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神にならなかった僕らの話  作者: 羊野 羊
神が優しかった頃
2/15

父だけが抜け落ちた

失うのは、命だけじゃない。

朝。

工房は空だった。


血も、遺体もない。

昨夜の痕跡だけが、綺麗に抜け落ちている。


町は動いている。

昨日と同じ声で笑い、働き、暮らしている。


レイが父の名を口にすると、人々は首を傾げた。

「誰だ、それ」


胸の奥が冷える。

町は消えていない。建物も、道も、生活もある。

――抜け落ちているのは、父に関わる部分だけだった。


耳のイヤリングに触れる。冷たい。

父と自分で一つずつ、対になっていたはずのもの。

今は、自分の片方だけが残っている。


床板を剥がす。

父が触らせなかった場所から、古い鞄が出てきた。


手帳と、簡素な地図。

町外れの荒れ地に、印がついている。

魔法が効きにくい土地だと、昔から言われていた。


余白の一文。

――ここは、神が要らなかった場所だ。


意味は分からない。

だが、行くべきだとだけ分かった。


町を出る。

振り返ると、町は“正しい顔”をしている。それが怖い。


数日後、印の場所に辿り着いた。

地面に埋もれた建造物。遺跡と呼ぶには、存在感が薄い。


中へ降りると、空気が変わる。


魔法を使おうとして、やめた。

辺境では不安定だ。ここでは、さらに噛み合わない。


それより先に、身体が動く。

足音を殺し、死角を選ぶ。いつもの生き方だ。


奥で、何かが動いた。


白い影。

狼に似た獣。だが、決定的に違う。


こちらを見ている。警戒は強い。

けれど、敵意は薄い。


――測られている。


レイは息を吐いた。

普通の獣じゃない。理由は分からない。

確信だけがあった。


白い獣は、逃げも襲いもしなかった。

ただ、そこにいた。

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