食堂(1)
食堂に行くとたいていの場所は人が座っていて、諦めて中庭で食べている人も沢山いるほどだった。
「あーやっぱり混んでるなあ都丸、どっか席空いてないか?」
すると都丸は微妙な顔をした。
「あることにはあるのですが、しかし座っていいものか」
都丸の見ている方を見ると、一人の少女が座っていた。
ごった返した食堂では使っていなければ知らない人の横にでも座るのが常識だ。そのくらいしないと席には座れない。それにそこから生まれる友情なんてものも珍しくない。
しかしその娘の机には誰も座っていなかった。
「誰だ?あの娘」
不思議におもって首をかしげた。
「知らないのですか?青井 由衣さんですよ。ほら足が動かないっていう」
「ああ」
青井 由衣
確か一つ年下だったはず、夏休み明けに転校してきて、曰く足が不自由だとか。
「確かに車椅子だな」
「ええ、無口ですしみんな接しづらいのでしょう」
それでも、青井の机には誰も座っていないというのも変わっている。
そこまで避けられているのか……?
「まあ関わらないのが一番だな諦めて中庭で食うか……ってまておい!!」
首の骨が折れるかと思うような勢いの素晴らしい二度見で振り返った。
「びっくりしますよ茂くん。どうしたんですか?」
「よく見ろ青井の持ってるあの小説!!火の玉シリーズじゃねえか?」
「火のた……ああ茂くんが読んでいたあのつまらない本ですか」
「ああ、全校生徒にすすめても誰一人面白いと言わなかった本。おかげで僕は誰ともあの本について語ることができなかったんだ」
「書評でも叩かれまくりでしたからねえ。よくもまあ調子に乗って三作目なんて書き始めたものだと思いましたよ」
火の玉シリーズとは、「火の玉」「殺人計画!?」「一億円拾った!?」という既刊三作の本からなるシリーズである。
痛々しいまでに笑えないギャグ小説であり、なぜ三作目を書く気になったのかは数少ないファンの間でも多数の意見が寄せられている。
「くそっこれは声をかけるしかねえな。世界を探しても珍しい火の玉シリーズファンだぜ?運命すら感じるよ」
「わかったから行きましょう。麺が伸びますよ?」