疎まれ屋 赤津悠奈
私には、トモダチ、という類の人間が誰1人、おりませんので。
まず、私のこの、奇妙奇天烈な話し方に慄くのだろう。
そして。
徒競走をすれば横一列を巻き込んで大転倒をし、試験をすれば縦一列こぞって赤点騒動。
勿論、二人三脚をしているわけでも、脳ミソが縦横一列とプラグか何かで繋がっているわけでもないので候。
これは気味が悪かろう。
アチキ自身、気味が悪くて気味が悪くて仕方ないでありんす。
高校生になれば、何かが変わるかと思って…いや、周りがあたしに寛容になるかと期待していたのだけれど。
初めて言葉を覚え、初めてひとの怖さを知った頃から何にも変わろうとしなかった拙者。
そんなモノに、赤の他人が変わってくれる筈がない。
今、私は一言も喋らない。
居場所もなく、灰色の海を染まず漂う、場違いな深海魚。
ボロを出せばみんな面白がる。
ボロを出せば、私は、唯の餌に違いない。
幼少の頃のように、「何も知らない、世間知らずな馬鹿」では、通らない。
もう16だ。
大人と同等の責任を求められる。
が、でしゃばらなきゃそんなことはない。
誰にも存在を認知されない代わりに、責任どうこうとはオサラバできる。
言動がなんだ、情報管理がどうした。避妊?相手がいないのなら、全くもって無縁だ。
救いようのない馬鹿だろうが、運動神経を母体に置いてきていようが、それは個人の、私のハナシ。
とりあえずは、息を潜めてさえいれば、あっしが元凶で赤点パーティだとか、側転パラダイスだとかは、バレずに済む。
「天性の疎まれ屋」
とさえ皮肉られたわっちも、人並みにやっていけているんだ!
「もうあなたに“いい学校に行け”なんて常套句は言わないわ」
「でも、せめて、一般になじめるくらいにはなって、お母さんを楽にさせて」
「お願いよ、悠奈」
大丈夫よ、お母さん。
私、とっくの昔にお母さんを楽にしたじゃない。
「悠奈さん」
「!」
長考に耽って、私は、すぐ傍に人がいたのを忘れていた。
「どうしたの?学校に行く時間じゃない?」
河合朋代。
ややぽっちゃり体系の、初老の女性。
笑ったときに出るえくぼが、なんとも言えず、いとおしい。
「はい、園長」
「いってらっしゃい。門限は10時ですからね」
「分かってます。いってきます」
私が、唯一まともに話せるひと。
アチキは、そんな最愛のひとに買ってもらった自転車にまたがり、「かすみ園」を飛び出した。