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神にならなかった僕らの話  作者: 羊野 羊
神が要らなかった場所
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神のいない静けさ

正しさがある世界では、

選ばないことは、許されない。

廃施設の奥は、異様なほど静かだった。


足音が響く。

それだけで、生きている感じがする。


壁に刻まれた記号は読めない。

意味があるのかどうかも分からない。

それでも、壊されずに残っている。


放置された場所に見えて、

荒れてはいなかった。

人の手も、神の手も、

どちらも入っていないみたいだった。


レイは歩きながら、何度も立ち止まった。

魔法を使おうとしたわけじゃない。

ただ、いつもなら無意識に頼っている“何か”が、

ここにはない。


それなのに、不安はなかった。


「……変だな」


呟いて、ようやく気づく。


普通、遺跡は怖い。

モンスターがいるかもしれない。

罠があるかもしれない。


だがここでは、

危険が待ち構えている感じがしない。


シロは少し先を歩いている。

振り返らない。

守っているのか、興味がないのかは分からない。


広い空間に出た。


天井は崩れかけているのに、

中央の装置だけが、奇妙なほど整っていた。


触れても、何も起きない。

拒絶も、反応もない。


耳元のイヤリングが、静かだった。


町では、

教会の前では、

あれほど反応していたのに。


ここでは、沈黙している。


遮断されている感じじゃない。

最初から、相手がいない。


魔法が使えない。

だが、それだけじゃない。


何かになろうとしなくていい。

肩に力を入れる理由が、見つからなかった。


息が、深く吸えた。


そのとき、シロが低く鳴いた。


警告だ。

だが、敵意はない。


空気が、わずかに揺れた。


「……こんにちは」


声がした。


振り向くと、

そこに少女が立っていた。


前に見た少女だ。

確かに見ているのに、

記憶が輪郭を結ばない。


「また会えたね」


少女は穏やかに微笑む。

距離を詰めてこない。

こちらの反応を待つでもない。


「ここ、静かでしょ」


レイは答えに詰まる。

名前を呼ぼうとして、言葉が出ない。


「……」


少女は、それを気にしなかった。


「覚えなくていいよ」


軽く言う。

慣れている声音だった。


「覚えようとすると、

 ちょっと困るから」


理由は言わない。

説明もしない。


ただ、そういう距離を取る。


シロが一歩、レイの前に出た。

唸らない。

拒絶しない。


少女はシロを見ると、少しだけ目を細めた。


「あなたも、ここが楽?」


シロは答えない。

だが、視線を逸らさなかった。


「……そっか」


少女はそれだけ言って、納得したように頷く。


レイは思う。

――彼女は、ここでは“浮いていない”。


町では、

教会の前では、

彼女は確かに、世界から少しずれていた。


けれどこの場所では、

誰にも選ばれず、

誰にも決められず、

ただ立っている。


「ここなら」


少女が、ぽつりと言う。


「いなくならなくて、いい気がする」


希望でも、宣言でもない。

事実を確かめるみたいな声だった。


レイは、その言葉が

重すぎないことに、少し驚いた。


ここは、

誰かを意味づけるための場所じゃない。


だから――

彼女も、ここに立てる。

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