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神にならなかった僕らの話  作者: 羊野 羊
正しさが形を持つ街
6/15

正しさは並んで配られる

善意は、疑われない。

疑われないものほど、長く残る。

街は、辺境とは比べものにならないほど大きかった。


石畳は整い、建物は高く、道には人が溢れている。

中央大陸に入ったのだと、誰に言われなくても分かった。


声が多い。

足音が重なり、呼吸の音が消える。


レイは、その中を歩きながら、少しだけ眉をひそめた。

嫌悪ではない。

ただ、身体が追いついていない。


ここでは、立ち止まる理由がない。

流れが、人を前へ押し出す。


「人、多いね」


アインが言う。

感想というより、確認だった。


「うん」


それ以上の言葉は出なかった。

多い、という事実が、すでに十分だった。


シロは、目立たないように歩いている。

白い体毛は人目を引くはずなのに、

なぜか誰も気に留めない。


それが自然なことのように。


街の中心に近づくにつれ、

白い建物が増えていく。


教会だった。


高い尖塔。

掲げられた紋章。

開かれた扉。


広場には人の列ができている。

怪我人、老人、子ども。

順番を待つ顔に、焦りはない。


「施療、やってるみたい」


アインが、列を見て言う。


レイは頷いた。

列は整然としている。

割り込みも、怒号もない。


白い装束の神官たちは、忙しそうだが乱れていない。

一人ひとりに声をかけ、手を取り、祈りを与える。


淡い光が落ち、

痛みが和らぎ、

人が、ほっと息を吐く。


――優しい。


その感想が、否定できなかった。


「……悪くない」


レイが、ぽつりと言う。


アインは、少しだけ目を伏せた。


「うん。

 ここなら、安心する人も多いと思う」


それ以上は言わない。

賛成でも、反対でもない。


ただ、そう“見える”という話だ。


列の端で、神官の一人が声を上げた。


「次の方、どうぞ」


子どもを連れた母親が前に出る。

子どもの腕には、包帯が巻かれている。


神官が膝をつき、子どもと目線を合わせた。


「怖くないですよ。すぐ終わります」


光。

包帯の下で、何かが整う気配。


子どもが目を瞬かせ、

次の瞬間、腕を動かした。


「……痛くない」


母親が、何度も頭を下げる。


「ありがとうございます。

 本当に、ありがとうございます」


神官は微笑んだ。


「いいえ。

 神の導きです」


拍手が起こる。

列が、少し前に進む。


レイは、その光景から目を離せなかった。


ここには、

切り捨てる感じがない。

排除の気配もない。


正しさが、

きちんと手を差し伸べている。


――だったら、何が間違っている?


その問いが、胸の奥に引っかかる。


アインが、小さく息を吐いた。


「……ね」


「?」


「ここ、長くいるとね」


言葉を探すように、少し間を置く。


「自分の順番が、

 どこかで決まってる気がする」


レイは、答えられなかった。


列は確かに、順番通りに進んでいる。

誰も文句を言わない。

公平で、親切で、正しい。


でも――

順番は、決められている。


レイは、無意識に耳のイヤリングに触れた。

冷たい。


反応はない。

だが、街全体が、

静かに何かを測っているような感覚があった。


「今日は、ここを通ろう」


レイは言った。


立ち止まる理由はない。

だが、留まる理由も、まだない。


シロが一度だけ、振り返った。

教会ではなく、

その背後の、街全体を見て。


そして、何も言わず歩き出す。


レイとアインも、後に続いた。


正しさが並んで配られる街を、

横目に見ながら。

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