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ゴスロリ貧乏貴族は天才発明家(男の娘)!? ~働きたくないので魔道具を作ったら、いつの間にか国家経済を支配していました~  作者: 星島新吾
第三章:ヴェズィラーザム領復興/天空物流革命編

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おバカ貴族と判子

 

 仮設テントの中、領主代行の椅子に座らされたザラは、目の前に積み上げられた「羊皮紙の塔」と格闘していた。


「ほら、次。ここにも判子。あ、そこインク掠れてるよ。やり直し」


 その横で、ふかふかのソファ(カサルが持ち込んだ私物)に座り、脚を組んで紅茶を啜っているのはゾーイだ。


「えっと……一応二つ年下なんだが……敬いの念とかは……」


 破廉恥にもミニスカートを履いているゾーイの足に視線が吸い寄せられながら、ザラは試しに訊いてみる。しかしその視線に冷たい返事で、


「仕事に関係ある?」


とスパッと言ってしまうゾーイ。


「いや、ない!! 」


そう言ってザラは笑みを浮かべた。

彼女にしてみれば、普段からカサルの相手をしているため、貴族を相手に敬う時とそうでない時の切り替えは簡単だった。そんな彼女の術中に見事に嵌ったザラは、ゾーイを”面白い女”という評価を下して好意的に捉えていた。


そんなザラの視線に気づくように、ゾーイは足を組み直すと、挑発するように「早く仕事したら」と言い返す。


(やはり俺がおかしいのか……?いや、シティガールはそうなのかも)


田舎貴族のザラは首を捻りながらペンを走らせる。

二歳年下の可愛い後輩と言えば聞こえはいいが、実際には目ざとい小悪魔だった。

彼はもっと御淑やかな、それこそ兄の連れてきたマリエさんの方が好みだった。

その彼女が食事を作っている最中だというのだから、コレはもう頑張らないワケにはいかない。


「というか、なんだ、君は秘書のつもりなのかい……?なんでこんなところに……」


衛兵の脇が甘すぎるだろうと注意したくもなったが、ピンヒールを履いた十五歳の暗殺者というのも聞いたことがない。


「人聞きが悪いなぁ。私は『進行管理』だよ。

 カサルちゃんが言ってたもん。『ザラは真面目だから、ケツを叩けば叩くほど加速する』って」


「兄さんは俺を馬車馬か何かだと思っているのか!? ……否定しきれん!」


 ザラはそう言いながらも、手は止めない。止まれない。

 なぜなら、書類の処理速度よりも、外の「復興速度」の方が遥かに異常だからだ。

 

ズズズズズズ……!!


 地響きと共に、テントの外が騒がしくなる。

 ザラが血走った目でテントの隙間を開けると──そこには信じられない光景が広がっていた。


「……は?」


 数時間前まで瓦礫の山だった区画に、整然とした「青い商店街」が爆誕していた。

 カサルの放った『全自動建築人形』たちが、不気味なほど統率の取れた動きでコンクリートを吐き出し、まるで積み木遊びのように建物を量産していく。


「早すぎる……! 俺がトイレに行っている間に、パン屋と鍛冶屋が完成しているだと!?」


「あー、東区画の整備も終わったみたいだね。はいコレ、完了報告書」


 ゾーイが新しい紙束をドンと置く。


「ま、待て! 堤防の補修はどうなった!

 あそこは地盤が緩いから、俺が現場に行って指揮を──」


「ん? それならもう、ウチの従僕たちが埋め立てたよ。

 カサルちゃんが『土が脆いなら、岩盤ごと焼き固めればいい』って、魔道具で地形ごと変えちゃった」


「なん、だと……」


 ザラの口から、万年筆がポロリと落ちた。

 地形を変えた? 焼き固めた?

 俺たちが数年かけて、土嚢を積み、杭を打ち、雨の日も風の日も守ってきた堤防を……一瞬で?


(……む、無機物に侵食されている!!)


 ザラの胸中に、義憤のような、しかしどこか乾いた笑いのような感情が湧き上がる。

 兄の連れてきた人たちは確かに有能だ。

 田舎者の自分とはどこか違う。


 都会は凄い、それは何となく心の中にあった。

 だが、これほどとは。

 自分が必死に守ってきた領地を、兄は「遊び場」のように軽々と作り変えていくのを見て、ざわざわと胸の内が騒ぐ。


「……俺、いらなくないか?」


「え? なに急にネガティブになってんの? キモ」


えー、と引きながらグラスに入ったオレンジジュースをストローで飲むゾーイ。

口を窄めて飲むその姿は、貴族令嬢にも引けを取らない上品さを兼ね備えている。


「うるさい! 事実だ!

 現場は魔道具、資金は変な商人、それで指揮はあの兄さんか!?

 俺に残された仕事は……この『判子押し』だけじゃないかァァァ!!」


 ザラは頭を抱えて机に突っ伏した。

 圧倒的な組織力を前に、凡人の努力が霞んでいく。

 だが、その姿を見たゾーイは、サングラスをずらして呆れたように言った。


「バカだなぁ。……その『判子』が一番大事なんじゃん?ほら、とっとと手を動かす」


どんな計画であろうと、領主が納得して判を押さなければ始めることはできない。

もし勝手に初めて判が貰えなければ、カサル達のやっていることは違法行為だ。

それに判をして『許し』を与えているのは紛れもなく、ザラの裁量によるものだった。


だからザラにしかできない『判子』が彼が一番この領地に貢献しているし、重責を負っているのもザラで間違いなかった。そんな青年に喝を入れるようにゾーイが扇子でピシャリと叩くと、ザラは再び動きだす。


「うぉぉぉぉぉおおおお!!手を動かすだけなら負けんぞぉぉぉぉぉ!! 」


無駄に一生懸命に手を動かすザラを見て、ゾーイはくすくす笑いながらそれを眺める。


「そうそう、それでいいの」


 だが、三分と経たずにザラの動きがピタリと止まった。


「……だめだ! 耐えられん!」


 ガタッ! と椅子を蹴り飛ばし、ザラが立ち上がる。


「え、はやっ? トイレ?」


「違う! 『現場』だ!

