おバカ貴族とカサルの弟
今にも殴りかかろうとするザラを、母ジュディスが扇を閉じて静止させた。
「カサルちゃんはとっても良い子よ。でもねアナタ、あの子が領主だとちょっと心配でしょう?」
腕を組み、頬に手を当てて困った顔の妻に、イサムは「うぅむ……」と唸る。
ザラは成績優秀で、剣でも幾つかの賞を持つ。
異端核には終ぞ選ばれなかったが、努力で補おうとするハングリーさも持ち合わせていた。彼がカサルの弟でなければ、イサムも迷わず次の領主にしていただろう。
しかし運命は非情だった。
「茶会事件で頭を打った兄上は変わったんです!以前は神童だったかも知れない。でも今はチビで女装趣味の変態馬鹿野郎です!」
嗚咽混じりに吐かれた兄への侮辱に、両親は耳を疑った。そしてその怒りこそが、彼の苦しみから漏れ出た慟哭なのだと分かると、二人とも掛ける言葉が見つからず、沈黙してしまう。
だが時として、イサムは父としてではなく一貴族として息子に伝えなければならぬことがあった。それは貴族の世襲は何も家族間の合意だけではないということ。
同胞に気に入られているかどうかと言うのも、非常に重要な事柄だった。
「……口を慎め。今はあんなでもお前の兄だ。落馬してからあの子の知能は確かに人並み以下になった。たまに奇行にも走る……だが、公爵様や教会からの評判はいい」
ソレに反発するようにザラが畳み掛ける。
「では領民に問いただしてください!一体どちらが領主であるべきかを!」
書斎の空気が張り詰める中、執事バドがわざとらしく咳払いをした。何か解決の糸口でもあるのかと、助け船をバドに求めたが、
「どうしたバドよ。何か言いたいことがあるのか?」
バドが恐縮しつつ自らの主人のために答える。
「ええ、その……領民からはカサル様は『バカサル』という蔑称で呼ばれているようですが……」
「ほら見た事か!」
ザラが歓声を上げる。しかしそれは一瞬のことだった。
「しかし、大衆からの評判は常に素晴らしいのです。つい先日も街の子供達と鬼ごっこをして遊んでいるのを目撃した者が何人もいます」
「はぁ?なんでだよ!?」
兄より自分が劣っているなどとは露ほどにも思っていないザラにとって、兄の領内の評判が高いことは許しがたいことだった。
「おかしいだろう……馬鹿にされているのに、十八にもなって鬼ごっこをしているようなヤツだぞ?」
「ええ。その……評価が地に落ちているからこそ、それをさらに下げることができないと言いますか、誕生日プレゼントに領民全員のうんちを欲しがる方ですので……」
ザラは執事の言葉に絶望した。
確かに誕生日プレゼントにうんちをプレゼントされて喜ぶのは、世界を探しても兄以外にいない。
自分の兄貴は正真正銘のキ○ガイだ。そんなものと血縁であると思っただけで、ザラは卒倒しそうになった。
「そんな汚名にまみれた領主が古今東西どこにいるというんです!? 誰も未来が不安になりはしないのですか!ただでさえ、うちの領地の評判は最も低い星ナシなんですよ!? 」
ザラの言葉は一言一句正論だ。イサムも「その通りだ」と頷くことしか出来ない。しかし、公爵様や教会の言葉はそれよりもはるかに重かった。
公爵様はカサルのことを「カサルちゃんはねぇ、いいねぇ。かなりイイと思うよ。可愛いし」と高く評価していた。
──その反面、ザラに関しては「誰?カサルちゃんの弟?……あぁ、うん。真面目で良い子だよね。でもさ、普通の人じゃない?」としか言われなかったことが、イサムの中で軽いトラウマになっていたのである。
そしてカサルが領主になることを望む派閥には、異端核を信仰対象とする教会の圧力もあった。
教会は貴族全てが異端核を保有することを望んでいる。そしてカサルは5歳という若さで見事に異端核に選ばれた。全てが順調に進んでいた───はずだったのである。
全ての始まりは、異端核に選ばれたあの日に遡る。
あかん、このままじゃヒューマンドラマになる。
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