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ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第三章:ヴェズィラーザム領復興/天空物流革命編

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おバカ貴族と黒の馬車

復興が進むヴェズィラーザム領の街道を、一台の漆黒の馬車が走っていた。

 装飾過多で威圧的なその馬車は、舗装されたばかりの道路を、我が物顔で突き進む。

 その後ろには、全身鎧を身に纏った重装備の私兵団が続く。


 盗賊退治にしては、あまりに仰々しい一団だった。

 車内には、二人の男が座っていた。

 一人は、ガモン伯爵の腹心である執事、セドリック。

 もう一人は、白衣を着た猫背の男──マリエに潰された違法研究所の生き残りだ。


「……報告によれば、貴方の研究所も『何者か』によって壊滅させられたとか」


 セドリックが、ワインを揺らしながら尋ねる。

 白衣の男は、爪を噛みながら忌々しげに答えた。


「ああ。貴重なサンプルと実験データは全て持ち去られてしまった。

 おそらく、逃げ出した『028番』……マリエの手引きデス。

 ……忌々しい。折角魔女になる機会をやってやったというのに、飼い主に噛みつくとは。……あぁ、思い出すだけでも背中が痒くなる」


 男はガリガリと背中を掻きむしる。


「それに最近は、隠れ家が見つかるペースも早い。何か『裏』がついたと見るのが妥当でしょう。用心せねば、用心せねば……」


「ほう、内通者がいるのですか」


 ガモン卿に報告しておいた方がよろしいでしょうか、というセドリックの問いに、男は首を振る。

 事を荒立てる必要はない、という彼なりの保身だろう。

 自分達の後ろ盾であるガモン卿は、お忙しい身。下手に不祥事を持ち込めば、切り捨てられるのは自明の理だ。


「ええ、お気遣い痛み入ります。……ですが、ご心配なく。

 研究所など、いくらでも作れますので。このライトバーン博士にお任せを」


 ライトバーン博士は、窓の外──ヴェズィラーザム邸に向かう城下町で、復興作業に汗を流す領民たちを舐めるように見回した。


「……それに龍が動いたおかげで、我々は新たな『金脈』を見つけましたからな」


 その目は人間を見ている目ではない。

 「肉」と「素材」を品定めする目だ。


「ここには、健康で、若く、そして『戸籍の管理が杜撰な』田舎者が沢山います。実験材料には事欠かないでしょう」


「フフッ……違いない。それにここの領主代行は、まだ年端もいかない子供だそうです。

 借金の返済期限を盾に脅せば、物乞い程度、嬉々として差し出すでしょう」


 セドリックは懐から、一枚の羊皮紙を取り出した。

 それは、ザラがサインした借用書。

 だがその末尾には、恐ろしい「特約」が記されていた。


『返済が滞った場合、当家は領内のあらゆる資産(人的資源を含む)を差し押さえる権利を持つ』


「素晴らしい契約書だ。金が払えなければ、体で払ってもらいましょう。……さあ、収穫の時間です」


 セドリックの眼が冷たく光る。

 不吉な黒馬車が城下町を横切り、ザラのいる対策本部テントの前で車輪を止めた。

 扉が開く。

 そこから降り立ったのは、紳士の皮を被った、人買いの悪魔たちだった。



 ◇


「なっ、何だあの豪華な馬車は!? 誰の友達だ!」


 ペンキまみれの赤いマントを羽織ったザラは、馬車の前に立ちはだかり大声を上げた。

 その隣で、ゾーイがサッと姿を消す。

 このタイミングでやってくる馬車に、本能的に嫌な予感を感じ取ったのだ。


(どこの家紋だ……? どっかで見たことあるが、全く思い出せん……!)

 

 学園で懇意にしている友人の家紋ではない。

 だとしたら父上の知り合いか? だが、事前に手紙も寄越さずに来るような無礼者が知人にいるとは聞いていない。

 だとしたら……?