 紙の上だけの復興なんて、俺の肌には合わん!

 俺はこの目で見て、この肌で風を感じて、その上で判を押したいんだよぉぉぉ!」


 言うが早いか、ザラは机の上の「未決裁の書類の塔」をガシッと抱え込んだ。

 その量、高さにして五十センチ。重さ数キロ。

 それを首掛けバインダーに置くと、ザラはそれを首に掛けた。


「ちょ、えっ……?」


「ゾーイ! ついて来い!

 これより『移動式・青空執務室』を開設する!!」


バインダーを首に掛けたザラは、書類に判を押しながらテントを飛び出した。


ザラの暴走に、ゾーイはどこぞの天才の影がちらつく。

そう言えば、ザラ(コイツ)の兄はカサル(アレ)だったと。


「は!? ちょっと無理だって!?」


 ドン引きするゾーイを尻目に、ザラの足は止まることを知らない。

 そして外に出た瞬間、ザラの目に飛び込んできたのは、カサルの発明品が暴れまわる「未来の工事現場」だった。


「な、なんだあれはーッ!?」


 目の前を、巨大な円盤状の機械が猛スピードで横切っていく。

 カサル製・道路舗装マシン『地均し君(フラット・ローラー)』だ。

 そいつが通った後には、凸凹だった泥道が、鏡のようにツルツルの石畳に変わっている。


「は、早すぎる……! だが滑るぞこれ!

 馬が転ばないように表面に溝を掘れ! ……よし、承認(スタンプ)ッ!!」


 ザラは歩きながら、抱えた書類の該当ページを器用に開き、バァン!! と判子を叩きつける。

 インクが乾く間もなく、次の現場へ。


「次はあっちだ!」


「ちょ、待ってよー! 歩くの速いって!」


 ハイヒールのゾーイが小走りで追いかける。

 次に二人が見たのは、畑の再生現場だった。

 そこではカカシのような形をした自動人形が、両手からマシンガンのように種を乱射していた。


 バババババババッ!!


「うわぁ……。種まきっていうか、制圧射撃?」


「乱暴すぎるだろ兄さん!!

 ……だが、着弾地点の深さは均一……だと……!?

 悔しいが完璧だ! 文句のつけようがない!

 味も見ておこう……ペロッ…………ムッ!

 肥料の配合比率だけ修正! ……承認(スタンプ)ッ!!」

 

 バァン!!

 ザラは止まらない。

 川の護岸工事(魔導コンクリートで焼き固め中)、倒壊した風車の再建(『全自動建築人形』で持ち上げ中)。


 次々と現れる常識外れの光景に、「なんだこれはー!」と絶叫し、驚愕し、それでも即座に改善点を書き込んで判を押していく。


 だが、その道中。


 復興作業中の領民たちの話し声が、ふと耳に入った。


「……やっぱカサル様はすげえな。あんな魔法みたいな機械、どっから持って来たんだ?」


「ああ。ザラ様も必死に頑張ってくれてるけどよぉ……やっぱ『華』があるのは兄貴の方だよな」


「バカ殿だと思ってたけど、いざという時に頼りになるのは、あの底抜けの明るさかもしれねえなぁ」


 悪気のない、しかし残酷な本音。

 ザラの足がピタリと止まる。


「……」

「あ、ザラ……」


 ゾーイが気まずそうに声をかけようとした、その時だ。


「うぉぉぉぉぉん!! 分かってるわチクショー!!」


 ザラは空に向かって号泣した。

 それはもう、話していた領民がギョッとするほど大きな声で。

 そして目から滝のような涙を流しながら、それでも手元の書類にはバァン! バァン! と正確無比なリズムで判子を叩きつけ続ける。


「兄さんはバカだ! 世間知らずの道楽者だ! 悪い大人に騙されてるだけだ!

 そんなこと俺が一番知ってる!!

 ……だけど、悔しいが……あのバカの行動力が、今みんなを救ってるんだよなぁああ⁉チクショーメー!!」


 涙でインクが滲みそうになるのを、超高速のフーフー(息)で乾かしながら、ザラは泣きながら走る。


「俺は真面目にやってきたのに! 勉強も剣術も努力したのに!

 なんでドレス着てヘラヘラしてる兄さんに負けてるんだよォォォ!

 畜生! 承認! 承認! 全部承認だコンチクショォォォ!!」


 その背中を見ながら、ゾーイはサングラスをずらした。


(……へぇ。ただうるさくて暑苦しい人かと思ったけど)


 カサルの「冷徹な技術」に対し、ザラは「人間のための修正」を加えている。

 そして何より兄への劣等感を抱えながらも、領民のためにプライドを飲み込んで判子を押し続けるその姿は──ある意味で、カサルよりもタチが悪い(頑固だ)


「……意外と、いいコンビなのかもね」


「何か言ったか秘書代理!! 手が空いてるなら汗を拭け! 滝汗で前が見えん!」


 ザラの言動に、貴族というのは全員こうも強がりで身勝手なのかと、ゾーイは乾いた笑みを浮かべた。


「勝手に秘書にしないで。……はいはい、ハンカチ」


 文句を言いながらも、ゾーイは楽しそうにザラの後を追う。

 破壊された領地を泣き顔の領主と場違いなファッションの少女が駆け抜けていく。

 その足跡が新しい街の道になっていくのだった。

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