飛び入り参加
それから数日後の朝
『うーん。もう朝か』
影は朝ご飯を食べて学校に向かった。
明後日はテストだ。だから今日は毎回恒例の西森の家で勉強する事になっている。
教室に入って席に座ろうとすると、いつも同じく……
『影君、おはよー』
朝奈が挨拶してくる。
『おはよ』
すると、そこに西森が席にやって来た。
「影~ 今日は俺の家で勉強会だぞ。忘れるなよ」
『忘れてないよ。毎回毎回テスト前はお前の家で勉強会やってるんだからな』
俺は呆れながら言った。
『影君と西森君は昔から、テストの時に勉強会やってるの?』
ふたりの話を聞いて朝奈が聞いてきた。
「そうだよ。朝奈ちゃん達も来る?」
『うーん。美波と相談してみるね』
そう言って朝奈は美波の席に向かった。
「影、朝奈ちゃん達来ても良いだろ?」
西森が俺に一応相談するように聞いているのだが、妙にやつの顔がニヤニヤしている。
『別にどっちでも良いよ。お前が呼びたいなら呼べば良いよ』
「お前冷たっ、全くこれじゃあ……」
西森がぶつぶつ言った。
『これじゃあ……の後はなんだよ?』
気になったので聞いてみた。
「なんでもね~よ。とにかく今日忘れるなよ」
そう言うと西森は自分の席に帰っていった。
午前中の授業が終わり、昼休みに俺はいつも通りに階段に向かった。
『ご飯食べたら、今日もまた図書室か』
階段に着くとまだ朝奈は来ていなかった。
しばらくするとそこへ朝奈が来た。
『あっ、影君早いね』
『そうだった?』
そして、影と朝奈はお昼を食べ始めた。
『そういえばヒナ、今日西森の家に来るの?』
なんとなく気になったので聞いてみた。
『うん。……駄目?』
朝奈が自信なさそうに言った。
『そんな事ないよ。それより西森には気をつけなよ? あいつヒナ達が来るって聞いたら凄く嬉しそうだったから。まぁあいつが他人の嫌がる事は絶対しないと思うけど、たまに調子に乗るときがあるから』
『そう……』
この時、朝奈は 私が行ったら影君は嬉しがってくれる? と聞こうかと思った。
でも、そんな事は怖くて聞けない。
ご飯を食べ終わると朝奈とまったりした後に、影は亜紀との勉強の為に図書室に向かった。
「影、遅いよ~ そろそろテスト近いんだよ?」
亜紀が文句を言った。
『ごめん。なら始めよっか』
影は笑いながら謝った。
「う、うん」
亜紀はなぜか照れたように顔が赤くなっていた。笑いながら謝ったのが失礼だったのかな? そんな事を思いながら勉強道具を広げた。
昼休みが終わりに近づき、 影と亜紀は勉強を終わった。
今度こそ授業に遅れるという失態は犯しては駄目だと思い、頻繁に時計を見る癖がついた影だった。
亜紀は前回の失敗を気にしていないようで、全然時計を見ないし昼休みギリギリまで勉強しようとするし変わった子だった。
「影? 今日は放課後も一緒に勉強出来る?」
亜紀が聞いてきた。
『ごめん。放課後は西森の家で勉強会なんだ』
影は申し訳なさそうに言うと……
「なら、私も西森君の家に行って良い?」
『うーん 西森に聞いてみるよ。西森のお母さんが晩ご飯を作ってくれるから、人数分あるか、とか 部屋に入るか とかさ。俺一人じゃ決められないんだ』
「西森君と二人でやってるの?」
『んー 毎回毎回テスト前々日は西森と勉強してるけど、今回は阿部さんと日向さんが来るみたい』
そう聞いて亜紀は少し考えこんだ。
「……阿部さんと日向さんって阿部美波さんと日向朝奈さんの事?」
『うん。なんか西森が無理やり誘っちゃったみたいなんだ』
「ふ~ん」
亜紀はまたなにやら考えているようだったが、影には分からなかった。
『昼休み終わるから帰ろ?』
「そうね。帰ろうか」
影は教室に帰ると西森を探した。
『おい 西森』
「ん? なんだい兄弟」
『今日の勉強会に、真田さんが来たいんだってさ』
「は? お前さ……やっぱなんでもないや」
西森がちょっと怒ってるような気がした。
『だから、真田さんが来たいらしいんだけど、大丈夫?』
「あ~ ご飯とかなら大丈夫だけど……かなり疲れそうだな」
『?』
影には西森の言っている意味が分からなかった。
『分かった。真田さんに言ってくる』
影は西森の席から離れて亜紀の席に行き報告した。
「え? 行って良いの?」
『うん 西森に聞いたら良いってさ。でも本当に来る気?』
「なに? 嫌なわけ?」
亜紀が睨んでくる。
『いや、俺は西森に教える時間長いからあまり自分の勉強出来ないかもよ? 人数多いと勉強しなくなるだろうし』
「まあ大丈夫でしょう。影と一緒なら楽しいだろうし……」
『そっか』
その頃、西森は密かに美波の席に近づき話していた。
「美波ちゃん どうしよう」
「どうしたの西森君?」
西森の慌てている様子に美波は驚いた。
「いや 影が真田さんを勉強会に連れてくるらしいんだよ」
西森がひそひそと言った。
「え? だって真田さん って影君を狙ってるんでしょ? ヤバいじゃん」
「真田さんって影が好きなの?」
西森が聞いた。
「うーん ハッキリではないけど、あの目と顔は狙っているね。……ところで影君って真田さんが好きなの?」
そう言って美波は影と話している亜紀を盗み見た。
「それはないな」
西森はきっぱりと言い切った。
「あいつは、昔からそういう感情にかなり疎いからな。相手から向けられる好意にも疎すぎるし。あいつを好きになるような人は何人かいたけど、大人しい子ばかりだったから影から告白しないと付き合えない感じだったから、今でも全くモテないと思ってるし」
そこまで言うと昔を思い出したのか遠い目をしていた。
「まぁ昔話は置いといて、とにかく真田さんが来たら朝奈ちゃんと影をくっつける事が出来なくなるよ。どうすんの美波ちゃん」
「朝奈は控えめだからな~ 真田さんみたいにガンガンじゃないから、ヘタすると今日朝奈は凄く落ち込んで明日テストどころじゃないかもしれない」
美波がため息をつきながら言った。
「まあ とにかく朝菜ちゃんとウチに来てよ」
西森が言った。
「分かった」
授業が終わり、影は教室を出ようとしたとき
「あっ影」
亜紀が話かけてきた。
『ん? 何?』
「私ね。西森君の家知らないから、私を連れて行って!」
『ああ分かった』
「あとデパート行って良い? 欲しい物あるのよ」
『良いよ』
影と亜紀は昇降口で西森に会った。
『西森~ 俺は真田さんを連れてお前ん家行くから。それから、少し遅れるから』
「ん、 分かった」
西森にそういうと影と亜紀は、学校を出た。
西森は影と去っていく亜紀の姿を見ていると、途中でコッチに振りかってニヤッとした。
まるで、あなた達の企みを邪魔してやる というように。
その証拠に恋人のような距離で影の隣を歩いていた。
影は亜紀の接近に戸惑いながらも、避けるのも失礼かと考えたようでされるがまま歩いていた。