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ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第三章:ヴェズィラーザム領復興/天空物流革命編

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おバカ貴族と平和の値段

 シソーラ侯爵邸、執務室。

 部屋の空気は、インクの匂いと、鉄錆のような血生臭い熱気で満ちていた。


「次だ! 第四騎士団への納品を急がせろ! 輸送隊が足りないなら私の私兵を使え!」


「はっ!」


 次々と飛び込んでくる伝令兵に、矢継ぎ早に指示を飛ばすエディス。

 彼女の机には大陸地図と契約書の山、そして大砲の模型が鎮座していた。

 彼女にとって、今の混乱は千載一遇の「書き入れ時」だ。

 わざわざ特定の派閥に肩入れして、全方位に武器を売るビジネスチャンスを失う義理はない。


「……帰れパピー。見ての通り私は今忙しい」


 エディスは地図に赤いバツ印を書き込みながら、来訪したカサルを一瞥もしなかった。

 だが、カサルは優雅にふわりとソファに座り、勝手に給仕に淹れさせた紅茶を啜る。

 そして「丁寧にありがとう」と給仕に微笑みかけ、ソーサーを音もなく机に置いた。

 

 彼も好きでこんな場所に来たのではない。

 挨拶もそこそこに、早速彼女を「煽る」ことから始めた。


「戦争特需か。……相変わらず、視座が低いなエディス」


「なんだと?」


 エディスのペンが止まる。眉がピクリと跳ね上がった。


「武器は売って終わりだ。消費財に過ぎん。

 だが、(オレ)が提案しているのは『基盤(インフラ)』の支配だ。

 ……お前も、エルドラゴがこのまま未来永劫栄えるとは考えていないだろう?」


 その言葉に、エディスの瞳が鋭く細められた。

 それは彼女が密かに抱えていた、最大の懸念事項だったからだ。

 資源はいずれ尽きる。鉄がなくなれば、鍛冶の街は死ぬ。

 それは紛れもない、いつか来る現実だ。

 

「……ほう。面白いことを言う。私がいる限りエルドラゴは永久不滅だぞ?」


「そうかそうか。……まあ、これを見ろ」


 カサルは懐から、一枚の図面をテーブルに滑らせた。

 それは、武装商船団とコンテナによる「世界物流網」、そしてエルドラゴに建設される「巨大空港」の青写真。

 滅びゆくエルドラゴにじわじわと効く、特効薬だった。


「見ろ。我々はこれから、空を使って世界中の物を運ぶ。

 エルドラゴの鉄も、シラクーザの真珠も、東方の香辛料も……全て我々の『箱』で運ばれる。

 お前にして欲しいのは、その拠点。商港の建設だ」

 

 貴族が観光にやってくるための空港なら既にある。

 カサルが頼んでいるのは、荷物だけを迅速に運ぶために作られた、商人のための巨大ハブ空港だった。


「商港……」


「そうだ。エルドラゴを単なる『生産地』から、世界中の富が集まる『中継地(ハブ)』へと進化させる。そうすれば鉱石が尽きてもこの街は死なん。永遠に富を生み続ける心臓になるだろう」


 エディスが図面を手に取る。

 彼女の数学的頭脳が、瞬時にその利益率と、街の未来図を弾き出した。

 武器を売るだけの「点」の利益ではない。未来永劫続く「面」の支配。


「……ククッ、ハッハッハッハッ!」


 エディスの肩が震える。

 彼女の顔に、獰猛な肉食獣の笑みが浮かんだ。


「なるほど、お前も随分と私の股を開かせるのが巧くなったものだ……いいだろう。

 ───だが、それだけでは足らん。

 私の腹を満たすのであれば、もう二、三匹、生贄を寄越せ」


 そうでなければ戦争を始める、とエディスは物騒なことを平気で口にする。

 彼女にとって戦争とは、大好きな正義と正義のぶつかり合いであり、金も落ちる、お茶会よりも楽しい最高のエンターテインメントなのだろう。

 それを邪魔するのだから、相応の対価を払えというのが彼女の主張だった。


「生贄?」


 彼女は地図上の「ヴォルグ公爵領」と「ゴルディオン商会」の位置に、ナイフを深々と突き立てた。


「レビスを王にしてやる。その代わり……この豚どもの利権は、()()私が頂くぞ。

 せっかくの大好きな戦争を邪魔されたんだ。骨の髄までしゃぶらねば割に合わん」


 獰猛な禿鷹が、ついにその本性()を現す。

 彼女はこの展開を、カサルが来る前から天秤にかけていたのだ。


 ヴォルグ公爵か、カサルか。

 より多くの「取り分」を差し出した方に付く。

 今回は単に、カサルの方が良い条件を提示できた。

 ただそれだけのことに過ぎなかったのだ。


「……お前はいつか神に裁かれろ。だが、交渉成立だ」


 カサルの細くスベスベとした手に、巨大なエディスの右腕が包み込むように合わさる。


「あの傀儡(レビス)が王になるのは私も望む所だ。いい取引が出来た」


 二人はガッチリと握手を交わす。

 最凶の同盟が結ばれた瞬間だった。


「さて、エディス。一つ聞きたい。

 我々はこれから海外と取引がしたいのだが……誰か、海外に太いパイプを持つ人間に心当たりはないか?」


「海外? ……ふむ」


 エディスは少し考え込み、意地悪く口角を上げた。


「何人かいるが、私にとっても彼らは重要な駒だからな。お前にはやらん」


「なっ……おい、一時的とはいえ(オレ)たちは仲間だぞ?」


「お前の物は私の物、私の物は私のものだ」


 エディスがざまあ見ろとカサルを嘲笑っていると、影に潜んでいた執事セバスチャンが、わざとらしく咳払いを一つした。


「ゴホン。……お嬢様。僭越ながら御一人……カサル様に丁度よい方がいらっしゃったような」


「む?」


「ほら、以前……カサル様の入れ知恵で、国を相手に大立ち回りを演じた、あの方が」


 セバスチャンの言葉に、エディスはしばらく思案し、ポンと手を打った。


「あぁ……フフッ、確かに。かつてお前の助言を聴き、王によって幽閉された───私の友が一人いたな」


「……ん?……あぁ、 レテシア嬢か」


「そうだ。彼女の生家は貿易商だ。海外の裏ルートにも精通している。

 私はこの通り清廉潔白な乙女なのでな、裏ルートなど触れられん。

 だがお前なら有効活用できるかもしれん」


 そう言ってエディスは、レテシア嬢が幽閉されている監獄の住所を手紙に書き記し、カサルに放り投げた。


「王が処刑された今、王命で捕まったレテシア嬢も、やりようによっては解放できるかもしれん。上手くやれ」


「またシラクーザにトンボ返りか……。まあいい、その嬢の救出に向かうとしよう」


 カサルは手紙を受け取り、ヒラヒラと手を振って部屋を出ていく。

 その背中を見送りながら、エディスは満足げに空港建設予定地(新しい地図)を広げた。


リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話でお会いしましょう。(´・ω・)ノシ

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