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神にならなかった僕らの話  作者: 羊野 羊
正しさが形を持つ街
8/15

形式的な確認

確認とは、

安心させるための言葉だ。

誰を、とは言わない。

朝の光は、均等だった。


街の影も、人の影も、

同じ濃さで石畳に落ちている。


教会の別棟は、宿から遠くなかった。

目立たない建物だが、

来る人間を迷わせない作りになっている。


――来ることを、前提に作られている。


「緊張してる?」


アインが、小さく聞いた。


「してない」


即答だった。

嘘ではない。

ただ、落ち着いているとも言えなかった。


扉を開けると、白い部屋だった。


飾りは少ない。

椅子と机、記録用の板。

施療室よりも、役所に近い。


若い神官が一人、立ち上がった。


「おはようございます。

 本日はご協力ありがとうございます」


礼儀正しい。

声も柔らかい。


「簡単な確認です。

 この街では、皆さんにお願いしています」


“危険ではない”

その言葉が、最初に出る。


レイは椅子に座った。

アインは半歩後ろ。

シロは入口付近で伏せている。


神官は、視線を順に走らせた。


「旅の目的を教えてください」


「決めていない」


レイは、正直に答えた。


神官は一瞬だけ、言葉を探した。

だがすぐに頷く。


「そういう方も、少なくありません」


否定しない。

分類するだけだ。


「出身地は?」


「辺境の町」


地名は出さなかった。

神官は追及しない。


「体調はいかがですか?」


「問題ない」


「魔法の使用頻度は?」


レイは、少し間を置いた。


「ほとんど、使わない」


神官の手が、板の上を滑る。

何かを書き留めている。


「魔法を主としない方ですね。

 この街では、少数派です」


評価ではない。

判断でもない。


配置だった。


次に、アインを見る。


「同行者の方も、よろしいですか?」


アインは頷いた。


「お名前を」


「……」


一拍、空白。


アインは困ったように笑った。


「覚えなくていいです」


神官は戸惑わない。

慣れている。


「仮の呼び名でも構いません」


「じゃあ……アインで」


神官は頷き、書き留めた。


「体調に異常は?」


「ときどき、長くいると

 疲れやすいです」


「この街では?」


「……少しだけ」


神官は、板に何かを書いたあと、

一言付け加えた。


「滞在は、短めがよろしいかと」


アインは、その言葉に頷いた。

説明を求める様子はなかった。


助言の形をしている。

だが、それは――指示だ。


最後に、シロを見る。


神官は、少しだけ距離を取った。


「……同行獣については、

 こちらでは判断しかねます」


シロは動かない。

目を閉じてもいない。


「危険性は?」


「ない」


レイが答える。


神官は、しばらく観察してから頷いた。


「分かりました。

 では、本日の確認は以上です」


あっさりしている。

拘束も、追及もない。


「ご協力、ありがとうございました」


立ち上がり、軽く頭を下げる。


「この街では、

 皆さんのような旅の方も歓迎しています」


――ただし。


その先は、言わない。


建物を出ると、

街の音が戻ってきた。


アインが、歩きながら言う。


「……線、引かれたね」


「どこに?」


「ここまで、って線」


怒ってはいない。

怯えてもいない。


事実を確認しているだけだ。


レイは、教会の尖塔を見上げた。


白く、清潔で、

正しさの形をしている。


「問題は、なかった」


レイは言った。


「うん」


アインは頷く。


「でもね」


一呼吸置いて、続ける。


「この街では、

 “そのまま”でいられる時間が、

 決まってる」


レイは、そのまま立ち止まった。


確認されたのは、

安全かどうかではない。


ここに、

どれくらい置いていいか――

それだけだった。

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