亜紀の接近
数学の授業が終わり、私が影君に話かけようとすると……
「恵日君って凄い頭良いんだね」
同じクラスの一人の女子が影君に話しかけた。
影君は読んでいた本を少し止めて、その女子を見た。
あっ あの人はまだ名前覚えてないけど、成績がかなり優秀な人だったはず。そんな人が影君になんの用だろう?
私は影君達の話を盗み聞きする為に、教科書を読んでいるフリをした。
『あなた……どなた?』
おい おい 影君 いきなりそれは失礼だよ。 私も名前忘れたけどさ。
「私は真田亜紀さっきの数学の時間、恵日君が凄かったから…私…頭の良い人好きなんだよね」
えぇ~ 真田さん、いきなり影君に好きとか言ってるし。あ! でも真田さん結構美人だ。頭良くて美人ってイヤミだよ。影君も真田さんみたいな人に惚れちゃうよね。
すると、影は……
『僕は頭良くないよ』
「でも、さっきの数学の時間は凄かったよ」
『僕は数学だけは得意だから』
「恵日君は前回の数学のテストは何点だったの?」
真田さんは負けずに聞いた。
今の台詞はただの謙遜としか思わなかったのだろう。それとは別に確かに私も影君の個人情報は気になる。
『78点だった』
「その点数は嘘でしょ? あの問題をすぐに解いた人が、そんなに点数低いわけないじゃない!」
78点で低いのかい! 真田さん凄すぎ! 私なんか60点でも満足なのに。
『それでも、本当の事だよ』
影君は静かに答えた。私は真田さんと影君が仲良く話しているのを聞き、悲しい気分になってきた。
「朝奈~……ってなんでしょんぼりしてんの!」
見上げると、美波が居た。
『別に……なんでもないよ』
影君達が仲良さそうに話していたから、なんて影君が近くに居るのに言えないよ。私が黙っていると……
「分かった! どうせ朝奈の事だから、教科書の問題を解けなくて泣いていたんだな?」
違うよ~ 確かに教科書持ってるけど、これはダミーだよ。今の絶対に影君に聞かれたよ 美波のバカ~
『ち、ちが…』
ふと、なにやら嫌な視線に気づきて美波の後ろを見ると、真田さんが見下したような目をしてこっち……というか私を見ていた。
「じゃあまたね。恵日君」
私を見るのに飽きたのか影君に別れを告げ、真田さんは自分の席に戻っていった。今度は美波が影君の席に行った。
「ちょっと影君! さっきの数学の時間凄かったから、このおバカな朝奈に数学教えてあげて?」
ちょっと、ちょっと美波なに言ってんの! ちょっと嬉しい気持ちもあるけど…
『美波~! それは影君に迷惑だよ』
「なに言ってんの! 教科書見ながら悲しそうな顔していたくせに」
『違うよ~』
「とにかく影君! 放課後、朝奈に勉強教えてやって」
美波は強引に頼み込んだ。
えぇ~ 毎日放課後に影君と二人っきりで勉強なんて出来ないよぉ。と、私が少し想像していると……
『ごめん。放課後は無理なんだ』
私は理想と現実は違い、ちょっとがっかりした。
「いつなら、大丈夫?」
美波はさらに聞いた。
ちょっとグイグイ行き過ぎだって~ 美波~
私は目で訴えるが、美波は気づかない。
『いろいろ用事があって……ごめん』
影君が、申し訳なさそうに詫びた。
『こっちこそ、ごめんね』
私も謝った。
その時、西森君が影君の机に来た。
「なあ兄弟! さっきの数学凄かったぞ」
『もう、その話はいいよ』
影君はうんざりしている様子だった。
「そろそろテスト近いだろ? テスト勉強会しようぜ! 美波ちゃん達も来る?」
美波が即OKした為、私達はその勉強会に参加することにした。 影君はテスト前々日の勉強会にしか参加しないらしいが、西森君はその理由を知っているらしくなにも聞かなかった。