おバカ貴族と二人の過去
選別の儀から一年。カサルは三等級の異端核の権威に群がる貴族や商人に囲まれていた。誰も彼を褒めそやし尊ぶが、彼の言葉には耳を傾けない。まるで、幼い彼を着飾る情報が彼の全てだとでも言うように。
そうした人間の一人である家庭教師が今日も彼に頭を下げる。
「今日の勉強はここまで。ありがとうございました、カサル様」
カサルも「ありがとうございました」と返す。
だが、次の瞬間には別の家庭教師が目の前に立ち、講義を開始していた。
六歳になったカサルには宮廷お墨付きの家庭教師が八人付き、国の支援もあって勉強漬けの日々を送っていた。数学、神学、軍事学に古典。基礎学問から化学、とりわけ異端核分野の専門家が、ヴェズィラーザム領で教鞭をとった。
母ジュディスは毎時間、その様子をジッと見ては小言を呟いていた。カサルの授業態度や教師との関係に少しでも不満があれば、すぐに別の教師を雇う。
「貴方は偉大な魔法使いになるのよ」
その言葉は羅針盤であり呪いでもあった。
母という太陽に従い、トイレと食事と五時間の睡眠以外全てを勉強に捧げる。それが幸せであると、彼は信仰していた。
そしてその信仰心の表れか、僅か二年で初等から高等教育までを終え、七歳の終わりには研究者を招き議論を深めるまでに知識が達した。
名実ともに、もはや誰も彼に教えることはなかった。
そんな順調なエリート街道を歩み続ける彼の前に、ある日一人の薄汚れた少年が通り過ぎる。服はツギハギ、頬はこけて骨が浮いている。不潔ではないが、野犬のようだ。カサルはそれを不快な目で見ていた。
(なぜ、この邸に奇妙で小さな生き物がいるのだろう?)
カサルには「子供」という存在が分からなかった。知識では知っていても、彼にとっては机上の存在、文章問題に出てくるものに過ぎなかったのだ。
そしてそんな少年はカサルを「お兄様」と呼んだ。
カサルは少年の目鼻立ちを見て、自分と同じ血を分けているという仮説を立てる。しかし、納得のいかぬ疑問が浮上した。
「なぜ、そんなに汚いんですか?なぜ痩せこけている?なぜ、知性の欠片も感じさせない?」
漠然とした問いに、少年は首を傾げるだけで何も答えない。
カサルも首を傾げた。彼にとって、質問は回答があって当たり前。自分の考えを話すのが話し合いの大原則。思考せず沈黙するのは、単なる時間の浪費だ。
「貴方は意味不明だ」
カサルが笑顔で言うと、自分の部屋に戻ろうと踵を返した。その瞬間、少年が彼の裾を引っ張る。初めて感じる服の抵抗感に、カサルは驚いて振り向いた。
くすんだガラス玉のような少年の目。情熱も活力も感じない、生きながらに死んでいるような瞳だ。
「なんで毎日、お肉を食べれるの?」
少年の言葉に、カサルは今朝の栄養補給を思い出す。肉や野菜などを胃に入れた覚えはある。
「出されたからです。貴方も食べているのでは?」
「僕、ずっとお豆のスープ」
カサルは返す言葉を失った。
早く過去話を切り上げて現在の話を書きたいなぁという気持ちと、もうちょっとやるんじゃよ、という気持ち。どっちもあります。
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ではまた(´・ω・)ノシ




