私の夏はこんな夏
「海いかへん!!??」
「はい?…なにを『さんせーーい!!』…ちょい待てや、まだしゃ「よし!決まりっ!!」…おい、こら」
夏休み前日の放課後。窓から蒸し暑い風が入る。大阪は相変わらず暑い。いや何処も同じか。
私、【塩田 玲】は高校生2回目の夏休みを迎えようとしている。かといって何かをするわけでもなく、ダラダラと過ごしてあっという間に終わるけどな。
今教室ではしゃいでいるのは私の話を遮った奴を含めた仲良し?5人組。もち帰宅部。全員彼氏ナシ。私に至ってはいた事がない。だって男に興味がないねん。そう、私は女の子が好きなコなんですわ。そんな所為もあり、私はベリーショートにしている。カッコつけでピアスも2、3個つけてる。
まだ誰にもカミングアウトはしてへん。この5人組のメンバーにも。
急に海に行こうと提案したんは、5人組の中でお調子者キャラの【久川 理緒】。栗色のセミロングの髪を揺らしてギャーギャー言っている。前髪が眉上にあり、童顔のためすごく幼く見える。背もちっこいし。せやけど、ロリコンなあたしから見ればめちゃ可愛いねん。おっと鼻血が…まぁ、うるさいのが玉に瑕やね。
「じゃー海にはどーやって行くん?」
そう上目遣い気味に椅子の上に立ち上がった理緒に(危ないっちゅーねん)聞くのは5人組の中でおっとりキャラの【永松 茉莉花】。
黒髪のマッシュルームヘアが特徴。目が大きくてクリクリとしている。5人組の中で一番お洒落さん。時に見せるキリッとした真面目な顔に私は惹きつけられる。ギャップたまらん…ギャップ萌え…おっと、鼻血が…
「んーせやなぁ、金ないからなぁうちら〜」
唇を尖らせて腕を組み悩む理緒。
「おい!うちらって、お金無いの理緒と一緒にせんとってやー」
そう理緒にツッコミをいれたのは5人組の中でしっかり者キャラの【山脇 紗江】。綺麗な長い茶髪をポニーテールにしていて、前髪の斜め分けがよく似合う。二重のまん丸い茶色い瞳がキュート。あと高い鼻もね。真面目なくせに制服を着崩してミニスカにしたスカートからのびる白い太腿が…たまらん。おっと、鼻血が…多分5人組の中じゃスタイルが一番ええかも。いや、学校一?
「えー!きっとお金が無いのん理緒だけじゃないやろ!!せやろ!な!玲たん!」
理緒が私にキラキラした目で聞いてくる。
「誰が玲たんじゃ。理緒に心配されんでも金ありますぅー」
クールなんが私。
「嘘こけー!!とか言ってないんやろ!!」
凝りへん奴や。
「理緒うっさい。あとそれから、椅子に立つん危ないから降り」
そう言って私は立ち上がって理緒を抱っこする形で持ち上げて降ろす。理緒はバタバタと手足を動かす。因みに私は身長が5人組の中で一番高い。逆に理緒は一番ちっこいから軽々だ。
「玲優しいー」
茉莉花が頬杖を付きながらそう言ってくれた。
「おいっしょっ」
「ぶー、またガキみたいに扱いよってー」
ほっぺを膨らませながら拗ねたような顔をする理緒。ちょっと顔が赤い。可愛いな、おい。
「椅子に立つなんてガキのやることやろー?降ろしたってんからなー感謝しーやー」
意地悪っぽくニヤニヤしながら言うとますます拗ねてしまった理緒。
「おーい、理緒?」
「ぶー!!」
プイッ。
あー、こりゃ長期戦になりかねん…誰か…
「ちょっと、玲、理緒のこといじめ過ぎ。理緒もこんなことで拗ねへんのー。分かった?」
助け舟を出してくれたのは私の親友でもある、5人組の仲の仲介役をしてくれる優しいコ、【真田 美奈】。前髪ぱっつんに黒色のサラサラなロングヘア。少しつり目で笑った時に笑窪ができるのがチャームポイント。けど、とってもシャイやねん。まぁ、そこがええねんけど♪そしてお姉さんキャラ。もうたまらん…おっと、鼻血が…
美奈のことを考えていたため、美奈の顔を直視できず上を見上げる。
「ちょっと玲?聞いてる?」
美奈が私に聞く。
「う、うん…」
ぎこちない返事をする。
「何処見てんねん」
紗江がツッコむ。
