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ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第三章:ヴェズィラーザム領復興/天空物流革命編

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77/80

美少女空賊と悪魔の福音

タ、タイトル乗っ取られたー⁉

 白亜の円筒――王都シラクーザの象徴たる『聖塔』の重厚な石扉が、一切の情け容赦なく閉ざされた。


 ズゥゥゥン、という腹に響く重低音と共に、数トンの花崗岩が噛み合い、カサルの背中を闇の向こう側へと引きずり込んでいく。外界との繋がりが物理的に断絶された瞬間、聖域を支配していた神秘的な静寂は、どこか逃げ場のない不吉な重みを帯びてマリエの細い肩にのしかかった。


「……いってらっしゃい、カサルちゃん」


 扉を見つめるマリエの瞳には、つい先刻まで浮かんでいた「別れを惜しむ涙」の残滓(ざんし)が、宝石のようにキラリと光っていた。


 だが、その(しずく)が頬を伝い落ちるよりも早く、彼女は睫毛を震わせ、濡れた瞳を細める。マリエの口角が、獲物を仕留めた肉食獣のように滑らかに、そして深く吊り上がった。


「ふふっ……アハッ。上手くいった」


 彼女の背中から、漆黒の魔力を帯びた悪魔の翼が音もなく広がる。

 羽ばたき一つで周囲の空気が重く澱み、聖域の清浄な大気を侵食していく。

 慈母のような微笑みは消え、そこにあるのは、たった一人の獲物を檻に閉じ込めた悦びだけだ。


 マリエはカサルから預かった『設計図』と『子爵印』を、壊れ物を扱うように、しかし強欲に胸へと抱き寄せた。ひんやりとした石壁に指先を這わせ、一度だけ、閉ざされたばかりの冷たい石面にそっと唇を寄せる。


(シラクーザの治癒院から逃げ出した時はどうしようかと思ったけど、ここなら誰にも邪魔されずに、カサルちゃんは安静にして眠れるよね。一週間……なんて勿体ないこと言わずに、半年くらいそこにいて貰おうかな。私の可愛い王子様)


 マリエが軽やかに(きびす)を返すと、足元の影が意思を持つかのように爆発的に膨張し、周囲の森の木漏れ日さえも吸い込んでいく。彼女はそのまま重力を無視して宙を舞い、待機していた旗艦(きかん)愚者(ザ・フール)』のタラップへと飛び上がった。


 ◇


 数時間後。ヴェズィラーザム領、城下町。

 旗艦の艦橋に腕を組み、マリエが見下ろしていたのは、急速に正体を現し始めた「カサルの領地」だった。


 カサルはいつも自慢げに、そして傲慢に語っていた。

『弟の合理的で熱心な統治のおかげで、この不毛な地で民は秩序を維持しているのだ』と。

 だが、マリエという別視点から見れば、それは自らの理想を投影しただけのブラコン全開の妄言に過ぎない。


 粘土質の大地はひび割れ、埃っぽい風が吹き抜ける不毛の荒野。

 そんな場所で、軍事力も潤沢な資産もない貧乏貴族が、数万の民を単身で、知略だけで統治するなど本来なら不可能なはずなのだ。


(……ねえ、カサルちゃん。本当に気づいてなかったの? 愛は盲目って、あなたのことを言うんだね)


 マリエは広場へと降り立ち、人々の動きを観察する。

 そしてその異常性が変わりないことを確認した。


 『空の配達人(スカイウォーカー)』となった少女たちが、おにぎりの入った竹皮の包みを差し出すと、受け取った領民たちは、誰一人としてそれをすぐに口には運ばない。


 まるで壊れ物を扱うような手つきで、おにぎりを両手で恭しく捧げ持つ。

 そして、聖塔がある王都の方角――はるか地平線の先へ向かって深々と頭を下げ、唇をわずかに動かして低い祈りの言葉を紡ぐのだ。


 その儀式を終えて初めて、彼らは聖体拝領でもするかの如く、おにぎりを一口、大切に齧る。


「神の御慈悲を、感謝して頂きます……」


 乾いた風に乗って届く、その囁き。

 マリエは背筋に、ゾクッと気味の悪い、しかし心地よい寒気を感じていた。

 この地の人々は元来、極めて宗教色が強かった。


 作物が実らぬ過酷な大地で、彼らが唯一の頼りとしたのが、神への盲信だ。

 彼らにとって一ヶ月の飢えは「政治的な失敗」ではなく「神から与えられた聖なる試練」であり、カサルがバラ撒いた土産は、単なる「食料」ではなく「救世主による救済の証」だったのだ。


