一匹狼と狐
「寂しくないの?」
『何が』
「ずっと独りで……」
『群れは嫌いだ。気に入らないボスに従うのも、戦ってボスに成るのも面倒くさい』
「でも……暖かさが欲しくなったりとか」
『アタタカサ……ああ……別に。穴倉に潜れば良いだけだし、そもそもメシを食っていれば必要の無い物だ』
「うー……そっか……確かにそうかも……」
「えっと、その……ボクが傍に居たら迷惑?」
『側?』
「うん……例えば今こうして居るみたいに」
『今は腹が一杯だからな。お前がオレの獲物を奪わないなら好きにしたらいいが、オレはお前を非常食として見る事になるぞ』
「奪わないよ! ボクは貴方とは食べる物が違うから。非常食って、お腹減ったら直ぐ食べちゃう? それともどうしても獲物が獲れなかった時?」
『……お前はオレを馬鹿にしているのか』
「あ、えっ……ち、違うよ、貴方の狩りの腕を疑ってるとかじゃ……ごめんなさい」
「うーん……体温は必要無いのか……」
『何をしてる』
「んっと、邪魔かな? 石だと思って寄りかかってくれたら良いんだけど……」
『石……。……悪くない』
「ホント? ヘヘ、良かった。毛並には結構自信があったんだ。嬉しいな」
『……尻尾を振るな。顔に当たる』
「あっ、ご、ごめん……そうだ、ついでだから枕にしてみてよ」
『マクラ?』
「ん、ボクの尻尾に頭を置いて……」
『……悪くない』
「尻尾は一番の自慢なんだ。嬉しいな、良かった……狼さん、寝ちゃったの?」
この山で貴方を見掛けてから、ずっと憧れてた。
狐だから気を許して貰えたのかな、なんて、少しは自惚れても良いんだろうか。
これから、宜しくね。
出来れば、少しでもたくさん、貴方と居られますように。
「うーん、届かない……木登りは苦手だからなぁ……」
『何をしてる』
「あ、狼さん。ご飯を採りたいんだけど、高くて口が届かないんだ」
『……』
「狼さん?」
『食え』
「え……」
『つい獲り過ぎた。オレはもう食えん。お前にやる』
「で、でも……」
『肉は嫌いか?』
「う……いや、ん、えと……その、お肉食べちゃうと、ボクのお肉が美味しくなくなっちゃうかもしれないから……」
『お前の肉……?』
「うん、非常食……わぁっ!!」
「お、狼さん……苦し……」
『お前は怪我をした事はあるか』
「え、そ、そりゃあるけど」
『怪我をしたら痛い。食われる時はもっと痛いんだ』
「狼さん……」
『非常食の味なんぞどうでもいい。ソレはお前が食え。オレは狩りに戻る』
「狩りって……え、でもさっき……あ、狼さん!」
急に引っくり返されて、びっくりして。
動けないでいる間に、狼さんはさっさとどこかへ行ってしまった。
お肉。
獲れたばかりの、まだ温かい兎。実を言えばボクの大好物。
せっかく頑張って我慢してたのに、なんだか少し悔しい。
だけど、さっきの狼さんは本当に怖かった。
ボクは時々狼さんを怒らせてしまっていたけど、あんな風に背中が冷たくなったのは初めてだ。
本当に怖かった。
でも。
久しぶりに食べるお肉の味もわからないくらいに、嬉しくて今は何も考えられない。