「…あ、鼻血が…」
上を見上げるのをやめて下を向いた瞬間…ポタッ
リアルに…出た。
『……』
「…へ、へるぷっ!!!!」
『ギャーーーーッ!!!!』
4人の悲鳴が廊下にまで響き、部活をしている生徒たちが「何事⁉」と騒いだのは言うまでもない。
「変態」
紗江が私の隣に立って私を睨みながらも氷嚢を鼻の上に当ててくれながら言う。
「うっさい。そーゆーのんで出たんとちゃうわっ!」
私は4人に保健室まで連れてきてもらって今大人しく椅子に座っている。
「そーゆーのんってどーゆーのんですかぁー??」
理緒が向かいのソファに座りニヤニヤしながら言ってくる。私は無視。くそ、仕返しされた。なんか悔しい。
「理緒め、覚えとけよ」
私はボソッと呟いた。
「おいおい~無視はよくないで〜玲たん〜♡」
甘〜い声で言ってくる理緒。ムカつく。今すぐ頭スコーンッと叩きたい。このスリッパで…だが保健の先生に安静にしとかなしばくって言われたから我慢や。先生にしばかれるなんて末恐ろしいわ。怖っ
「まあ、教室暑かったし、きっとその所為やろ」
私の、紗江とは反対の隣に座る茉莉花が私をフォローしてくれた。
「茉莉花ぁ~ナイスフォローや」
そう言って茉莉花に微笑みかける。茉莉花もニコッと答えてくれる。
「いやいや、きっとまた美奈でいやらしい妄想しとったんやろ!この中2男子!」
紗江が言ってくる。
「えっ、そうやったん玲?」
理緒の隣に座っている美奈が何故か顔を真っ赤にして目を見開いて聞いてくる。
「あ、阿保!そんなんしてへんわ!何を勝手なこと言ってんねん紗江!」
私は必死で否定するが尚も美奈の顔は何故か赤く、照れている様な感じ。シャイやからかな?理緒は美奈の隣でケラケラ笑っている。
「美奈!ほんまに!そんな妄想してへんからな!信じて!」
「でも一回くらいはあるやろ?」
笑いながらしつこく聞いてくる紗江。私は図星で口ごもる。
「う…ま…まぁ、一回くらぃゎ…」
「え!あるの?玲!!??」
驚いた顔で頬を赤く染めて聞く美奈。
「いや!そ、そんないやらしいことじゃなくて!その、えーと…も、もうええやん!この話は!とりあえず美奈!変なこと考えてへんから安心して!」
そんなことより海の話しよーっと私は無理やり話を変えた。皆は変態ーとか言いながらも海の話をし始めた。美奈は少し、少しだけど、何処か切なそうな顔をしてその後私と目を合わせてくれなかった。
怒っているのだろうか?
悪いことをしてしまったのか。いや、実際悪いのは紗江やし…っつっても妄想しかけてたのは事実やし、妄想したことあるし。いやらしいことも。
だって、私は美奈のことが好きやねんもん…優しいくていつも私に世話を焼いてくれる美奈が好き。美奈とあんなことやこんなこともしたい…なぁ〜んて馬鹿な妄想してるのも事実や。やっぱり紗江が言ったとおり、私は変態やな。間違いない。純情な気持ちなんかどっかいってもうた。
でも美奈、安心してや。
私はあんたに告ることなんかないし、そんな勇気もない。
片思いで終わる予定やねんから安心しぃや。
まあ、一日でも早く、美奈に彼氏ができればこの気持ちに踏ん切りがつくねんけどなぁ。きっと悲しいんやろけど、カミングアウトして美奈とも、そしてこの5人組とも距離が空いてしまうよりかは大分まっしやわ。
だから私はカミングアウトせず、普通の女子高生として生活していくのだ。
そして、あれから美奈とは何も言葉を交わさず、気まずい関係のまま、海に行く日を迎えた。
結局海には列車で向かうことにした。
「いや〜晴れて良かったなー」
ぐぅーと伸びをしながら理緒が言った。
「やっぱり、夏休みでも平日だと空いてるなぁ」
「貸し切りみたいやなぁ」
紗江と茉莉花がそんな話をしながら何処に座るか決めている。私と美奈は無言のまま3人の後を付いて行く。美奈が少し前を歩き、私は美奈の華奢な後姿を眺めながら歩いていた。美奈は白のワンピースに麦わら帽子といういかにもな服だった。眩しい。今日も可愛い。それと引きかえ、私はボーイッシュな格好。紺のクロップドパンツにブカブカなボーダーシャツ。ピアスに髪は夏休みということで明るい茶髪に染めてみた。さっきまでチャラ男〜と散々理緒と紗江に弄られた。だから今の私は拗ねている。