(カサルちゃんはこれを、ただの合理的な『普通』として見てたんだ。アハッ、本当に面白い)


 マリエの頭の中で、カサルが残した『指令書』の文字列を、冷徹な契約へと書き換えていく。

 カサルは論理で語ったが、マリエはそれを「強制力のある福音」に変えた。


(カサルちゃん、全員が理屈で動くと思ったら大間違いだよ。

 私たちなんて皮一枚剥いだら全員獣なんだからさ、ふふふ……)


 そして彼女はヴェズィラーザム銀行の頭取となったリヒャルトラインを冷たい銀の廊下へと呼び寄せた。


「リリ、教義を上書きして。今日から労働は『罰』じゃない。『神に愛されていることを証明するための手段』だって。この土地の神父たちにもたっぷりと『寄付』を渡して、そう講釈をするように徹底させて」


 マリエがカサルのいない間にしたいこと、それはカサルが聞いたら泡を吹いて発狂すること間違いなしの、不眠不休の労働を推奨する歪んだ新教義。

 そんなマリエの掲げたスローガンは、簡潔にして苛烈、そして悪魔的な響きを持っていた。


 『従う者には、祈りとしての労働を。従わぬ者には、贖罪(しょくざい)としての強制労働を』。


 マリエはその冷酷な言葉を唇に乗せた時、同時に、最も大切な少年に殺される覚悟をしていた。

 その覚悟が、彼女の瞳をさらに鮮やかに輝かせる。


 (カサルちゃん……『働いたら負け』がモットーだもんね。これを見られたら、私、二度と口を利いて貰えないかも……。でもいいの。『完璧』な世界に、カサルちゃん以外に働かない人がいたら困るもん)


 不安と悦びを綯い交ぜにしながら、マリエは最大効率で人間を動かすための施策を次々と打ち立て

 ていく。リヒャルトラインは手元の分厚い名簿に載った神父の名前に次々と印をつけて行った。


「お疲れ様、リリ。……どうかな、上手くいきそう?」


「ええ、マリエ。大きな龍災を受けた信徒たちは新たな教義を求めています。

 そんな彼らに富を築くことが天国への切符になると説けば、彼らは精根尽きる限界まで働いてくれるでしょう。信仰にはそれだけの力があるように思えます……それから、反対派の『剪定(せんてい)』ですが」


 石造りの建物の影から、ゾーイが指先で影の糸を操り、数人の男たちを荒縄で拘束しながら姿を現した。


「略奪や汚職を企んでた悪い人たちは、全部『更生リゾート』に放り込んでおいたよ。今ごろ、影の看守が睨みをきかせる独房で、泣きながら24時間体制で『風の靴』を組み立ててるんじゃないかな。指先が動く限り、彼らに休みはないよ」


 ゾーイの冷ややかな指揮下で、かつての空賊たちは領地を監視する「自警団」へと変貌を遂げていた。マリエは満足げに頷くと、広場の隅で一人、浮いている男へと視線を向けた。


「アハッ、いい子たちだね。……ヘルメスさんは、そこで何をしているの?」


 マリエの視線の先には、シラクーザでメディシスに完膚なきまでに叩きのめされたヘルメスがいた。

 彼は急造のマナー講師から、背中に定規を当てられながらスープを啜る所作を叩き込まれ、滝のような脂汗を流している。それに気づいたヘルメスは、地獄の特訓から逃げるように、よろよろとマリエのもとへ駆け寄ってきた。


