表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第三章:ヴェズィラーザム領復興/天空物流革命編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/86

おバカ貴族とフューチャー炊き出し

ヴェズィラーザム領への帰路。


旗艦『愚者ザ・フール』のブリッジは、重厚な沈黙と、積み荷から微かに漏れ出すオリエンタルなスパイスの香りに包まれていた。


「……ねぇカサルちゃん。なんだか、とってもいい匂いがするね」


操舵輪を握るマリエが、銀色の髪を揺らしながら小さく鼻を鳴らした。


「コンテナに積み込む際、香辛料の袋が多少破れて漏れたのだろう。クミンにコリアンダー、それにガラムマサラ……。どれも王都なら金貨数枚は下らん高級品だ。実に惜しいことをした」


カサルはそう答えつつも、手元の計器から視線を外さない。


「ふふっ。これでお料理を作るのが楽しみだなぁ。領地に戻ったら、カサルちゃんにもたくさん美味しいご飯、作ってあげるからね?」


「……(おれ)より先に、飢えた民に食わせてやれ。(おれ)の胃袋なら、あと二日くらい空からが続いても効率に支障はない」


「ふふふっ……やだ。一番に作るもんね」


マリエがいたずらっぽく笑い、再び前方へ視線を戻すと、雲海の向こうに点々と小さな影が舞っていた。


それは鳥ではない。空の宅配人としてシラクーザの通信を支える『竜』たちだった。


この世界において、翼を持つトカゲのごとき『竜』と、かつて王都を更地にした『龍』は、似て非なる存在だ。竜は大きくとも二メートル程度。知性は高く、家畜としての自覚すら備えている。対して、数キロメートルに及ぶ巨躯を持つ『龍』は、もはや生物というより移動する自然災害だ。


ヨルムンガンドのような伝説級にいたっては、その死骸が今の中央大陸そのものを形作ったという逸話すらある。


「キュイ! キュイ!」


愛らしい竜の一頭が窓を叩き、速度を落とした旗艦のブリッジへ、円筒状の荷物を放り投げた。


カサルが椅子から立ち上がり、重い鉄の扉を開く。瞬間、冷たい突風が流れ込み、彼の漆黒のドレスを激しくたなびかせた。


「……っ、ぐ」


荷物を引き込もうとした右手に、焼け付くような激痛が走る。


シラクーザでの無理な魔法行使。ボロボロになった彼の腕は、未だ厚い包帯に包まれ、魔力回路が焼き切れた(うず)きを残していた。


「カサルちゃん、無理しないで! 私がやるよ」


マリエが影を伸ばして荷物を回収し、優しくカサルの手元へ届ける。


筒の中身は領主代行ザラからの、執念すら感じる悲痛な手紙だった。


『……兄さん、裏切っていないだろうな? 我々はもう限界だ。民はついに木の根をかじり始めた。餓死者が出ていないのは奇跡だ。一刻も早く、一粒でもいいから食料を届けてくれ……!』


「木の根、か。……なんとも野蛮な食事だな」


カサルは自嘲気味に笑い、ソファに深く沈み込んだ。


通常、物流が完全に封鎖されれば、数日で暴動が起き、秩序は崩壊する。だというのに、ヴェズィラーザム領は未だに「統率」を保っている。


「魔法より魔法だな。ザラのヤツ、どうやっているんだ?」


カサルは、かつて置いてきたタヌキや少女たちのことを想う。彼女たちもザラと共に不毛な土地を駆け回り、必死に食を繋いでいるのだろう。だが、物理的な限界を超えて民の心を繋ぎ止めているのは、ザラという男が持つ「熱」に他ならなかった。


(……兄として、少々過小評価が過ぎたか)


ザラは気づかぬうちに、恐怖と飢えを自分一人の責任感で押し留めていた。


それはカサルの「知略」とは別のベクトルにある、君主としての「資質」だった。


「カサルちゃん、そろそろ見えてくるよ」


マリエの声に、カサルは包帯の巻かれた手を強く握り締めた。


眼下には、茶色く乾いたヴェズィラーザムの丘陵(きゅうりょう)。そして、救済を待つ飢えた弟の姿があるはずだ。


「一ヵ月ぶりの再会だ。出会いがしらに一体どんな恨み節を言われることやら」


「うーん、泣きながら殴られちゃったりして?」


「それぐらいは覚悟しておくべきだろうな。……さて、降下準備だ」


船倉には、東方から運んできた米と魚が、魔法の保存陣によって眠っている。


カサルはベッドの脇に置かれた一冊の奇天烈な書物――『握ニギリの深淵』を手に取った。


(生魚を米に乗せる。……効率的で、火も使わず、最短で幸福を届ける。中々に興味深い解決策だ)




