亜紀の作戦
『えっと……ヒナから言ってよ』
「え?……影君から言ってみて? そんなに重要じゃない事だし」
朝奈も影に譲った。
『……その…これから用事があるから、先に戻ってらないといけないんだ』
影はおそるおそるそう告げた。
「うん…そうなんだ」
朝奈は、本当は用事の理由を知っていたが知らないフリをした。
朝奈は内心、影に行かないで私と居て? って言おうとしたがやっぱり辞めた。 何故なら、そんな事言う勇気ないからである。 言った後の出来事を考えるとどうしても怖いからである。
『で、ヒナの話は何?』
朝奈はそんなことを頭で考えていたので、いきなり影に話かけられ驚いた。
「え?」
『だから ヒナがさっき言おうとしたのは何?』
影は朝奈が言いたかった事が気になった様子で朝奈に聞いてきた。
「あぁ…えっと……影君は……私……の、えっと……作った弁当…その…い、いら……ない?」
朝奈は影の答えを聞くのが怖く、なかなか言えなかった。
すると影は、
『ヒナが大変ならわざわざ作って来なくて良いよ?』
「…そっか」
影からの答えは、朝奈にとっては少し悲しい答えだった。
「でも…作ってきたら…食べてくれる?」
朝奈は 自分って結構しつこい人だな。と心で思いながらも、聞かずにはいられなかった。
『うん! ヒナの弁当美味しいし、貰えるなら凄く嬉しいよ』
朝奈は嬉しくて笑顔になった。
影は、朝奈の笑顔が可愛いなと少し思った。 そんな考えを打ち消すように影は階段から立ち上がり、図書室に向かった。
影が図書室に行くと、すでに真田は来ていた。
『ごめん。待った?』
「大丈夫。ちゃんと来てくれたんだ」
『うん。遅れてごめんね』
影は謝った後に、隣に座り勉強を始めた。
「ねぇ影君」
『何?真田さん』
「ねぇ、真田さん って呼ぶの止めてよ」
影は問題を解くの辞めて亜紀の方を向いた。
『なら、なんて呼べば良いの?』
「亜紀って呼んでよ」
『呼び捨てで呼ぶの?』
影は女性を呼び捨てで、呼ぶのに躊躇した。
「私も、影って呼べば大丈夫でしょ? 影、良い?」
影は仕方なく頷き勉強を再開した。時々亜紀は分からない問題を影に聞いてきた。
「影、この問題ってどう解くの?」
影はその問題の近くに書いてある説明文を読み 亜紀に教えた。
「凄いね~ 今度さ、影の家に遊びに行って良い?」
『家?……ごめん 家は難しい』
朝奈には弁当の事がバレてしまったが、やはり 他人に今の弁当と家の暮らしの事については教えたくはなかった。
「そう……」
『ごめんね。それよりも勉強しようよ』
「そうね」
亜紀は少し残念そうにしていたが、ふと壁にかけている時計を見てた。
そして二人はお互いに教えながら勉強をした。
「影って英語が凄く苦手だね」
亜紀は時計を一瞬見て、ニヤッとしながら言った。
影はそろそろ昼休みが終わる頃だと思い、勉強道具を片付けてながら話を聞いていた。
『うん。英語は全く分からないんだ』
「なら今度、影に英語をいっぱい教えてあげる」
『ありがとう。 ん……あれ?……もう授業始まってるし』
影は時計を見て、今の時刻に初めて気付いた。
「本当だ」
なぜか亜紀はすでに授業が始まっていた事に、さほど驚いた様子は無かった。
授業が始まってすでに20分ほどたっていた。
「どうしよう? このままサボっちゃう?」
亜紀は慌てる様子を見せなかった。
『うーん』
俺はこの時 亜紀と二人で帰ったら、変な噂がたちそうな気がした。そうしたら亜紀に迷惑がかかるだろう。
『亜紀だけ教室戻りなよ』
「え? やだよ……教室戻ったら私一人で怒られるじゃん。影と二人なら怒られても私一人に怒りが集中しないし」
仕方ない、サボるしかないのか。
その頃教室では、朝奈は影と亜紀が授業に来ていない事が気になった。 影と亜紀はおそらく一緒に居るだろうと確信していた。
あ~あ 影君は真田さんを好きなんだなぁ。
授業が始まっても帰ってこないほど楽しいのかなぁ? 私はどこにも行き場がない怒りと嫉妬に包まれてしまいとても授業なんかを聞く事が出来なかった。
五時間目の授業が終わり休み時間になると、さりげなく影と亜紀が教室に入ってきた。
影が自分の席に座ると西森が影に近づいてきた。
「影~ お前どこ行ってたんだよ?」
「ちょっとね」
影は疲れている様子で答えた。
朝奈は、やっぱり影達の会話を聞いてしまい 影が西森の質問の答えを濁したのが引っかかった。