「なんだマリエさんかい。……はぁ、はぁ……なんです、あっしにお呼びでやすか?」


「ヘルメスさん。メディシスの件はもう放っておいていいから。貴方はこの土地の富を循環させる、その一点に注力してくださる?」


「アンタまでメディシスを見捨てるんですかい。旦那に殺される前に、救い出さなきゃならねぇってのに!」


「……その件は、私に任せて。ヘルメスさんの目標は新しいギルドを百件、半年以内に新設することね」


 マリエの感情を削ぎ落としたような念押しが、かえってヘルメスの不信を煽った。

 なぜ、誰もがメディシスを裏切り者として処理しようとするのか。

 彼女は毒婦だが、共にカサルを担ぎ上げた戦友ではないのか。


 ヘルメスは独り、王都への潜入ルートを頭の中で描き直すが、耳に入るのはカサルを誹謗中傷するラジオの声ばかり。


 そんなヘルメスの、今にも壊れそうな焦燥感を、冷たいピーチティーをストローで啜りながら眺めていたのはゾーイだった。彼女は日傘を回し、氷の音をカランと鳴らす。


「どうしたの、おじさん。いつまで負け犬みたいな顔して、性悪女の尻追っかけてるの?」


「ち、違うわい! あっしはメディシスが……あの娘が本当に裏切ったなんて、どうしても信じられねぇんだ。あの旦那の背中を見て、他人に鞍替えするほど節操のない女じゃねぇよ!」


 ヘルメスは藁をも掴む思いで、情報の中枢にいる小生意気な少女に問いかけた。


「ゾーイちゃん、頼む。何かメディシスのことで隠してることはねぇかい? アンタなら、影を伝って何か掴んでるんだろ?」


「知ってるけど、教えるメリットがなーい。あ、そう言えばワタシー、最近自分専用の化粧品ギルド作りたくてさー。資材も船も、ぜんぜん足りないんだよねー。融通してくれるオジサマいないかなぁー」


 ヘルメスは躊躇うことなく、懐から取り出した羊皮紙にサインを叩きつけた。


「……分かった。ギルドの設立資金も、流通ルートもあっしが保証しよう。それで、情報は?」


「口約束じゃないよね? ……ふふ、まいどあり」


 小悪魔(ゾーイ)はヘルメスのサインがついた契約書を奪い取ると、唇の端に指を当て、サングラスをずらしてニヤリと笑った。


「メディシスさんは、裏切ってないよ」


「なっ……!? どういうことだい。王都のラジオじゃあ、カサルの若旦那を『変態貴族』だの『教会のダニ』だの、ボロクソに叩いてるじゃねぇか!」


「でもさ、よく聞いてみてよ。メディシスさんは、絶対に話しちゃダメな『禁忌』については、一言も喋ってないでしょ? 異端核の解剖とか、シュラウドのメンバーの正体とかさ。あの人、あえて下品な悪口だけを流して、ゴルディオンの目をごまかしてるんだよ」


 ヘルメスは目を見開いた。衝撃のあまり、持っていたハンカチを地面に落とす。

 メディシスが流しているのは、人格否定こそ激しいが、実害のない空虚な罵詈雑言ばかりだ。

 それはある意味カサルを守るための、泥に塗れた防壁とも言えた。


「……つ、つまり、あいつはまだ仲間なのか……? いや、どういうことだ?」


「これ以上は別料金。ワタシ専用の金箔塗りの航空船団ができたら教えてあげるね。バイバーイ」


 ゾーイは軽快な鼻歌をまじえながら、ダンスを踊るようなスキップで広場の雑踏へと消えていった。


(あっしが知らないところでドデカい蜘蛛が動いてやがる……。マリエさんはメディシスと繋がっているのか?いや、だとしたらカサルの旦那に不利になるようなことをわざわざする必要がない……何がどうなってやがるってんだ……!)


 ヘルメスは震える手で、ハンカチで汗を拭いた。

 カサルの築いた「機能美」の裏で、いつの間にかマリエという少女が張り巡らせた「粘着質な執着」の糸。


 それはもはや、ゴルディオンどころか、シラクーザという国家そのものを絡め取り、絞め殺そうとしている。それを止めることのできないヘルメスは、主人がいない仮設テントを振り返り、得体の知れない恐ろしさに身を震わることしかできないのだった。



あれ、コレどこかで聞いたことあるな。

プロテ……うーん。

ルター……カルヴァン……うっ、頭が。

次回は予定と大幅に路線変更をしたので、どうなるか分かりません。

ラストは決まっているんですが、そこに行きつくまでがうーんと言う感じです。


リアクションされると喜びます。

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それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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