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ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第三章:ヴェズィラーザム領復興/天空物流革命編

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おバカ貴族と物流を喰らう鉄の箱

 「オーライー! オーライー!」


 活気あふれる鉱山都市エルドラゴの工場区画。そこは今、蒸気と魔導の輝きが交錯する、未知の戦場へと変貌していた。


 コンテナに続々とヘルメス商店の品物が運ばれていく。それを可能にしたのは、カサルのもう一つの発明、『定型木製運搬台(パレット)』だった。


 商品はあらかじめこの木の板に積み上げられ、パズルの一片として規格化されている。それを多脚戦車『全自動建築人形(オート・ビルダー)』が次々と掴み、コンテナの中へと放り込んでいくのだ。


 ただ、このオート・ビルダーは本来建築用のため、重いコンテナを抱えての段差にはめっぽう弱かった。


「あわわわ! また蜘蛛がコケたぞ!」


「起こせ起こせ! ったく、この蜘蛛公は甘えん坊だな!」


 坂道でひっくり返り、足をバタつかせる無骨な鉄の塊を、ヘルメス商店の店員たちが苦笑しながら棒で突っついて起こす。そんな光景を見ながら、一人の店員が不安げにカサルへ問いかけた。


「……若旦那。随分と仕事が楽になりましたが、本当に俺たちの給料、このままなんですか? そのうち、この機械に仕事を全部取られちまうんじゃないかって、みんな怖がってまして……」


「……フン、機械に給料は払えんだろう?」


 カサルは鼻で笑い、彼らの不安に答える。


「機械は命令に従うが、状況の変化には対応できん。コケた機械を起こし、積荷の異常に気づく……その『予期せぬノイズ』を処理するのは人間の仕事だ。機械も魔道具も万能ではない。我々が求めているのは、お前たちの筋肉ではなく、その『眼』と『判断力』だ」


 意味深なことを言うカサルに、店員たちは「へー、さすがカサル様だ」と少し賢くなったような気分で作業に戻る。


 一方でそれを見ていた番頭のヘルメスは、(いずれは店員も解雇して、機械だけの完全自動店舗を作れば、不労所得で蔵が建つな……)と、カサルとは別軸の、しかし同じくらい邪悪で商魂逞しい思惑をこっそり胸に秘めていた。


 そして不安を抱える人間がここにも一人。

 後ろから彼の頭を撫でる少女が、下で撫でられている少年に声をかける。


「カサルちゃん、レテシアさんとは連絡とってる?」


 今回の航海で操舵を握るマリエが、不安げに進捗を尋ねた。

 初めての海外。未知の航路。そしてヴェズィラーザム領の民、数万人の命を背負ったこの「青い箱」の重量感。その重圧は、百戦錬磨の彼女にとっても小さくはなかった。


「今朝、手紙で交渉済みだと返信があった。食料も十分な量を確保できている。……どうした、不安か?」


「むぅーん……。今回の旅は色々初めてのことも多いし、みんなの命がかかってるからねぇ。なるべく安全に運航するつもりだけど、空も場所によって顔を変えるからさ」


「負担をかけてすまない。だが、今回の旅は提督たるマリエにしか頼めんのだ。船の上で必要なものがあったら言え。……なに、何かあっても一蓮托生だ」


 カサルの言葉に、マリエは「カサルちゃんがいたらそれでいいよ」と、悪魔の角を少し揺らして微笑む。カサルは(運命共同体……いや、逃げ場がないということか……?)と一瞬身の危険を警戒したが、立案者として同行するのは筋だと思い直し、指揮官用の椅子に深く腰掛けた。


「……若旦那。終わっちまいました」


 ふいに、ヘルメス商店の現場リーダーが、幽霊でも見たかのような渋い顔でやってきた。


「どうした? 浮かない顔だが。重量オーバーで床でも抜けたか?」


「いえ……三十分で終わってしまったんです。……積み込みが」


 カサルは懐中時計をパチンと閉じ、さも当然のように頷く。


「だろうな。そうなるように設計した」


()()ですよ!? 普通なら、荷物の形がバラバラで、重心を合わせるのに人夫を百人集めても丸三日は格闘するんです! 袋が破れねぇか、樽が転がらねぇか、ロープを何重にも巻いて……。なのに、この『箱』はなんだ。ただ置くだけで、寸分の隙間もなく噛み合いやがる。船倉の中、隙間が一つもねぇんです! これまでの三倍の荷物が、たった三十分で……。正直、便利すぎて怖いです」


