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ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第三章:ヴェズィラーザム領復興/天空物流革命編

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おバカ貴族と鉄の産声

【1日目~3日目:エルドラゴ・鍛冶師ギルド跡地】


 ガギィィィンッ!!

 ドゴォォォォォン!!


 相変わらずうるさい鉱山都市エルドラゴの工場区画。

 そこは、蒸気と轟音、そして職人たちの怒号が渦巻く戦場と化していた。


「あーもう! うるさいなぁ! 何やってるのカサルちゃん!」


 耳を塞ぎながら工場に入ってきたのは、マリエだ。

 彼女の目の前には巨大な鉄の骨組みと、複雑なパイプが張り巡らされた「怪物のような機械」が鎮座している。


 そしてその足元には、無残にひしゃげた鉄くずの山。


「……マリエか。見ての通り、産みの苦しみというやつだ。眠れないようなら領地に帰っても良いんだぞ。睡眠不足になって体調を崩すようなことがあれば、(オレ)も寝覚めが悪いからな」


 カサルは設計図を片手に、煤けた顔で振り返りそう言う。


「あはっ、一旦鏡見ようか」


 マリエは手鏡を突きつけ、充血した瞳のカサルを映してみせた。


「それにそれなぁに?それも失敗?」


 マリエがひしゃげた鉄板を指差す。


「ああ。理論は完璧だが、物理的な調整が追いつかんのだ。いいかマリエ、よく見ろ。ここが第一の難所だ」


 カサルは、彼女が興味を持ってくれたのかと、ラインの上を流れてくる巨大な鋼鉄のフレームを指差し説明し始めた。


「まずは『骨組み』の接合だ。本来ならリベットを打つか、長時間加熱して溶接する。だが、それでは量産に時間がかかりすぎる」


 キラキラとした表情で話すカサルに、マリエは心の中で(しまった)と思いながら「ふむふむ」と頷いてあげる。この手の話題は聴いているだけで、あの巨大な航空船の給油が終わってしまうほどに長い。


 それに欠伸をすれば、カサルは「(オレ)の話を聴きながら欠伸とは何事だ」と、憤慨するため取り扱いに注意が必要だった。


「へぇ~。すごぉ~い」


「だから我々は、接合面に『赤熱の触媒』を塗り、プレス機の圧力で一瞬にして化学反応を起こして溶着させる。……だが、これが難しい」


 だからこそやりがいがある、という表情で鉄板と睨めっこするカサル。

 マリエは中身についてはさっぱり分からないが、化粧を落としたあどけない少年の顔が見られるのは作業中の今だけだ。

 なのでマリエもこの時間は嫌いではなかった。


「そうなんだ~」


 マリエの相槌に気分をよくしながら、カサルは更に微調整をするように合図を送ると、タドラバが再びレバーを引いた。

 プレス機が降下する。

 バチチチッ! と火花が散った。


「圧力が弱ければくっつかない。強すぎれば、さっきのゴミ山のようにフレームごと溶けてひしゃげる。コンマ数ミリのプレス制御と、瞬時の冷却……そのバランスが、ようやく見えてきたところだ」


 シューッ……。


 白い蒸気が晴れると、そこには継ぎ目のない、一本の鋼鉄の枠が出来上がっていた。


「おぉっ! 繋がったぞ!」


 歓声が周囲で沸くのを見て、マリエも何となくそれに合わせて「いぇーい」と乗ってみる。

 実際にはスカスカのフレームが出来ただけで、目的の箱は完成していない。喜ぶのはまだ時期尚早な気がしていたが、カサルは止まらない。


「まだだ。次は『壁』だ。ここが一番の繊細さを要求される」


 流れていくフレームに、多腕のアームが側面パネルを運んでくる。ガシャン! とパネルが嵌め込まれるが、まだ固定されていない。


「この隙間を埋めるのは、ただの接着剤じゃない。『氷の触媒』を練り込んだ特殊パテだ。これが固まると同時に、箱全体を冷やす断熱材になる。……だが、触媒の配合を間違えると、箱が凍り付いて割れる」


 カサルは職人に指示を飛ばし、操作盤へ走らせ、ダイヤルを回して空気圧を微調整させる。職人の指先一つで、巨大な機械のアームがミリ単位で動く。


「注入開始! 圧力、一定に保て!」


 プシューッ!


 パテが隙間に充填され、青白い光が走る。魔法的な密封が行われたのだ。

 コレでたとえ海に落ちたとしても、隙間から水が入ることはない。


「す、すごい……完璧だ。魔導具と機械が、同時に動いているぞ……」


「コレ俺達が作ったってマジか……凄すぎるだろ」


 相性が悪いと言われてきた巨大機械(ビッグマシーン)と魔導具の融合に、職人たちは感涙する。

 トントン拍子に進んでいるとはいえ、今まで一人で鍛冶をしていた職人たちにとって、連携して一つの作品を作り上げるというのはまた違った面白味があることを知った。


 そして最後、カサルがニヤリと笑ってスプレーガンを構えた。


「仕上げだ。おい、これが終わったら関わった全員の名前を彫るから集まってくれ」


 シュゥゥゥーッ!!

