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神にならなかった僕らの話  作者: 羊野 羊
正しさが形を持つ街
9/15

順番から外れる人

正しさに並ばない人は、

間違っているわけじゃない。

ただ、数えにくい。

街を歩くうちに、

視線の流れが分かるようになってきた。


誰が住人で、

誰が巡礼で、

誰が“保護される側”か。


判断は早い。

迷っているかどうか、それだけだ。


迷いのある人間は、

自然と声をかけられる。

案内され、整えられ、列に並ぶ。


レイたちは、案内されなかった。


それは自由でもあり、

同時に――管理の外にいる、ということでもある。


市場の裏手。

人通りの少ない通りで、声をかけられた。


「そのまま進むのは、勧めない」


女の声だった。


振り向くと、

壁に背を預けるように立つ人物がいる。


白い装束。

だが、神官のそれとは少し違う。

整ってはいるが、揃っていない。


視線は鋭い。

敵意はない。


「……誰だ」


レイが問う。


女は一瞬だけ、間を置いた。


「通りすがり」


嘘ではない。

だが、それだけでもない。


アインが、半歩だけ下がる。

無意識の動きだった。


女はそれに気づき、

小さく息を吐いた。


「怖がらせるつもりはない」


「なら、どうして声をかけた」


女は、街の奥――白い建物の並ぶ方角を見た。


「順番が、回ってきてる」


それだけ言う。


説明はない。

けれど、その言葉は、

この街で感じていた違和感と重なった。


「昨日の確認で、線を引かれた」


女は、淡々と言った。


「短期滞在。

 少数派。

 判断保留」


どれも、否定ではない。

だが、居場所を示す言葉でもなかった。


「この街は、優しい」


女は続ける。


「だから、合わないものを

 長く置かない」


「合わない?」


レイが聞き返す。


女は、ほんの少しだけ口角を上げた。


「悪い意味じゃない。

 ただ、噛み合わないだけ」


その言い方は、

どこか静かだった。


アインが、控えめに口を開く。


「……それ、あなたも?」


女はアインを見る。

少し驚いたように目を瞬かせ、

それから頷いた。


「そう」


短い答え。


「だから言ってる。

 このまま中央へ進むか、

 戻るか。

 それとも――」


女の視線が、街の外へ向いた。


「おすすめされない道がある」


レイが眉をひそめる。


「それは?」


「使われてはいる。

 でも、案内されない」


言葉を選んでいるのが分かった。


「気づいたら、

 そっちに足が向いてた、

 って人もいる」


説明は、そこで終わりだった。


「……ズレた道?」


レイが問い返す。


女は首を振った。


「今は、そこまで話さない」


踏み込みすぎない距離。

押しつけない言い方。


「私は、リィナ」


名乗ったのは、それだけだった。


立場も、所属も言わない。


「忠告はした。

 決めるのは、あなたたち」


それだけ言って、

リィナは通りの奥へ歩き出した。


足取りに迷いはない。

だが――

どこかに属している感じもしなかった。


「……行っちゃったね」


アインが言う。


「うん」


レイは、すぐには動かなかった。


今、

何かを選ばされたわけじゃない。


ただ、

並ばない道が確かにあると知った。


シロが、低く鳴く。


促すでも、急かすでもない。

ただ、待っている。


レイは、街の中心と、

街の外を見比べた。


正しさの並ぶ場所と、

数えにくい道。


「……今日は、決めない」


レイは言った。


アインは頷く。


「うん。

 それでいい」


選ばない、という選択。


それがまだ、

この街では許されている。

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