 リーダーは、恐ろしい現実を話しガタガタと震えていた。

これまでの人生をかけて磨いてきた「荷積みのコツ」という職人技が、たった一つの「鉄の箱」によって無意味な遺物へと書き換えられた恐怖。


 カサルはその反応を見て、ふと学園時代のことを思い出していた。

 かつて、あまりの周囲の愚鈍さに耐えかね、一時仲良くなった友人に告げたことがあった。


(オレ)はな、隠していたが、実は天才のままなんだ』


 だが、その全員が、子供をあやすような目で鼻で笑ったのだ。


『うんうん、そうだねカサル君。君は世界一の天才だよ。……ほら、美味しいクッキーを焼いてきたから。食べて機嫌を直して?』

 

 差し出された大量のクッキーを、屈辱と共に咀嚼しながら、カサルは「時期が悪かったのだ」と悟っていた。そして今、結果として目の前に聳え立つ機械こそカサルの天才の証明だった。


 真に良い剣は、斬った時にその威力がわかる。

 この『コンテナ』も同じだ。

 図面の段階で凄さを理解されないのは、それだけ凡人たちの視界が「今」という呪縛に縛られている証拠でもある。


 彼らには未来を見通す目がない、そう信じて彼は行動をやめなかった。

 傍から見ればそれはただの鉄の箱に金貨を何千枚と懸ける狂気の沙汰だったが、カサルには確固たる謎の自信があった。


「ヘルメス。お前も以前、これを『地味だ』と言っていたな?」


「へ、へい……面目ねぇ。あっしはつい先日まで、本当は若干分かったフリをしていやした……。まさか、積み込まれた後の船の『密度』が、あんなに美しくなるとは思ってもみやせんでした」


「いいだろう。ここからさらに物流が加速していく。目を剥いて見ていろ」


 カサルが合図を送ると、旗艦『愚者(ザ・フール)』の煙突から、青白いエーテル蒸気が激しく噴き上がった。最新鋭の魔導タービンが、大地を揺らす重低音の咆哮を上げ始める。


「全艦、離陸! 目標、東方大陸!」


 ドォォォォォォンッ!!

 

 物理法則を嘲笑うかのような爆発的な加速。エルドラゴの工場区画が瞬く間に豆粒のように遠ざかり、船団は一気に雲海の上へと突き抜けた。


「提督! 前方にゴルディオン直属の『空域監視船』を確認! 積載量を見て異常な重量だと判断したのか、『過積載の疑いあり、直ちに停船し検問を受けよ』と信号を送ってきています!」


 伝声管から部下の焦った声が響く。

 地上の街道を封鎖したゴルディオンは、空にも執拗な網を張っていた。

 マリエは魔法を使用する形態に変わり、巻角と翼が生える。

 そしていつでも撃沈可能と言った風にカサルを見た。


「停船要請か。……無視しろ」


 カサルは優雅に脚を組み、紅色の枢機卿の指輪を陽光に反射させた。


「撃ち落されるかもよ」


 マリエがいつにもなく弱音を吐く。

 

「空で風の魔法使いに敵うとでも?」


 傷はまだ完全には修復していない。

 しかしこと、空の上では負ける気がしなかった。

 水中で人が魚に勝てないように、空はカサルのテリトリーだった。


「アハッ、了解! 全速前進、突っ切っちゃうぞー!!」


 マリエがレバーを限界まで押し込む。

 魔導タービンが青白い火炎を吐き出し、船体全体が歓喜に震えた。

 立ちふさがろうとした監視船の横を、音速に近い衝撃波と共に通り抜ける。

 監視船の船員たちが、あまりの風圧に甲板で転倒し、自分たちが何を見たのか理解するよりも速く───


「……な、なんだ。今の銀色の光は。船なのか……!? あれだけの積荷を積んで、なぜあの速度が出る……!?」


 監視船の隊長が呆然と呟いた時、そこにはもう、船の形はどこにも残っていなかった。


(オレ)と戦いたいなら地上に引きずり降ろすことだな。ハッハッハッハッハッ」


 カサルの傲慢な宣言が船内に響く。

 船団は、一万キロの彼方にある東方大陸を目指し、空の深淵へと消えていった。

 青空に一筋の白線を残して。 




リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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