西森の協力
放課後になり、影が帰ろうとすると、
「影君、またね」
まだ席にいた朝奈が挨拶してきた。
『うん。じゃーね ヒナ』
そして影は教室を出た。
影と別れの挨拶をした朝奈は一人ため息をついた。
「朝奈~ なぁ~にため息なんかついてんの?」
どこからか美波が現れた。
『べっ、つに~』
「ふ~ん」
美波から目をそらして教科書をカバンにしまった。すると美波が耳元で囁いた。
「どうせ 影君の事考えてたんでしょ?」
『へぇ?』
いきなりだったので、思いっきり表情が出てしまった。そぉーと横を見るとやっぱり美波はニヤニヤした顔で朝奈を見ていた。
『ミナミ! もうへんに探らないでよ』
「だって~ 朝奈の表情がコロコロ変わって面白いんだもん」
美波は笑ってばかりで反省していない様子だった。
『もう! 美波のバカ~』
朝奈は美波を置いて教室を出た。
「朝奈~ ごめん、ごめん」
廊下を歩いていると、後ろから美波は笑いながら謝ってきた。
この人は絶対に全く反省してないよ。
「それより今日のテスト勉強はどこでやるの?」
美波が廊下を歩きながらも聞いてきた。
『西森君が図書室でやろうって言ってたよ』
「西森君って勉強得意なの?」
『そんな事知らないよ~』
「そうだよね~ 朝奈は影君の事しか興味ないもんね?」
美波はニヤニヤしていた。
『そんな事ないよ?』
そんな事を言っているうちに朝奈と美波は図書室に着いた。西森はすでに図書室に来ていた。 なにやら座って本を読んでいたので、勉強していたと思ったのだが良く見ると漫画を読んで笑っている最中だった。
「西森君、勉強してるんじゃなくて漫画読んでるの?」
美波が西森に話しかけた。西森は笑って誤魔化しながら漫画を読むのを止めた。
「あっ 来てたんだ?」
『んじゃ始めよ~よ?』
私達は勉強を始めた。
二時間ほど勉強した後に三人で図書室を出て、家に帰る事にした。
「影君は勉強会に来ないの?」
帰り道、美波が西森に聞いた。 朝奈は内心、美波ナイス質問 と思った。
「う~ん。あいつはいろいろあるから」
朝奈は西森君のその言葉が気になった。
『前もそんな事言ってたけど、影君って放課後何をしているの?』
西森は苦笑いし、その質問には答えなかった。
「ごめんね、影の事は直接影に聞いて?」
『そっかぁ。そうだよね。』
少しがっかりした。
「西森君! 朝奈に教えてあげてよ~ 朝奈ってば、影君を狙ってるんだからさ」
ん? 今なんて言った! 油断していたら、美波にいきなり秘密をバラされた。
『ちょ、美波! な、なに変な事言ってんの! バカ! ちょっと来て!』
朝奈はあわてて美波を誰もいない方に連れて行った。
『西森君にそんな事バラしたら、影君にすぐに伝わっちゃうよ! てゆーか人に勝手に話さないでよ』
「良いじゃん良いじゃん。西森君にさりげなく手回ししてもらいなよ」
いままで怒っていたが、西森君に手回ししてもらって影君を独り占めできる時間が増える事を想像していると嬉しくなり、美波を怒れなくなってしまった。
『うぅ~』
「怒らない、怒らない。今度朝奈の好きなコアラのマーチ買ってあげるから」
美波はあやすように言った。
『コアラのマーチいらないよ』
「そんな事より、西森君待ってるから行こう?」
朝奈はまだ納得していなかったが、西森君を待たせるのは悪いので、美波についていった。
『待たせて、ごめんね西森君』
朝奈は謝った。
「いや 大丈夫だよ。こっちこそごめんね。 影の事教えられなくて」
『ううん 良いの。 そのうち自分から聞くよ』
「影君に誰にも言うな。って口止めされてるの?」
美波も影君の放課後について気になったみたいだった。
「いや 口止めはされてないけど、あいつ他人に自分を知られたくないみたいなんだ。秘密主義者なんだよ。だから影の事は影から聞いて欲しいんだ。影が話すなら話しても良いことなんだろうし」
普段ボケキャラのような西森君の意外な一面を見たような感じがした。影君と昔から付き合ってるだけあるなと感心していた。
「西森君って意外と、友達思いなんだね」
美波がそう言い、朝奈も横で頷いていた。
「ふたりして頷いて、ヒドいわ!」
西森は手をくねくねしながら言った。
やっぱりボケキャラだった。
「あっそうだ。影君にはさっきの事内緒にしてね」
美波が西森に真剣に言った。朝奈と西森には何の話か分からなかった。
『さっきって何の話?』
キョトンとしていた朝奈は美波に聞くと……
「朝奈がぁ~、影君の事好き って話」
『わ~~! 終わった話は言わなくて良いよ』
朝奈はあまりにも恥ずかしくて下しか見れなく、顔を真っ赤にしながら西森君にお願いをした。
『その…影君には……言わない……で』
「分かったよ。それより、影ともっと話せるように協力してあげようか?」
西森が親切にもそう言ってくれた。
『え? ホント?』
朝奈は嬉しかった。
すると……
「朝奈ちゃん、本当に嬉しそうな顔するね」
西森君にそう言われて、凄く恥ずかしくなった。
「朝奈の可愛い所は分かりやすい所だもんね」
美波は堂々と言う。
三人で話しているうちに 朝奈の家の近くに来ていた。
『美波、西森君じゃーね』
「「バイバーイ」」
美波達は朝奈と別れてから、また歩きだした。
「西森君、本当に朝奈に協力してくれるの?」
「うん。影だって朝奈ちゃんの事、嫌いじゃないだろうし」
いろいろ話していると、やがて美波の家についた。
「ここが家だから、じゃーね~」
「うん。またね」
美波は、ふと気になった。
「西森君の家ってこっちの方なの?」
「あ~違うよ。そんなに遠くはないし、やっぱり女性には送っていかないと。紳士の務めってやつかな」
「ふふっありがと。また明日学校でね」
「じゃーね」
美波はいったん家に入ったが、門の鍵を閉めるのを忘れているのに気づき、もう一度外に出ると、西森が今まで二人で通ってきた道を全速力で走っていく後ろ姿が見えた。
優しい人だな。そう思った美波だった。
影はその頃も、バイトしていた。
「恵日君、テスト勉強しなくていいのかい? バイト毎日は大変だろ? 休んでも良いんだよ?」
「いいえ。大丈夫ですよ」
影は店長に言われたが家庭の事を考えると、とてもバイトを休む事は出来ない。
毎日バイトをしていると帰りは10時くらいになってしまう。母親もパートに出ているが最近は体調が良くないようで、良く咳を出している。
『母さん パート休んだら?』
帰宅してご飯中に影は言った。
「大丈夫。影一人に働かせるわけにはいかないわよ。……たまには友達と遊びなさいよ? あなたの年頃ならみんな遊んでいるでしょ?」
そう俺に家計について気にしなくていいような事を言っていたが母の体調はあまり良くはみえない感じだった。そのうち無理して倒れるんじゃないかと思ってしまう。
『うん。でも大丈夫だよ』
「苦労ばっかりさせてごめんね」
俺は母親が謝った時の雰囲気が好きじゃなかった。
『勉強して寝るね』
そう言って、食器を片付けて風呂に入って勉強して寝た。