ヴェズィラーザム領、城下町。


そこには、一ヵ月の兵糧攻めに耐え抜き、精神が「解脱」の域に達した人々が彷徨っていた。


「……見ろよ。あの雲、だんだん『巨大なケーキ』に見えてきたぞ」


一人の領民が、虚ろな目で空を指差した。


「お前はまだ甘いな。俺には、あそこに浮いてる航空船が『超巨大なソーセージ』に見える……」


隣の男が応じる。その最前線では、赤いマントをボロボロにしたザラが、木の根を握り締めたまま空を仰いでいた。


「あはは……兄さん……。ソーセージの船に乗って、僕を迎えに来てくれたんだね……。……って、んん? あれ、幻覚じゃなくないか!?」


『――よぉ、帰ってきたぞお前たち! 食事が欲しければ広場に集まれ!』


カサルの声が、風の魔法に乗って領内に響き渡った。


「本物じゃねえかァァァ!!!」


ザラの絶叫が響くのと同時、旗艦『愚者』の船底から、数十個の「青い箱」が切り離された。


ドォォォォォンッ!! ドォォォォォンッ!!


城下町とペント。被災した二つの拠点の中心地に、巨大なコンテナが重厚な土煙を上げて着地する。


「総員、展開ッ!!」


カサルの鋭い号令が下される。


周囲の護衛艦から飛び出したのは――最新鋭の『風の靴』を履いた、元空賊たちだ。かつては略奪の限りを尽くした彼らが、今は食料の袋を抱え、救済の天使として舞い降りる。


「「「ギルド・マリエ、配達部門、降下ッ!!」」」


彼らはコンテナから溢れ出す炊きたての米の香りを背負って空を蹴った。『風の靴』が形成する気流の足場を使い、垂直な壁や空中を縦横無尽に駆け抜ける。


「なっ……アイツら全員魔法使いか!?」


「空を走っているぞ!」


驚愕する領民たちに、元空賊たちは「ほら、食え!」と邪悪な笑みを浮かべながら弁当を押し付けていく。一方、広場に設置された「特設調理台」では、マリエが黒い悪魔の翼を羽ばたかせていた。


「……マリエ、準備はいいな? 秘伝書の解読は完璧だ」


カサルが扇子で指示を出す。


「うん、任せて」


マリエは、禁断の書『握りの深淵』を脳内に展開した。


「いいか、寿司とは物流と鮮度の格闘技だ。米を研ぎ、酢を合わせ、ネタを乗せる。精密技術の猛襲だ……マリエ、ゴエティア悪魔の契約を発動せよ!!」


「了解! 第四十二柱――『人魚の悪魔ヴェパール』! 私の『お腹が空いた記憶』を代償に、全てのシャリを制圧せよ!!」


瞬間、マリエの手が残像になった。


シュバババババババッ!!


東方の米が舞い、新鮮な魚の切り身が宙を飛ぶ。マリエの指先が触れるたび、一寸の狂いもない「黄金比の寿司」が次々と生成され、パレットの上に軍隊のような整列を見せていく。


