前に出る理由
守ることと、
進むことは、違う。
谷に入ってから、
気配の質が変わった。
数が減ったわけじゃない。
近づき方が、違う。
今度は、足音がはっきり聞こえた。
人だ。
二人。
装備は軽い。
剣と短槍。
迷っている歩き方じゃない。
「止まれ」
低い声。
命令ではない。
確認に近い。
シロが前に出ようとする。
「待て」
レイが、短く言った。
シロは止まる。
レイが一歩前に出た。
武器は持っていない。
構えもしない。
相手の一人が、眉をひそめる。
「この先は、
通行を勧められていない」
言い回しが、やけに柔らかい。
「戻るつもりはない」
レイは、事実だけを言った。
「理由を聞いている」
「決めていないから」
一瞬、沈黙。
相手は困ったように息を吐いた。
「……ここは、危険だ」
「さっき、通った」
事実だった。
相手の視線が、シロに向く。
「獣がいたはずだ」
「もういない」
正確ではない。
だが、嘘でもない。
短槍の男が、一歩前に出る。
「確認する」
それだけ言って、踏み込んできた。
――速い。
だが、
型通りだ。
レイは、半歩下がり、
相手の踏み込みを外す。
体重が前に残る。
肘。
肩。
押し返す。
剣の男が来る。
今度は正面。
レイは避けない。
受け止め、
軸をずらす。
刃が空を切る。
二人が、距離を取った。
「……魔法は?」
「使わない」
「使えない?」
「どちらでもいい」
沈黙。
相手は、構えを解いた。
「……分かった」
納得ではない。
判断の保留だ。
「今日は、ここまでだ」
二人は、道を譲った。
敵でも、味方でもない。
ただ、
前に立たなかった。
レイは振り返らない。
シロが並ぶ。
アインも、少し遅れて続く。
「……前に出たね」
アインが言う。
「必要だった」
それだけだった。