気まず過ぎる。どうにかしなければまずいわ。これは。
列車は二人掛けの座席が向かい合わせになっていて、5人組の私たちは1人余ることになる。私は美奈と二人になることを自然と避ける為に1人で座ろうと決めていた。
「理緒は紗江とがええなぁー」
「えぇー理緒うるさいやん」
紗江がいかにも嫌そうな顔をして理緒が抱きつこうとした腕をどける。
「なんでーっ!!」
理緒がショックを受けて項垂れている。
「ははっ、冗談やがなー!もぅ〜しゃーないなぁ」
紗江はそう言って理緒の座ろうとしていた座席の隣に座った。
「ひゃー紗江ぴょんー!!優しいぃー」
理緒が犬なら尻尾を振っているであろう。紗江の隣にドカッと座って紗江にベタベタしている。
「ほな、うちは1人でゆっくり座わろかな」
茉莉花がそう言って理緒達と向かい合わせの座席に座ろうとした。まずい、このままやと美奈と二人になってしまう!!!
「へっ⁉ちょっ…茉莉花!それは…」
私は小声で茉莉花に話す。すると茉莉花が
「ええかげん仲良くしぃ。せっかく5人で海に行くねんで。あんたらの所為で楽しくないなんて嫌やろ?うちはみんなと仲ようして良い思い出作りたいねんけど?玲もやろ?」
「う…はぃ…」
茉莉花の言葉が胸に突き刺さる。そうや、せっかく5人で出掛けているのだ。悪い雰囲気を出すのは良くない。茉莉花の言う通りや。
「それに、美奈は玲と仲直りしたいって思っとるはずやで」
「う、うん…うちも…仲直りしたい…」
すると茉莉花はふふっと微笑んで私の耳にこう囁いた。
「気持ち伝えるんやったら…今ちゃうのん?」
へ?
「なななな*/#&○¥☆#!!!!」
慌てる私にまた微笑みかける茉莉花。
「見てたらわかる♡ふふ、応援してるで〜、まぁ、大丈夫やと思うけど〜」
そんなに分かり易かったのか?いや、茉莉花が鋭いのか?
でもばれてしまっては仕方ない。茉莉花は口が堅いし、誰にも言わないでいてくれると思う。しかも茉莉花は理解してくれている。本当に優しいコだ。
けど、大丈夫って何がや?何がどう大丈夫やねん。さっぱりや。
「ま、茉莉花…その…」
「あ、誰にも言わんで?秘密にしとくよ。んもぅ、ほら、美奈呼んで一緒に座ってきぃ?」
茉莉花はそう言って自分の席に座り理緒と紗江の話に入っていった。
とり残された私と美奈。
私は勇気を振り絞って美奈に声を掛けた。
「み、美奈…」
「…ん?」
ずっと下を向いて自分の荷物を見つめていた美奈がふっと顔を上げた。その顔は元気のない感じだった。これも私の所為だな。そう思った。
ビクビクしながら美奈に話をする。
「ま、茉莉花が1人で座るって言うからさ…その…い、い…一緒に座ってもいい…かな?」
私は言い切った。断られたらどないしよか。そんな不安が過った時、
「ええよ、座ろ」
美奈の柔らかい声が聞こえた。顔を見れば、頬を赤く染めて微笑んでいた。やばい、すごく…可愛い。ってそんなことより!美奈は私と一緒に座ってくれる。嬉しすぎて私も思わず微笑んだ。そして私が窓側の席に座り、美奈が通路側に座った。
少しさっきので気持ちは軽くなったがまた二人は沈黙した。
こうなってはきりがない。私はまた勇気を出して話しかける。早く本題に触れた方がいい。早く美奈と仲直りしたい。そんな気持ちが先走る。
「美奈、」
「何?」
「ごめん…なさい…」
「…何が?」
美奈は前を向いたまま私と話を続ける。
「あの…夏休みの前日の日にさ、変なこと言ってごめんね?妄想してたーとか…嫌な思いさせて…ごめん…」
私は素直にそう言った。すると美奈が此方を向いて口を開いた。
「あたし…怒ってへんよ…」
「へ?」
今耳を疑う言葉が聞こえたよーな…怒ってへんやと…??
