エピローグ
『ヤフルエイ・アァァシアウ(博士、解読が完了しました)』
「スリサ・ダルラ・アァァスル(そうか。回してくれ)」
三百センチ程度の体格の、あえて喩えるなら蜂のような外見をした二足歩行の生物が、緑と紫外の色をした大きい球を見つめている。彼は、ついに世紀の発見を成し遂げようとしていた。
数億年前、急速に終わりを告げたとされる文明が残したデータを、ついに解読する事が出来たのである。それは、考古学的に見ても化学的に見ても、つまりは全ての学問においての大発見だった。彼はこの研究に、彼の人生の一割、数百年を費やしていた。
「シルサルチー・アアァァァルチアォ(よくもまぁ、達成しましたね。博士)」
彼の隣で、しきりに触覚とも毛とも取れるような数本の毛をしきりに動かしながら、彼の妻がそう言った。
「ササカカ・スルラ・スルラァァァオゥ(ああ。長かったな、これまで)」
残されたデータはかなり劣化が進んでいた。それを復元し、詠み易いように並べて、何とか記号らしい文字列を作る。ここからが長かった。彼らの言語体系と、前文明の言語体系では、全く法則も構成も違っていたのだった。それでも、同じ記号が使われている部分を抜き出し、まとめ、推測し、錯誤し、繰り返す内に、やっとゴールへと辿り着く事ができた。今日はついに、そのお披露目の日である。
『ララァァヤフルエー・アァァァァラルチル・アイアァ(博士。送りましたよ。さあ、どうぞ)』
「ササアサァァ・グサン・スルチ・ノンサァ(ありがとう。では、読み上げよう)」
球体に、彼らの使っている細かい文字が浮かび上がる。彼は、その文字を、ゆっくりと読み出した。