「マリエが分身して見えますね!!」


「ちゃんと人外じゃん」


目を輝かせるリヒャルトラインと、呆気に取られるゾーイが、出来上がった寿司を次々と少女たちに渡していく。


「ザラ。ぼーっとしていないで食え。お前は誰よりも食うのが好きだろう」


カサルが呆れ顔で弟の背中を突いた。ザラは震える手で、差し出された『大トロ』を口に運ぶ。


「これが……生魚? パンでも木の根でもない……宝石みたいだ。……パクッ」


刹那の静寂。

ザラの瞳孔が、かつてないほど大きく開いた。


「…………う、う、う、旨ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいいいッ!!!」


ザラの後頭部から、歓喜の魔力が突き抜けた。

飢えきった体に、東方のエネルギーがダイレクトに吸収されていく。


「何だこれは!なんなんだこれはァー!! 噛まなくても溶けるぞ! ハーブの飴湯なんかより、一億倍パワーが湧いてくるぅぅぅ!!」


その叫びを皮切りに、広場はカオスな祝祭会場へと変わった。

空からは弁当が降り、地上では魔女が寿司を握り続ける。


「……ククク。見ろヘルメス。これが『未来の天才美少年貴族(オレ)の炊き出し』よ。物流が極まれば、世界はいつでも、握りたての寿司を食えるようになる」


カサルが椅子の肘置きで包帯の腕を休めながら、満足げに告げる。


「旦那……もっと汁物とか、腹に溜まるものの方が効率的では?」


ヘルメスが苦笑いしながら尋ねる。


「馬鹿を言え。こういう時は、まず『脳』を麻痺させるのが先だ。派手な出し物で心を満たしている間に、ほら、あっちのテントを見てみろ。中長期的な栄養補給のための『米の粥』がもう湯気を立てている」


「なるほど……腹より先に、心と脳を掌握するわけですか。相変わらずおっかねぇお人だ」



カサルは優雅に紅茶を啜る。

足元には、カサルちゃん人形を抱きしめたまま満足げに寝落ちする子供たちの姿。


ヴェズィラーザム領の「長い冬」は、狂騒の寿司パーティーによって幕を閉じた。


しかし――報告から戻ってきたヘルメスの表情は、ひどく暗かった。


「そう言えばヘルメス、途中から姿が見えなかったが。メディシスもしばらく見ていないな……」


「……そのことですが、旦那。……メディシスのヤツ、裏切りやがった」


ヘルメスが声を低めて告げる。


「ほう、そうか」


カサルは平然と答えた。


「……お困りにならないんですか?」


「困るぞ。これからゴルディオンを叩き潰すという時に、最強の『矛』が消えたのだからな。一応、理由を聞いておこう」


「へい。ゴルディオンから『王都の新聞社と放送局の独占権』を餌に釣られたようで……」


「なるほど……そこまでして我オレたちを潰したいか。それじゃあ今、シラクーザの情勢は……」


「ええ、かなりヴォルグ公爵派に傾いています。街中では常にレビス派への誹謗中傷が流れている。このままでは、次の国王はヴォルグ公爵になるでしょう」


「はぁ……次から次へと。……消すか、アイツ」


カサルの瞳から、一瞬だけ感情が消えた。


隠しているとはいえ、彼の肉体はすでに限界に近い。このまま順調に進めば養生できるかと思っていたが、味方の裏切りとなれば、慈悲をかけている余裕はなくなる。


「だ、旦那! それだけはご勘弁を。ここは、あっしに任せてくだせぇ」


ヘルメスが必死に食い下がる。


「お前とも敵対しているのだろう? 今なら『偶然の事故』で全てを終わらせられるが」


カサルがそう言うと、背後に控えていた元空賊たちと、手を止めたマリエが、静かにヘルメスを見据えた。言葉はない。だが、その視線は死神の鎌のように冷たかった。


「いえ、メディシスも大切な仲間です。たとえ一度裏切ろうとも、必ずこちらへ引き戻して見せやす。あっしを……信じてくだせぇ」


カサルはしばらく沈黙し、やがてヒラヒラと手を振って、マリエたちに作業を続けるよう合図した。凍りついていた時間が、再び動き出す。


「……そこまで言うなら、猶予をやろう。だがヘルメス、失敗した時はメディシスの命で(あがな)ってもらう。それでいいな?」


「へ、へい! 失礼しやす!」


ヘルメスが慌てて姿を消した後。


カサルは一瞥もせず、ただ領民に食料が行き渡る様を、静かに椅子の上から眺め続けていた。



作者のご褒美回終了です。

次回から裏切りの発覚したメディシスとヘルメスの商談です。

シリアスに見せかけた……ギャグ回の予定です。


それと次回の投稿は普段は夜0時のところ、お昼の12時に投稿してみようと思っています。

よろしくお願いいたします(*´▽`*)



リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