「だから、怒ってへんってば…」
「え、でも、今まで目ぇ合わせてくれんかったし、喋らんかったし、え?」
「ん…あ、あれはぁ…その…恥ずかしかったとうかぁ…」
美奈は急にモジモジし始めた。その顔は先程よりも真っ赤だ。
「美奈?…な、何が恥ずかしかったん?皆の前そんな話をされたから?」
阿保な私には分からなかった。
「違う…違うわ、阿保…」
違うんか。じゃあ何や??
「あ、阿保?阿保言うなや…阿保やけど…なぁ美奈?うち阿保やからストレートに言ってくれな分からんねん、ちゃんと美奈と仲直りしたいねん!」
思わず声が強くなってしまった。美奈は私の声にビクッとして肩を震わせていた。
「あ、ごめん」
自然と私は美奈の肩に手を置いていた。美奈はそれを無理に振り払おうとはしなかった。
「ううん……あたしも玲と仲直りしたい…けど、ストレートに言ってしまったら…また…仲が悪くなるかも…ううん、今よりもっとや…それが…怖いねん…」
私と何処か似たような考え…もしかしたら…茉莉花が言った大丈夫の意味って…
私は美奈に顔を近づける。心臓がうるさい。美奈は驚いた様に目を見開く。
「美奈…大丈夫…うち、美奈のこと嫌いになったりせーへんから…言ってくれへん?じゃないとモヤモヤのままで夏休み…いやこの先を過ごすことになってまう…そんなん嫌や、うち。お願いや、言ってください…」
しっかりと美奈の目を見て話した。すると美奈は顔を真っ赤にしながら手で口元を隠しポロッと涙を流しながら話し始めた。
「だって…うぅ…だって好きな人が私のことで妄想してるって言われたら恥ずかしいやんっっっ!!!」
「っ!!」
「あたし…玲のこと…好きになってもうてん…ごめん」
美奈も…私のこと…好きやったんか…なんやねん…嬉し過ぎるやろ…阿保…
「美奈っ」
私はそう言って美奈を抱きしめた。美奈はまたビクッとして固まったいた。
美奈の綺麗な髪がくすぐったい。美奈の体は今にも崩れてまうんちゃうかってぐらい華奢だった。
「うちも…美奈のこと…好きやで…大好きや…恋愛対象としてやで?」
前にいる理緒達にばれへんように小声で話す。
「玲?…ほんまに⁈ほんっまにっ⁉」
美奈がしつこく私の腕の中で聞いてくる。なんとも愛らしい光景やろか。顔が自然と緩む。
「うん、ほんまやで…大好きやで…」
そう美奈の耳元で囁く。それにドキドキしながらも私の背中に美奈が手をまわす。そしてギュッと私を抱きしめた。細い腕やのに結構力があるもんで少し苦しい。でもそんなの気にしない。
「玲!好き!あたしも好き!あっ!!」
急に美奈が大声を出した。
「なっなに⁈」
「あ、あの…あたしも…玲で妄想しとった…いやらしいことも…ひいた?」
恥ずかしながらも不安そうに聞いてくる美奈。美奈もなかなかの変態やということが発覚した。なんや、うちら変態同士やったんか。
「あはは、ひかへんよ?だって…うちも変態やもん…へへ」
「ぷっ、あはは!そっか!玲はほんまに変態やってんね!あはは、そーかそーか…ふふ、似たもん同士やね」
美奈は私の胸に顔をうずめて笑う。可愛い。可愛い過ぎる。絶対誰にも渡さん。そう私は思った。どうやら独占欲が増しそうや。
「美奈っ」
「ん?」
名前を呼ぶと顔を上げる。私は親指で涙を拭ってあげて、美奈の顎をクイッと上げ可愛いピンク色の唇に自分の唇を当てた。
「ん…」
美奈は最初驚いていたが次第に瞳を閉じて私の首に腕を回してきた。
まさか海へと向かい走る列車の中で今年の夏休みがこんなにもキラキラするものになるとは思わなかった。
高校生2回目の夏休み。私はダラダラせずに済みそうやわ。