 

「……どっちでもいいが、そこは今ペンキを塗ったばかりだ! タイヤの跡をつけるな!」


「……おや。随分と威勢のいい『出迎え』ですね」


 セドリックはハンカチで鼻を覆い、汚いものを見る目でザラを見下ろした。


「ごきげんよう、ザラ・ヴェズィラーザム卿。

 本日は、ガモン伯爵の名代として……『お支払い』の件で参りました」


 突然現れた大人と、支払いという単語にザラはたじろぐ。払えと言われたら、無条件になぜかコチラが悪いような気持ちにさせられる。


「お支払い、ですか?」


 しかしザラは赤いマントの裾で手の汚れを拭うと、自信満々に答えた。

 懐には、先ほどヘルメスから受け取ったばかりの「復興支援金」がある。これだけあれば、食料の借金などお釣りがくるはずだ。


「ああ、分かっている。契約通り、耳を揃えて返すさ。……とは言っても、借りたのは『小麦』千袋分だろ?当時の相場で言えば金貨十枚程度。そんなところか」


 ザラはニカッと笑った。

 あの時、ガモン伯爵は言ったのだ。

 「君の領地が復興するまで、支払いは待ってあげよう。その代わり、返す時は現物ではなく『その時の時価相場』で換算した現金で頼むよ」と。


 ザラはその慈悲深さに涙してサインした。まさか、それが地獄への切符だとは知らずに。


「二十枚……ですか。フフッ、面白い冗談だ」


 セドリックは表情一つ変えず、懐から一枚の請求書を取り出した。


「卿は、今の『王都の小麦相場』をご存じないようですね」


「相場? 多少上がったところで、知れているだろう」


「いいえ。……現在、王都の小麦価格は、当時の五千倍に高騰しております」


「……は?」


 ザラがポカンと口を開ける。

 五千倍。意味が分からない。


「ご存じありませんか? 先の『龍災』、そして『国王処刑』による政治不安。

 さらに、大陸からの輸入ルートが『何者か』によって完全に遮断されたことで、現在シラクーザ王国は未曽有の食糧危機に瀕しているのです」


 セドリックは芝居がかった仕草で嘆いてみせる。

 もちろん、その「何者か」が彼らの派閥であることは言うまでもない。

 彼らは戦争の準備として、市場の食料を買い占め、意図的にインフレを引き起こしていたのだ。


「契約書には『返済日の王都最高値を基準とする』とあります。

 つまり……請求額は、金貨五万枚となります」


「ご、五万……ッ!?」


 ザラは負けじと大袈裟に膝から崩れ落ちた。

 ヘルメスから貰った一万枚ですら、見たこともない大金だった。

 その五倍。国家予算規模の金額だ。


 その悲哀、その絶望を全身で表すように、ズシャーと膝で泥濘の中を滑る。

 私は知らなかった、とても可哀想な貴族だと全身でアピールをするためだ。

 熱血に見えてザラは以外にずる賢い青年だった。


「そ、そんな……! 詐欺だ! あの時は一袋でパンが買える値段だったじゃないか!」


身振り手振りを全力でしながら、一生懸命にそんな額は払えないとザラは全身で伝える。

しかしそんな『演技』は取立人には通用しなかった。


「おやおや。契約は契約です。……さて、現金がないのであれば、契約書の『特約』を履行していただきましょうか」

 

 セドリックの後ろで、白衣の男──ライトバーン博士が舌なめずりをして前に出る。


「そうですねぇ。金がないなら……『労働力』で補填していただきましょう。

 金貨五万枚分……そうですね、若くて健康な領民全員を頂いても、まだ足りないくらいですがねェ……まぁ、初めは物乞い辺りから差し出して下されば結構ですよ。ケヒヒヒヒッ」


「む、無茶を言うなァ……!」


 ザラは歯ぎしりをする。

 騙された。完全に嵌められた。

 自分が「今、飢えている民」を救うために握った手は、最初からこの瞬間を待っていたのだ。


「ふざけるなァァァァッ!!