 カサルの風魔法が塗料を霧に変え、箱全体を包み込む。

 一瞬の早業。

 風が止むとそこには──。


 『ユニバーサル・コンテナ No.001』


 鮮やかな青色に染まり、ロゴが焼き付けられた、巨大な鉄の箱が完成していた。


「……できた」

 

 タドラバが、震える手で一番初めに名前をコンテナの底面に彫っていく。高い金属を削る音が工場に小さく、しかしハッキリと響く。

 

 続いて他のエルドラゴの職人から、触媒や設計に携わった死装束機関(シュラウド)の技術者たち、その次にはメディシス傘下の錬金術師ギルドが、それぞれ自分たちの作品に名前を残していく。

 

 そして最後にカサルが名前を彫ると、チーム・エルドラゴと死装束機関(シュラウド)、そしてカサル──合計51名の協力によって『自動製函魔導機 Ver.1.0.0』は完成した。


「完成だ、マリエ。これが、世界中の荷物を飲み込む『コンテナ』だ」


 全員が鼻高々にこの箱の完成を喜んでいるが、実際に使われているシーンを見なければ、マリエは一体何が凄いのかよく分からなかった。

 とりあえず胴上げの対象となったカサルを見ながら、マリエは喜ぶおじさん達の横顔を見ながら適当に手を叩いて盛り上げる。


「わーっしょい!わーっしょい!」


「ちょ、お前たち、やめないか。照れるではないか。ハッハッハッハッハッ」

 

今のところ、おじさん達が少年を囲んで胴上げをしているという、ただの珍事でしかないが、全員楽しそうなのでマリエもそれとなく参加して、その熱気を楽しんだ。


今日で物流の歴史は一歩前進した。

全員がその面持ちで、嬉しさを噛み締めながら次のコンテナ作成に移る。

嬉しいが祝杯など挙げている場合ではない。なぜなら作るコンテナは一つではないからだ。


お祝いも早々に、職人たちは早速二つ目のコンテナがしっかりと自動で作られるか見守った。

ココからは厳しいテストを乗り越え遂に、保守、運用に至る。


メンテナンスの仕方などを細かく弟子に伝えながら、カサルは自動で作られていくコンテナに胸を躍らせた。


「コレでやっと次の段階に入れる……レテシア嬢は大丈夫だろうか」


カサルの不安はレテシア嬢に向いていたが、彼女は全く問題なく自分の領地に戻り話をつけてくれていた。問題はそちらではなく、彼の弟の方だった。



【3日目:ヴェズィラーザム領・対策本部】




 一方、領地は「静かなる地獄」の入り口に立っていた。


「……報告します。本日到着予定だった小麦の馬車、来ません」


「南の村から買い付けた野菜も、途中で『ゴルディオンの私兵』に止められました……」


 タヌキが涙目で報告書を読み上げる。領主代行ザラは、頭を抱えて呻いた。


「……完全に、締め上げられたか」


 ゴルディオン商会の包囲網は、想像以上に鉄壁だった。正規ルートはおろか、裏ルートの商人さえも、報復を恐れてこの領地に近づこうとしない。金庫には、カサルが残した「身売りの金貨」が山ほどある。だが、金貨は食えない。


「代行……。城下とペントの住人全員を食べさせるとなったら、食料庫の備蓄はあと一週間分しかありません。このままだと、二週間後には……餓死者が出ます」


「……分かった」


 ザラは顔を上げた。その目は充血し、目の下のクマはさらに濃くなっていたが、光だけは失われていない。彼は赤いマントを翻し、悲壮な覚悟で宣言した。


「本日より『超・非常時特別配給令』を敷く! 一日三食を廃止! 全員、一日二食……いや、一食とする!」


「い、一食!? 死んじゃいますよぉ!」


 領民が空腹を訴える中、ザラはそれを一喝する。


「死なせるものか! 俺を見ろ!」


 ザラは手元のカップを掲げた。中に入っているのは、毒々しい緑色をした液体。湯気が立っているが、どう見てもスープではない。


「これって……?」


 秘書の仕事を押し付けられていたゾーイが不思議そうに訊く。食事が十分ではないのか、彼女の声もいつもより小さい。そんな彼女を元気づけようと、ザラの声は大きくなる。


「『特製・高濃度シュガー・スープ』だ!」


 ザラは胸と声を張った。それは、お湯にのど飴を限界まで溶かし込んだ、カロリーと清涼感だけの液体だった。


「固形物がないなら、甘さで脳を騙せ! ハーブの刺激で空腹を忘れろ! 俺は今日から、このスープだけで過ごす! 領主が固形物を断つのだ、文句は言わせん!!」


 ザラは震える手でカップを煽る。甘さと辛さが胃袋を直撃し、脳が強制的に覚醒する。


「ぐっ……! う、美味い!! 」


「ザラ卿……それは……無茶です!」


 残されたタヌキがザラに諫言を申し上げる。


「嘘をつくな!!!」


 そう言ってザラはフラリと体を椅子に落とす。立ち上がった瞬間の貧血で、立っていられなくなったのだった。


「このままでは代行が一番初めに餓死してしまうぞ! みんな‼ 何か食料になりそうな物を探せ!! 」


 タヌキやザラの使用人たちが、諦念とドン引きの涙を流しながら、食料を探しに奔走する。

 そしてこの日から、ヴェズィラーザム領の主食は「飴湯」になった。


 領民たちは皆、顔色は青白いのに、目はハーブのおかげでギンギンに輝いているという、異様な集団へと変貌していく。


(……兄さん。あんたは今頃、何を食ってるんだ……?)


 空腹でキリキリと痛む腹を抱え、ザラは空を見上げた。


リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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