と空を飛んでいた。

もちろん地上の人間達は騒ぎ立てていたが、気にしていない。


「あ、美味しそうな匂い」

ドラゴンは、鼻をヒクヒクさせて香りの元を探した。

遥か下の地上から甘い香り(多分お菓子の匂い)が、漂って来る。

その方向には小さな木箱(ドラゴンにはそう見えたが、人間の家だ)が緑の平原の中にポツンと置かれていた。

風が吹けば簡単に飛ばされてしまうくらい脆そうなのに、ドラゴンは遠慮なく大きな身体をドシンと地面に着陸させた。

もちろん、嵐が巻き起こって木箱は飛んでいった。

中から、女性の悲鳴が上がっていた。


ドラゴンは「おや、いけない」と慌てて木箱を掴んだ。

中から甘い香りがするのだが。

訝しげに、ドラゴンは木箱を眺めていた。

ドラゴンの鋭い深紅の瞳が、じーっと木箱を凝視していたが、何も起らないので振ってみようとした。

しかし、それをする前に木箱の蓋が開けられて中から小さな生き物が出てきた。

そのとたん、ドラゴンは吃驚した。

「おお、これが噂の人間か」

ドラゴンは自身初めての邂逅に感激した。本当は何回も見ている筈だが。

中からは、2人の人間が出てきて、キョロキョロと辺りを見回していた。

2人の内1人は更に小さかった。

子どもだろうか。

大きい方は、ドラゴンを見ると悲鳴を上げて中に引っ込んでしまった。

小さい方は、目を吊り上がらせてこちらを睨んでいた。

怒っているのだろうか。

とりあえず、木箱を地面に降ろす事にした。

ドラゴンは家を吹き飛ばしてしまった非礼を詫びた。

「****!」

小さな女の子は、やはり怒っているようだった。

ドラゴンは悪かったよというように、大きな身体を縮込ませて、クルクルと鼻を鳴らして詫びた。

それが伝わったのか、女の子は渋々といった感じで許してくれたようだ。

そこで、ドラゴンは女の子をちゃんと瞳に映し出した。

なんか、蜜か何か甘そうなものがベッタリと服についていた。

さっき嗅いだ甘い香りだとドラゴンは鼻を鳴らして、匂いを嗅いだ。

小さな女の子に鼻を近づける。

端から見ると、女の子を食べようとしている、邪悪なドラゴンの画が出来上がっていた。


「***?」

女の子はちょっと引いたが、怯えた様子ではなかった。

ドラゴンの様子を見て、女の子は何かを思い立ったのか、中に戻ると赤くて丸いものを持って外に出てきた。

見てみると、それはリンゴの周りに甘い蜜が掛かっているようだった。

「おお」

それこそ、地上から漂っていた甘くて美味しそうな香りの正体だった。

「おいしそう。ちょうだい?」

ドラゴンは鋭い牙の並んだ口を開けると女の子に強請った。

一瞬女の子は吃驚して後ろに下がったが、食べられる訳ではないと知って踏みとどまった。

手に持ったりんご飴とドラゴンの口を交互に見た後、口の中に放り込んでくれた。

「〜〜〜〜!!!」

バリバリと骨を砕くような音がした。

ドラゴンは満足そうに鼻を鳴らした。

うぅ〜ん!!!!

甘さと酸っぱさが程よく合わさった感じ。

おいしい!!と嬉しさを表現しようとドラゴンは小躍りを始めた。

ドラゴンが足を動かせば大地が揺れるし、尾を振れば強風が巻き起こった。

「***!!」

女の子の声はそんなに大きいものでもなかったが、ドラゴンの耳に届いた。

怒られてしまった。

ドラゴンは、しゅんとして大人しくする。

「ごめんね」

言葉は通じないけど、相手は分かったらしい。

女の子はよしよしと、ドラゴンの黒い鱗に触れて撫でてくれた。

女の子の掌はドラゴンの鱗一枚分よりも遥かに小さかった。

クルクル。

「ごめんよ、今度は気をつけるね。」

女の子の小さな掌に撫でられながら、ドラゴンは言った。


それからも、ドラゴンは女の子の元にやってきた。

ドラゴンは彼女の作ってくれたりんご飴が大好物になったからだ。

身体が大きい分だけ食べる量も多いが、美味しそうに食べてくれる。

食べ方が、まるで獲物の骨を噛み砕くかのように乱暴ではあったが。

そんなドラゴンを女の子は気に入ってくれたらしく、温かく迎えてくれる。


女の子の母親はドラゴンを見るたびにカエルのようにひっくり返って失神したし、彼女の店(お菓子屋さんをやってたみたいだ)のお客さんもピクピクして動かなくなっていた。

それ以外の異常は特にない。


もちろん、その場所へ兵隊達も遅れてやって来る。

ドラゴンをやっつけるためである。

でも兵隊達が来る頃にはもうドラゴンは飛び立っていた。


女の子とドラゴンは仲良くなっていて、時々大きな背中に乗せると空を一緒に駆けたりしていた。

地上ではいつも、出遅れている兵隊達が怒号を上げて攻撃を仕掛けようとしてたけれど。

まったく関係ない。

1人と1匹の間に流れる時間はのんびりして平和だった。


***


今日も地上から男達の怒号が聴こえて来る。

それから女性の悲鳴。

どうして、そんなに騒ぎ立てるのだろう。

甘いものが好きな、ただのドラゴンなのに。

見た目が怖いからかな。


「ねぇ、ドラゴンさん。矢が当たってるよ」

女の子は兵隊達が放った矢がドラゴンの身体を掠めていくのを見てそう言った。

でも、その矢はドラゴンの身体にぶつかると力をなくして、地上に戻っていった。

カランと軽い音をたてて。

そもそも、ドラゴンの堅い鱗など絶対に突き破れないだろう。

そんな事をするくらいなら、美味しいお菓子を作って喉かに暮らした方がずっと良い。

全く効率的じゃないよ。


1本の矢が翼に刺さった。

「ドラゴンさん、翼に」

刺さっているけど、あんまり気にしていないみたい。

矢の1本や2本、ドラゴンにとっては小さな事だったんだ。


1人と1匹は悠々と、青い空を飛んでいった。

風が気持ちいいね。


また、美味しいお菓子を作るから食べてね。

あ、そうだ。今度一緒にお菓子を作ろうよ。

確か、火を吹く事が出来るんだよね?

女の子はドラゴンの頭をポンポンと叩いた。

それに答えるように、クルクルとドラゴンは鳴いた。


お菓子作りの場面を次話に入れて、完結の予定です。

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