 誰が渡すか!領民は俺の家族だ! 家族を売る領主がどこにいる!」


「おやおや。契約は絶対ですよ?

 もし拒否するなら……伯爵家の私兵団が、差し押さえに動くことになりますが?」


 背後に控える重装歩兵たちが、ガチャリと剣の柄に手をかける。

 暴力と契約のダブルパンチ。ザラは泥だらけの拳を握りしめるが、どうすることもできない。


「……とはいえ、いきなり用意するのも難しいでしょう。三日、猶予を与えます。懇意にされている公爵にでも頼んでみたらどうです?」


 セドリックはそう冷たく言い放ち、馬車へと戻る。


「三日後の正午までに、金貨か、人間か。どちらかを用意しておきなさい。

 ……賢明な判断を期待していますよ、若き領主代行殿」


 黒い馬車は、土煙を上げて去っていった。

 残されたザラは、絶望に打ちひしがれ、その場に立ち尽くす。


「……くそっ、い、意味が分からん。どうすればいいんだ……」

 

 その時。


 テントの裏から、一人の少年が姿を現した。


「……おいザラ。今の奴らはなんだ」


「兄さん……!」


 もう一人の悪魔(カサル)だった。

 ゾーイと共に隠れていた彼は、去っていく馬車を氷のような目で見送っていた。

 この時期にやってくる使者にカサルは、悪い予感しかしない。


 その鋭い観察眼を相手に、ザラはこの領地が危機に陥っていることを何とか隠そうと企む。

 バレれば絶対に碌なことにならない。そう彼の直感が告げていたからだ。 

 

「い、いや、なんでもない! ちょっとした商談だ!

 兄さんは気にしなくていい! 復興の邪魔だからあっちに行ってろ!」


 そう言ってザラは慌てて隠そうとする。先ほどの演技力は一体どこへ消えたのか。

 しかしそこには自分の不甲斐なさもあったのだろう。


 (兄さんが体を張って稼いだ金すら足りないなんて、口が裂けても言えんぞ……!)


 だが、カサルは無言でザラの手からクシャクシャになった請求書を引ったくった。


「あっ、返せ!」


「……黙れ」


 カサルの声の低さに、ザラが息を呑む。

 カサルは請求書に目を通し、そのインフレを利用した搾取を一瞬で見抜いた。

 そして、署名欄にある名前──『ガモン伯爵』の文字を見た瞬間、その瞳に激しい怒りの炎を宿した。


「……ガモン、だと?」


「あ、ああ……。食料を支援してくれた貴族だ。少し条件が厳しいけど……」


「厳しいで済む話か(たわ)け。金の問題ではない。……問題なのは、この男が『誰』かということだ」


 ビリッ!!


 カサルは請求書を破り捨てた。


「ザラ。お前は知っているか? 先月、国王陛下が処刑されたことを」


「……は?な、何のこと?」


「知らぬようだな。まあ無理もない。その話も含め、少し話をするとしよう」


(一体何が起きているんだ……⁉)


 ザラが愕然とする中、カサルは表情を顔に出さない。

 しかしその胸中はマグマの如く煮えたぎっていた。

 弟の「民を救いたい」という純粋な善意が、国を揺るがす政治的な毒牙にかかっていたことへの怒り。


 何よりヴェズィラーザム家がレビス派と分かっていて近づいてきた狡猾さに、カサルは旧態依然とした悪い貴族を見た。


(……いい度胸だ。(オレ)の弟を騙し、我の領地を汚そうとはな)


 カサルは空を見上げ、冷酷な「死装束機関シュラウド」の長の顔で宣言した。


「ガモンの血族は貴族の恥だ。誅罰を下すほかあるまい」


天使のような悪魔の少年は、人形のように読めない表情でそう言った。


新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

今年の抱負は地道な継続です。

続かないまでが定番です。

できる限り、やって行こうと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。


リアクションされると喜びます。

それではまた、次のお話で。

(´・ω・)ノシ 

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